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5 美女の待つ館

前回のあらすじ

 葛西(ミノリン)が連環の腕輪を欲しがるので渡すことになった。

煌びやかな装飾が施された豪華な椅子が一脚。玉座のような威厳を放つ一品だ。

その袖には鮮やかな色彩。赤、緑、紫に輝くフルーツが盛られた籠が置かれている。


金糸による刺繍で縁取りされた、若草色のローブには襟元と袖口を中心に宝石がちりばめられている。

その装飾に負けない均整の取れたプロポーション、細くつり上がったまなざし、そこに収まった緑の瞳。

神々しいまでの様相を表している。


扉を開けると、部屋の真ん中に赤い絨毯が引かれ、突き当たりの玉座にその女性は佇んでいた。

両腕にいくつも付けられた指輪や腕輪、耳に輝くイヤリング、胸の中心で輝く大きな宝石。そのどれもが高価な魔道具のようだ。

あくまで楚々として、煌びやかな装飾が嫌みとならないバランスを保っている。

近づくのも躊躇われる絶世の美女だ。


「よくぞ参られた!」


ほっそりとした体からは想像できない張りのある声に、我々はぴたりと足を止めた。

ふと横を見るとルニも葛西もその宝石類に目が釘付けだった。

僕はどちらかというと、彼女の大きく開いた襟元に目が釘付けだった。


「旅の方々、此度(こたび)は、いかな用で参られたか?」

「はい!魔道具の手続きに参りました!」


おい、そこな娘!相手のペースに飲まれてますよ。

これは、ずっとこのまま行く気なのだろうか?


「魔道具の手続きとな。このダリューリ・ヤーリにそれを求めるとは、よほどの事であろう!良かろう!話を聞かせよ!」

「はっ!我々が持つ魔道具に御身の力で使用の許しを得たいのです」


おおお!頑張るな!まだ行くのか。これ。

『ダリューリ・ヤーリ』って名前だったのかこの人。

それにしても葛西がノリノリだな。


「我に頼むと高く付くぞ?」

「御身に頼むのであれば致し方あるますまい!」


なるほど!今度はそう来ましたか。

この状況は一言で表すならば……『残念』……ということになるだろう。

椅子とレッドカーペットで雰囲気を出しても、ここは先日訪れた普通の魔道具ギルドだ。

確かに装飾が立派な魔道具が幾つか並べられていてそれほど違和感は無いかもしれないが……。


「ほー。高いんですか?ダリヤさん」


全く懲りてないよね。この人。美人の無駄遣いにも程がある。

目を大きく開いてぎょっとした表情で僕を見るダリヤさん。

空気読めよという目で睨む葛西はまだ行くつもりだったらしい。

二人とも穴が開くほど見つめなくてもいいじゃないですか。


「おぬしは……あっ、せっ先日の紹介状の……おほほほ!雰囲気!そう、雰囲気作りですわ!」

「なるほど。値段も雰囲気の一端だと」

「じょ、冗談ですわ。いつもニコニコ適正価格ですわ」

「ちなみにこれも例のオギノさんの献策ですか?」

「そうですわ!彼女のアイデアは我がギルドに多くの富を生み出すのです!」

「なるほど。富ですか」

「あ、いえ、集客ということですよ。ほほほ」


彼女は安定の守銭奴だった。値段を聞くまで待った方が面白かったかもしれない。

今日はアラブのお姫様風コスプレによる値段つり上げ作戦だった。

お姫様風の美人とお話するのも悪く無いけど、ルニもいるので鼻の下を伸ばす所を見せる訳にも行かない。


「ゴホン……ご用は魔道具の認証とのことでしたが、何をお持ちですか?」

「こちらの、彼女が持っている【パーティ】効果のある腕輪です」

「あ、これです!」


ダリヤさんは無かったことにしようとしているが、服装と台詞が全然あってなくておかしい。

クリスマス前のスーパーのレジで美人のバイトのお姉さんがサンタクロースの格好をしているようだ。

そんなダリヤさんに葛西が連環の腕輪(バングル)を見せた。


(しば)しお待ちを」


ダリヤさんは、装飾がゴテゴテしていて立ち上がるのが大変そうだった。

彼女はジャラジャラ言わせながら立ち上がると、一瞬で先日見た女性教師風に着替えた。

おお!まさかの【イクイップ】ですか?


「それは【イクイップ】!ってことは【インベントリ】も?」

「ええ、幸いに長寿種族に生まれましたので、練習時間は一杯ありましたからね。頑張って身につけましたのよ」

「エルフちゃん凄いねえ!」

「伝道師オギノの文献によれば商売のためには欠かせないという情報でしたから!」


またオギノさんか。

僕も【インタープリター】習得のために大変お世話になりましたけど。なんだか釈然としない。

あ!【インタープリター】!彼女には聞いておかないといけないことがある。


「も、もしかしてダリヤさんは【インタープリター】も覚えてらっしゃったりしますか?」

「【オギノメソッド】の難解な詩は流石に我々の手に余りますわ」

「そうでしたか。でもプレイヤーだったらレベル4まで納めてる人は多いんですよね……」

「いいえ。異邦人の方々には馴染みのある詩のようですが、レベル2程度で断念される方が多いですね」

「そうですか」

「その右手は?いえ、なんでもありません」


表面は平静を取り繕ってみても、思わず右手に作ってしまったガッツポーズは隠しきれなかった。

黙っていて欲しいという気持ちを込めてじっと見つめたら何か通じたようだ。

良かった。これは良いことを聞いた。

【インタープリター】は現地の方々にもプレイヤーにも難しいということは、記念硬貨の秘密は暫くは守られそうだ。


「そんなことより!腕輪を使えるようにしてくださいよ~」

「はい。それでは手続きしますね。何か身元を証明するものはお持ちですか?」

「身元って……これで良い?」


そうだった。葛西の言うとおり、ここを訪れた本題はそれだ。

葛西は【冒険者カード】を取り出している。一般的に身元を証明すると言えばこれになるだろう。


「申し訳ありませんが、それだけではこの仕事、受けかねます」

「え~?どういうこと?!」


品物を持ち込んだら簡単に受けてくれると思ったらそうではないようだ。

ダリヤさんならお金になりそうならなんでも仕事受けそうな印象だったけど、意外とちゃんとしてるなぁ。


「ユーキさん。父上に頂いた書状を提出していただけますか?」

「あ、はい。……これですね」


僕がバタバタする前に【森崎さん】が手の中にルーファスさんの紹介状を出してくれた。

そういえば、ビガンの町のロベール貴金属店でもこれを提示したんだった。そしてすぐ返してくれたのを忘れていた。

僕が紹介状を手渡し、ルニは【冒険者カード】を手渡していた。


「ほう、なるほど。こちらのお嬢さんのお仲間ということですか」

「はい。ビガンの町、剣術道場が娘、ルニートと申します。

こちらのミノリン殿はこれより行動を共にするため腕輪の登録をお願いします」

「いいでしょう。身元については申し分ありませんね」


紹介状を確かめると大きくうなずき許可が出た。

ミノリン殿という響きの違和感が凄い。ルニの名前の後だと尚更だ。

丁寧に封筒に収め直すと紹介状は再び僕の手元に返却され、すぐに回収された。


個人認証するための魔道具はロベールさんの店と同じ物だった。

黒い大きなプレートの真ん中に腕輪を置き、その両側を挟むように葛西とダリヤさんが掌を置いた。


「森の民ダリューリ・ヤーリが告げる。彼の者にその力を解放せよ!……承認!」


ピッと言う音と共に腕輪が一瞬光った。認証がされた証だ。

それにしてもダリヤさんは演技がかっているなぁ。これが素なのかな?

ちなみにさっきの作業はロベールさんがやっていたときは『承認』と言うだけだった。

両手で厳かに腕輪を受け渡すダリヤさんから同じく両手を恭しく添えてそれを受け取る葛西の二人。

どちらも楽しそうなので野暮なことを言うのはやめよう。

二人ともドヤ顔で、チラチラ僕の方を見るのは何だろうか。


「承認は成されました。費用は10万ヤーンからとなります」

「へ~結構するんだね」

「へ~10万からですか」

「はい。こちらとしては10万ヤーンいただければ十分ですが、お気持ちとして多く頂くケースが……」


葛西に向かって手続き費用を述べるダリヤさんも演技がかってた。

横から値段を確認する僕の声に一端返事をした後、僕の顔を見て急に言い淀んだ。

おい!またか!僕のこと忘れていて何時もの調子だったということか?

そういうことですか。分かりました。


「なるほど。これは町長のフグスタリさんと相談した方がいいかもしれませんね」

「ちょ、ちょっと待って下さい!ちょっとした間違い、そう間違えちゃっただけですわ。テヘ。費用は3万ヤーンからでしたわ」

「ビガンの町では1万でしたね。腕輪を購入したサービスという側面もあったと思いますが」


ダリヤさん。ものっ凄い引きつった顔でこっちを見るのをやめて下さい。

完全に美人が台無しになってますよ。


「コホン。……のところ、高名な方の紹介状もありますので、1万ヤーンからで結構ですわ」

「から……ですか?」

「から……ですわ」


全くブレないな。稼げる余地だけは残しておくつもりですか。

商人の鏡と褒めてあげたい。ここが魔道具店ならば。

ここが魔道具ギルドで、どっちかというと職人さんの拠点だってことを忘れそうだったよ。


「あははは。ダーリちゃん面白いねえ。じゃー最初言ってた10万にしといてあげる!」

「私のことはダリヤとお呼び下さい」


せっかく適正価格に戻したのだが、葛西がそれで良いならまあ良いか。

二人はニコニコしながら決済処理を済ませていた。


実際、僕も手元の所持金を少し持て余し気味だ。

物価が高い地域があるのかもしれないので、無駄遣いをしようとは思わないけれど、余裕は十分にある。

定価が存在しないこの世界だが、1万が10万でも困ることはないだろう。


「それじゃ装備するよ!」

「ええ、どうぞ」

『ミノリンがパーティに加入しました』


承認前にはサイズが大きくて、はめてもすぐに落ちそうだった腕輪が葛西の腕にぴたりと収まっていた。

不思議なもので魔道具である腕輪は滑り落ちたりせずにピタリと収まる。

僕も【魔力操作】の腕輪と【パーティ】の腕輪を同じ左腕に付けているけどジャラジャラとぶつかったりしないのでありがたい。


葛西がニヤニヤしながら何度も腕輪触って確かめている。

魔法のアイテムを身につけるっていうのは確かにテンションが上がるよね。


すいません。予約投稿の設定を間違えてました。

次話「6 スキル魔石の輝き」は12/5(月)の予定です。

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