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2 スキル習得の対価

前回のあらすじ

 町を離れる理由を探して冒険者ギルドのクエストを探るも不発

「おう、ユーキ殿。朝から精が出るな」

「スールさんは戻ってますか?」

「おう居るぜ、呼んでくるからちっと待ってな」


翌朝早くに冒険者ギルドにやってきた。

ルニが作ってくれた朝ご飯はきちんと食べてから来たので常識的な時間……のはずだけど、髭人(ドワーフ)は時間にルーズだからなぁ。

お酒で潰れるということは滅多に無いみたいだから二日酔いということは無いだろうがどうかな?

そんなことを考えていたら本当にすぐに出てきてくれた。スールさんすいません。


「おう、連れてきたぜ」

「おお!ユーキ殿。何度も足を運んで貰ったみたいで迷惑掛けたな」

「いえ、そんなことはありません。それで例のスキル魔石が出来たのですが」

「おお!待っておったぞ!」


作ってはみたものの忘れられていたらどうしようと思ったが、余計な心配だったようだ。


『【森崎さん】お願いします』

『承りました』


物品収納は安定の【森崎さん(クローク)】だ。

【インベントリ】を使おうかなと思った瞬間に収納されるから、凄いありがたいけれど選択の余地が無い。

出そうと思っただけで出してくれるんだけど、収納の精霊らしいのでなるべく丁寧に対応している。

【冒険者マニュアル】には記述が無かったが【精霊魔法】とかもあるんだろうか?


「【飛剣術】の魔石です。どうぞ」

「おお!コイツが!」


掌の上に例の【飛剣術】のスキル魔石を出して貰って、それをスールさんに渡した。

スールさんは魔石を見つめながら少し厳しい表情だ。【指導】で酷い経験をしたことを思い出しているのかも知れない。

スキル魔石の場合、無理なら習得出来ないだけで酷いことになったケースは無いとダリヤさんも言っていた。

ダリヤさんの保証だとちょっと心許ないけどきっと大丈夫だろう。


「コイツであの武器が飛ぶ武術が得られるのか……こいつはやけに明るいがそういうものか?」

「え?大体こんな感じですよね?」

「そ、そうか。それでは早速……」


右手に魔石を持ち、じっと見つめるスールさんからゴクリと生唾を飲む音が聞こえる。

意を決した表情となったスールさんは一息にその魔石を飲み込んだ。

どうだろうか?覚えられたんだろうか?

スールさんは難しい表情をしてこちらを見た。


「なん……どういうことじゃこれは!」


どういう?それを教えて欲しい。

覚えられたの?駄目だったの?それが先だと思うんですけど。

うっかり違うスキルを納めてしまった?いや、【ステータス】を見る限り【飛剣術】の魔石となっていたのでそれは無い。


「覚えられたんですか?」

「おう!覚えた!覚えたんだが?」

「え?なんかありましたか?」

「いきなりレベル2になったんだが、こいつはどういうことだ?」

「へぇ、そういうこともあるんですねえ」


これまでに貰ったスキル魔石はレベル1になるものしか無かったし、それが当然だと思っていた。

レベル2の魔石もあるのか、ああ、そういえば、ルニが同行するきっかけになったこの魔猫(まびょう)腕輪(バングル)がレベル2だったか?

あれ?違うな。ロベールさんは両目に魔石を入れることで2レベル分になってますと言っていたのでこれもレベル1か。


「馬鹿言うんじゃねえ。こんなのは聞いたことねえぞ」

「そんなもんですか」

「そんなもん……お前さんはいろいろ変わっておるな」


それは珍しいことのようだ。それよりも、スールさんに使えるかどうかが重要だ。

覚えたということだが、【指導】ではあれだけ難航したスールさんがちゃんと使えるようになったか心配だ。


「どうですか?使えそうですか?」

「おう、なんとなく使える気がするな。ん、こいつは(つち)は駄目なのか?」

「そういえば【飛剣術】なので刃物じゃないと駄目かも知れませんね」


槍や斧は試したことがあるけれど、杖や鎚などの鈍器は試したことが無かったな。

スールさんの獲物と言えばハンマーだ。

なかなか習得出来なかったのはその辺りの影響があるかもしれない。


「ええと、斧だったら使えることは確認しているんですけど……」

「斧か、なるほど、俺も少しは使えるな。しかし……それならばソルゲイルの奴に覚えさせるべきだったか!」


うーん。もう一個あれば良いのか。

ダリヤさんからもらった分もあって空のスキル魔石はいくつかストックがあるな。

と思ったら右手に空のスキル魔石が出てきた。

森崎さんありがとう!

【飛剣術】のスキルを両手に循環させて魔石にスキルの力を込めていくと、いつものように魔石がピカピカと輝いてきた。


「おっおい!」


スールさんが何か言おうとしている。すぐ終わるのでちょっと待ってて欲しい。

もう少しかな?【指導】を習得したせいか、スキルの力を充填する作業が前よりスムーズだ。

だいぶ眩しくなってきた。そろそろ良いかな。


「はい?ええともう一個欲しいんですよね。これどうぞ」

「お、おう。ありがたいんだが……」


スールさんが魔石を受け取った後で何故か戸惑っている。

あれ?ソルなんとかさんにも必要だったんだよね?

この反応はなんだろう。


「なにか不味いことありましたか?」

「いや、不味いこたあ何も無えんだが、ちっと報酬がな……」

「報酬ですか?ええとなんかありましたっけ?」

「何かじゃねえ、このスキル魔石の報酬だ。最初にきっちりしとかなかった俺が悪いんだが……」


どうにも歯切れが悪い。

スキル魔石に使える様な代わりの魔石が貰えれば僕は特に困らないんだけど。


「フォレストウルフメイジの魔石だったんですけど、代わりが貰えれば特に問題無いですよ」

「馬鹿言うな。そんな物を代わりに出したなんて知られたら、うちのギルドの信用問題になっちまう」

「それは……知りませんでした」

「こいつはユーキ殿が直接に創り出したというスキルの貴重なスキル魔石だ。

しかも最近出来たばかりだというからには相当に希少なものだ。

俺の方では3000万ヤーンを考えとったんだが、こいつはいきなりレベル2になるもんだ。

しかも、それが2つとなると、一体どのぐらいが相場か俺には見当も付かねえな。

そういや、以前にもスキル魔石を作ったことあるような口ぶりだったが、その時の報酬は幾らだったんだ?」


ええと、幾らだったか、一つはアンネ様に頼まれたときの奴だった。

ビガンの町のギルドマスター、ガル……ガルディウスさんとかいう竜人(ドラグーン)の人から頼まれたんだった。

営業になって人の名前を覚える癖がついていてよかった。ちょっと横文字っぽい名前が閉口するがまだ大丈夫だ。


「アンネ様からの依頼で【飛剣術】と【AFK】の魔石をセットで、報酬としては【ウィスパー】の魔石と5000万ヤーンでしたね」

「なに!アンネ様からの依頼じゃと?そ、それは異界神様か?」

「ええ、そうです。ビガンの町の冒険者ギルドマスター経由の依頼でしたが」

「なんと!そうか、しかし、むむ。やはりそのぐらいか」


もう一回あったな。そうそう、あの隠蔽スキルの講師の人に頼まれた奴だ。

ゲオリックさん。そうだ、ゲオリックさんという少し口べたな人だった。


「別のケースでは【見取り稽古】というスキルのスキル魔石で、対価の代わりとして【回復魔法】の指導を受けました」

「剣術道場にて教えていると言うておったスキルじゃな。そいつも魔石に出来るということは……」

「あ、ええ。そっちも僕が閃いたスキルですね」

「【回復魔法】か、そのような代わりになりそうなスキルとなると……講座で教えとる以外じゃ【土魔法】や【火魔法】ぐらいか」

「【火魔法】と【土魔法】は覚えてますね。レベルが2と1ですが」

「お前さんは本当にいろいろ持っとるな。だが、そうなると、うーむ」


スールさんが腕を組んでうんうんと唸っている。

報酬か。そうそうもう一つの相談の方をぶつけてみよう。


「ものは相談なのですが……冒険者ギルドにある転移陣を使える様にしてもらうのを報酬としてもらう訳には行かないのでしょうか?」

「なんじゃと。転移陣か!うーむ」


うーん。あまり反応は良く無かった。

バーラさんは『ギルマス決裁』と言っていたので、スールさんの一存で決まるならいけそうだと践んだのだけど。


「転移陣を報酬にできるのであればそれも良かろうが……うううむ。

かといって、ヤーンでの支払いとなると……う~~~~~む」


段々スールさんが顔色が悪くなってきてしまったので今日は撤退することにした。

まずは、魔石を渡せただけで良しとしよう。

どうにもうまく行かないものだ。


次話「3 魔界からの便り」は11/30(水)更新予定です。

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