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1 ロックバルトを離れる理由

3章までのあらすじ

・暇を持て余したユーキはSCWのβテストに参加し【飛剣術】を発現させる(1章)

・本サービスが始まり剣術道場にて発現させた【飛剣術】【見取り稽古】を指導する毎日(2章)

・新たなメダルを求めてロックバルトに。祭モチーフのメダルを作ったら酷い事実が発覚(3章)

「【念動魔法】は、最高だぁぁ――――ッ!!」


僕は無知だった。これまでこんな素晴らしい物の価値に気づかなかったなんて!

おっと、落ち着こう。興奮のあまり、思わず大きな声が出てしまった。


僕は今、造幣ギルドに展示されていた、硬貨のコレクション鑑賞を楽しんでいる。

一階に展示してあった歴代の[剣聖]ガーウェイ様のオズワルド銅貨コレクションの額縁を部屋に持ってきて鑑賞しているのだ。


現実逃避?ええ、そうです。

僕が今一番したいことは、一刻も早く、そして後腐れ無くこの町を離れることです。

わざわざ家まで用意してもらったのでゲーム中とはいえ、すぐに出立すれば逆に目立つ事になるのでそうはいきません。

心がザワザワするので鎮めるためにも趣味に没頭するのは大切な事です。

葛西以外で古代文字について言ってくる人は今のところ誰も居ないけれど……。


今はこの歴代の匠によるデザインと工夫を堪能しよう。

【念動魔法】の力があれば手を触れること無くコレクションを見ることができるのだ!

コレクションに触れる時には綺麗な手袋を使うのは定番だが、手袋だって綺麗とは限らない。

油分が布に浸透して若干ながらも腐食するという可能性もある。


この世界には洗浄魔法があるけれど、ミスリルなどの高位魔法合金が入ってない金属は手で触れると若干ながらも劣化するだろう。

10円玉にレモン果汁をかけるとピカピカになるあの汚れだ。

酸化した部分を削り取るようなその行為はコレクターとしてはなるべく避けたい。


さらに、手で保持する必要が無いので、自分の指が邪魔にならずに細かい細工をじっくりと見ることが出来る。

鍛えられてちょっと増えてきた魔力もこうやって使われて本望だろう。


【念動魔法】の代わりに【金玉飛ばし】を使ってもいいんじゃないか?そう思う人も居るだろう。

うん。僕もそう思ったので練習で作った円形を取りだしてやってみたのだが……。

レベル1なのに凄い勢いで硬貨が飛んでいきそうになりとっさに軌道を調整して机に戻すのが一杯一杯でした。

静から動への変化が速すぎて、ゆっくり動かすというのが大変なのだ。

攻撃手段としては正しいのだろうが、日常使いには厳しいスキルだった。

改めて【念動魔法】のすばらしさが際立つ。


「ユーキさん、どうしましたか?」

「あ、ええとコレクションを見ていて少し興奮しちゃいまして。ハハハ」

「本当に硬貨が好きなんですね」


僕の叫び声に心配して部屋に入ってきたルニに母親のような目で見られててしまった。

彼女は最近振る舞いがとても女性らしく、料理の腕もぐんぐん上げていて、とても助かっている。

反対に初対面の頃の武士っぽい感じは、なりを潜めている。


優しい視線にほっとするが、僕のこの感動は伝わらなかったらしい。

髭人(ドワーフ)の人も興味の多くが作り出す方や使うことにあって、コレクションすることにあまり興味が持てないみたいなのでこの感動を共有するのは難しいだろう。

ビガンの町のロベールさんのようなコレクションを愛でる感動を共有する人が欲しい。


僕はこの町に来てやりたかったことに、ようやく時間を使えるようになった。

そのはずなんだけれど、どうにも落ち着かない。

男魂祭の秘密を知ってしまったせいだ。葛西のせいだ。いや、自分でやったことか……。


【念動魔法】を駆使して触らずにメダルを額縁に戻していく。

最後に【光魔法】の【光洗浄】で綺麗にすることも忘れない。

【生活魔法】の【洗浄】でも良いんだけど、コレクターとしてこういう小さなこだわりは譲れない。


「ルニは今日の予定は?」

「冒険者ギルドに行こうと思うのですが、ユーキさんは?」

「僕もスールさんの頼まれ物を渡しに行こうかと思って」


スキル魔石を渡しに行くタイミングがうまく合わなくて、まだスールさんに【飛剣術】の魔石を渡せていないのだ。

葛西に言われたことのダメージは大きく、外出を少し避けているのも理由の一つだ。

未だに町は騒ぎになっていないので、真実は広まっていないようだが、確かに葛西が言っていたように時間の問題だよな……。


「ユーキ殿、ルニート殿お出かけですか?」

「ええ、ちょっと冒険者ギルドまで」

「いってらっしゃいませ」


僕は一階の展示スペースに額縁を戻して、外に行こうとしたら、カウンターに座ったホッズさんが見送りをしてくれた。

最近ではここでも記念硬貨の販売を始めている。

記念硬貨を売るならば、元造幣ギルドこそは相応しいと町長に言われて反論出来なかった。


売り物は記念硬貨のバラ売りにセット売りに、町長に納めた額縁付きのセット売りだ。

ヴォルドン様のオズワルド銅貨のレプリカの販売も再開した。

最近では町長に納品した時のプレートも売って欲しいという要望もあるが、それは鍛冶ギルドと協議中らしい。

なんだか心が痛い。


───────


「ギルマスかい?ちょっと【ワイバーン】討伐の件でちょっと報告に出かけてるぜ」

「そうでしたか。なかなかタイミングが合わないですね」

「今日一杯かかると言うとったから夜には戻ると思うけどな。急ぎか?」

「いえ、ちょっと頼まれた仕事が上がったんで渡そうかと」

「ああ!聞いてるが……ギルマスが戻ったときの方がいいわな。また来てくれるか」

「ええ、問題ありません」


バーラさんも最初はちょっと怖い印象だったが、最近ではだいぶ慣れた。

言動は荒っぽいが、言葉の端々に女性らしい気遣いが感じられるのは僕が髭人(ドワーフ)に慣れたせいだろうか?


記念硬貨の件もあって、ここの所、この町を離れる機会を探っているのだけど、なんとなくクエストが終わらないのもあって町を離れにくい。

町を離れにくいのは町長から旧造幣ギルドの建物をもらってしまったのもその一因だろう。

少しの期間でも町から離れるような依頼があれば、僕の気持ちも少し落ち着くだろうか?と思ってクエストを探している。


「ルニ、討伐系はどう?」

「あまり芳しくありません」

「護衛と収穫も坑道の中で、深い階層のものは無いね」


僕はこの町を離れる理由を、ルニは手応えのあるクエストを探しているのだが中々いいものが無かった。

出来るなら、葛西が戻ってくる前にこの町を離れたいのだけれど、丁度良いクエストが無い。

支援系は高位の職人向けの物が多くて、各種ギルドに行く方が早く冒険者ギルドにはほとんど依頼が無かった。

遠くの町に行くような護衛クエストや、遠くの町からの支援要請のクエストもたまにはあるようなのだが、現在は張り出されていなかった。


そもそも、掲示されている依頼の受領条件が冒険者レベル2程度のものが多かった。

レベル3で坑道の中の護衛依頼があるぐらいで、レベル4以上の依頼が無かった。


「冒険者レベル4の依頼って、やっぱり無いんですかね?」

「ああ、ちょっと無いねえ。近回りの魔物討伐や坑道内の護衛なんかもレベル3ぐらいまでだねぇ」

「腕試しするのに丁度良い魔物が居れば良いのですが……」

「そいつも居ないねえ。【ワイバーン】を討伐してもらったおかげで平和そのものだよ」


ルニももう少し歯ごたえのある敵が欲しいようだ。

女性らしい振る舞いが増えた今もそういうところは変わっていない。

坑道も深い階層になると、もっと歯ごたえのある魔物も生息しているようだけれど、あまり表層に出てくることが無く、採掘ギルドとしても困っていないので下手に刺激しない意味でもその手の依頼は無かった。


「歯ごたえのある敵と戦いたいんじゃ、魔の領域に行くしか無いだろうな」

「魔の領域ですが……そういえばロックバルト山がその境目なんでしたよね」

「昔はそう言われとったが、今となっちゃは境目といやあ、魔境都市ヘルムートだな」

「ヘルムートですか、聞いたことがあります。多くの武人が集まるという」

「実際にはその先の城砦都市ダッカの辺りが主戦場だがな。その辺りは本当に魔の領域だと言われとってあまりお勧めはできねえな」


魔の領域は、以前ルーファスさんが居たという場所だ。

今の僕だったら少しは通用するんだろうか?


「魔の領域には【ワイバーン】ぐらいの魔物が出てくるんですか?」

「馬鹿言っちゃいけねえ、あの程度じゃねえぞ。高弟様の何人かが命を落としたという場所だ。だが、おまえさん達なら少しは活躍できるかもしれんな」

「そうですか」

「挑んでみたいですね」

「だが、ここからじゃ結構な遠出になるぞ。この山の先を歩きで行く奴は最近じゃ殆どいねえな」

「普通はどうやって行くんですか?」

「山を下りてビガンの町から港に出て海周りだな」

「それは結構かかりそうですね」

「ヘルムートまで行くだけで数ヶ月は見込んどいた方がいいだろうな」

「結構な長旅ですね」

「再びユーキさんと旅ですか、それもいいですね」


ルニは簡単に言っているけど、絶対にそれハードな旅程になる奴だから!

これは簡単には決断出来ないな。

この町を離れるとなったら、エイギールさん達とも相談した方がいいだろう。


「ただ、別の手も無いわけじゃねえ。こいつなら簡単だぜ」

「別の手!そんなのあるんですか?!」

「そんな変わった物じゃねえぞ。誰でも知ってるギルドの転移陣だ」


そういえば、神様や高弟のみなさんはこれを使って移動するって言ってたな。

ファンタジー過ぎてその存在をすっかり忘れていた。


「それなら行って帰っても簡単そうですね!」

「おう!すげえ便利な代物だ!」


さっと行ってこれるならちょっとほとぼりを冷ますのに丁度良い!

よし、遠くの町まで行ってみよう。

エイギールさんからメダル収集に向いた町を幾つか紹介してもらっているから行き先には事欠かない。

魔境都市ヘルムートに水の都ランス。王都タルヤード……はちょっと近いか。

すぐ戻れるなら、行く直前にエイギールさんに【ウィスパー】で連絡すればいいよね。

さあ行こう!すぐ行こう!


「じゃあ!使わせてください!代金は幾らですか?」

「代金はたいした額じゃ無えんだが……」


あれ、何か使う上で問題があるんだろうか?

もうすぐに行きたいんです!

葛西の奴が戻ってくる前に是非!


「使うと体調を損なうとかそういうことでしょうか?」

「いや、そういうことじゃ無え。……あんたらは実力は十分だが、条件に会わねえから使わせてやれねえな」

「ええええ!使えないんですか?」

「まぁいろいろ条件があるんだが、結局ギルマスの決裁だからそっちも明日以降だな」


ギルドマスター決裁ということはスールさん次第で可能性があるのか?

結局何をするにしてもスールさんと1度合わないといけないようだ。


渋々諦めて明日もう一回来ることにした。

次話「2 スキル習得の対価」は11/29(火)の予定です。

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