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28 所変われば教えも変わる

前回のあらすじ

 エイギールさんとお酒を飲んでメダル作りを指導してもらえることになった。

スルーズさんが用意してくれた料理とお酒はあのあと美味しく頂いた。

ちょっと変なテンションのエイギールさんはこう言っていた。


『造幣技術には【金属加工】【意匠】の2つのスキルが欠かせません!ハイ!

これは冒険者ギルドの講習会で覚えられます!ハイ!

最初はそちらを習得するところからお願いします!ハイ!』


それらの講習会は毎日開催されてるということだったので、今日は朝から冒険者ギルドに向かう。

【解毒】の活躍でお酒は残っていないけれど、遅くまで飲んでいたので朝が厳しかった。

【生活魔法】の【覚醒】の力に助けて貰って寝床から這い出してみると、ルニはその前に日課の鍛錬を済ませていた。

昨日は途中から酒場で合流して、寝に行ったのは同じような時間だから、彼女は凄いと改めて思う。


「おう!ユーキ殿、良く来たな。ギルマスはちっと出てるぞ」

「あ、大丈夫です。今日は別件なので」

「そうかい、それじゃさっさと冒険者カードをよこしな」

「え?なんでしたっけ?」

「なんでしたっけじゃねえよ。【ワイバーン】討伐クエストだよ。ここで受けていっただろ」


出会うなりバーラさんがクエスト報酬について切り出した。

そういえば討伐依頼を受けていたんだった。隣の広場には既に【ワイバーン】の死体は無かった。

終わったんだなと思っていたが、元々は受付していたらスールさんが来て、同行することになったんだった。

スールさんの印象が強すぎたし、討伐から帰ってすぐにパレードで宴会で経緯をすっかり忘れてた。


「お願いします」

「討伐報酬は全部で1億ヤーン以上あったんだが、3人で分けて他にも払うんでアンタの報酬は3000万ヤーンだ」

「え?!あの、もうギルドハウス一つもらったんですけど?」

「あーグスタの親父がなんかごちゃごちゃやってる件だろ?それとは別の通常の報酬だ。他の奴はもう受けとっててあとはおめえだけよ」

「え?ルニも?」


隣のルニにを振り向くと大きくうなずいた。

バーラさんがピロンとカードを処理してカードをこちらに突き出す。


「そっちのお嬢は2000万ヤーンだったか。それで冒険者レベルがユーキ殿と同じ4に昇格しとったな。

金額はうちのギルマスが中心になって関係者と調整した結果だ。ありがたくもらっときな」

「はい。ありがたく」


カードを名刺をいただく時のように両手で受けとり、残高を確認する。確かに増えてます!

町にとっての【ワイバーン】討伐の重みを改めて実感した。


「ところで、今日は何の用なんだ?」

「こちらの講習会を受けようと思いまして」

「おう、講習会か!ルニート嬢はご存じだが、そこに張り出してあるからよく見て受けとくれ。あと、会場は裏の建物もあるから良く見ておけよ」


バーラさんが言うように昨日からルニは【生活魔法】を覚えるために講習会に通っているのだ。

【水洗浄】で紙を駄目にしちゃったのを気にしているらしい。

今のところ習得出来ていないが、調べたらちゃんと経験値が入っていた。

講師の人はスキルを使用するよりも説明を重視しているので、【見取り稽古】がうまく使えないそうだ。

ルニは今日も【生活魔法】の講習会を受講するのかなと思ったのだが…。


「僕は【意匠】スキルなんかの講習会に出ますけど、ルニはやっぱり【生活魔法】ですか?」

「いいえ、今日はユーキさんと同じ講習会を受講させていただこうと思います」

「これ、完全に僕の趣味なんですけど良いんですか?」

「はい。ユーキさんが力を身につけるその瞬間を目にしたいのです」

「そ…わりと普通だと思いますけど」

「いえ、【調理】の講習会は私にとって忘れられない思い出ですし、先日【指導】を習得された際も、とても感動しました」


ルニの期待が時々痛い。

習得中のリストにあった【指導】を覚えたので、今のところ新たなスキルを生み出す気配は無い。

とても普通の講習会風景になるとしか思えないんだけど。


ふう。

気を取り直して講習会の予定表を見た。

午前中は【生活魔法】【調理】【金属分解】【金属加工】の4つで、午後の講座は【ウィスパー】【解体】【採掘】【意匠】だった。

なにこれ、すごい偏ってる!鍛冶の町だからって開き直ったラインナップが面白い。

週末の上級講座は……あれ?週末の講座が書いてない。


「バーラさん、週末とか、上級者向け講座とか無いんですか?」

「あ~。上級者向けか。うちの町じゃ上級者ってのはほとんど職人だからね。上級者は鍛冶ギルドと採掘ギルド、あとは魔道具ギルドで学ぶのさ」

「なるほど。戦闘技術はどうするんですか?」

「そいつはちょっと頭が痛い問題でね。今は狂獣殿の道場の武術指導に頼りになるばっかりだね」


それじゃ、今日は通常の講座を粛々と受けようかな。

午前中の2枠はまだレベル1の【金属分解】【金属加工】を受けて、午後は【意匠】かな。

午前中の会場は、冒険者ギルド鍛錬場BとCか。これが裏の建物らしい。午後の会場はここの2階のようだ。

朝から飲んでる人の居る食事スペースの反対側が建物の裏手に抜けられるようになっていた。


冒険者ギルドの裏に行くと大きな倉庫のような建物が二つ並んでいた。

左が鍛錬場Bで、右が鍛錬場Cらしい。最初はBの【金属分解】から受けよう。

スールさんはこれのレベルが高いと戦利品が一杯回収出来ると言っていた。


開けっ放しの大きな入口の脇に黒いプレートがあったので、【冒険者】カードを翳して会場に入る。

講義代金は思って居たより安くて5000ヤーンだった。

中に人が2人いたので挨拶を交わす。


「おはようございます」

「おはようございます」

「おはよう」

「ゲッ!竜巻娘!!」


一人はちょっと変な反応だった。なんだ?

その人は髭人(ドワーフ)の男性だった。なんか、どこかで見たことがあるような気がする。

男性だから待機所に居た人では無い。山頂からワイバーンを運んでいたチームの人でも無いな。

うーん。誰だっけ。


「あ――――っ!分かった!ふんどしの人だ!」

「オイ。ユーキ殿。そいつは早めに忘れてくれ。俺の名前はバヴォール。冒険者ギルドの職員だ」

「あ、はい」


バヴォールさんは冒険者ギルドの職員で、もっと言うと【金属分解】スキルの講師だった。

普段それほど講義を受けに来る人は居ないらしく、もう一人のノインさんという同じく冒険者ギルド職員と世間話をしていたらしい。

二人は朝から酒を囲んでいたが、ルニの姿を見たバヴォールさんがさっと酒を隠した。


「今日は大丈夫なんだろうな。また吹っ飛ばされたら堪らねえ」

「先日はユーキさんに失礼があったからのこと。本日はそのようなことはありますまいな?」

「お、おう」


ルニは泰然と構えてバヴォールさんにそう言い放った。

バヴォールさん押されすぎ。なんか気まずいなぁ。


「お、よく見ればアンタら【ワイバーン】を打ち倒した町の英雄じゃねえか!ありがとな!」

「あ、え?はい」


ノインさんはふんどしチームに居なかった人だ。

ルニに対する態度を見ればそれは確かだ。あの勢いで吹っ飛ばされていればこうはならない。


「おい、バヴォール。英雄殿に教えるなんてこりゃ光栄なことだぞ。ちゃんとやれよ」

「分かってるわい。おめえも自分の講座に行きな」

「おいおい、朝から【金属加工】を受けに来るような物好きは居ねえだろ」

「ノインさんは【金属加工】の講師なんですか?」

「おう。コイツと同じく鍛冶ギルドから派遣って形で今は冒険者ギルド職員としてここで教えんのが仕事だな」

「そうですか。次の時間は【金属加工】を受ける予定なんでよろしくお願いします」

「おいおい本当か!?英雄殿に教えるなんてこりゃ気合いが入る。こうしちゃ居られねえ」


ノインさんはドタドタと隣の倉庫に向かった。

倉庫の中には僕ら3人だけで、結構ガランとしている。


「さて、まぁボチボチ開始時間だ。そろそろ始めるとしよう」

「「お願いします」」


ルニも講義が始まれば立場を弁えていた。そのあたりは道場で鍛えられた所なのかな?

バヴォールさんは手元に置かれた背負い袋に手を突っ込むと赤黒い石を取り出した。


「この講義では採掘ギルドから提供して貰った鉱石を使って【金属分解】を身につけて貰う。【金属分解】は鉱石なんかの金属が混ざり込んだ物質から金属を種類毎に抜き出すもんだ」

「「はい」」

「お、殊勝じゃねえか、まあ良い。それで、スキルを使う時はこんな具合だ」


カーンカーンと少し大きめのハンマーを取り出して鉱石を叩き始めた。

叩く度に金属が染み出してきて、プルプルと集まって大きな粒となってポトッと落ちた。

赤銅色の大きな粒と、もう一つ小さめの銀色の粒を持ち上げて見せてくれた。

坑道にご一緒したエギルさんがやっていた様子と同じだ。


「これは金槌で叩く必要があるんですか?」

「お、良いところに目を付けたな。俺たちゃコイツが使いやすいがこんなのでやる奴もいる」


そういうと、後ろに立てかけてあった棒を持ってきた。


「これは魔術の杖だ。これでこんな風にやりゃ同じ事になるわけだ」


コン、コンと軽く叩いていると同じように金属が染み出してきて、プルプルと大きな粒になってポトリと落ちた。


「叩くというのが肝なんですか?」

「まぁそんな感じだな。同僚は魔力を浸透させるのが肝って言ってたな」

「そうだ。魔力の浸透が肝だぜ」


あれ?さっき、隣の鍛錬所に向かったノインさんが戻ってきた。

何か忘れ物でもしたのだろうか。


「おめえ、自分の所はどうした?」

「おれの所は人が来やしねえからこっちに顔出したまでよ。ユーキ殿、こんな風にも出来るぜ」


ノインさんは、鉱石の前に行って腰を落とすと、鉱石に向かって交互に正拳突きを繰り出した。

見てるこっちが痛そうだけど、平気な顔をしてゴン・ゴンと殴っている。

その振動に合わせるようにプルッ、プルッと金属が染み出してきている。


「なんか思ってたよりも魔法っぽいスキルですね」

「おお!その通りよ。昔は鉱石を砕いて取り出した金属片を溶かして固めた塊に【精錬】ってスキルでゴミの方を取り出してたんだが、ある時、鍛冶神ヨハンナ様がスキルの力ならば、いっそ金属の方を取り出したらって作り出したのが【金属分解】スキルよ」


ノインさんがぐいぐい説明を始める。バヴォールさんは良いんだろうか。

まぁ僕は困らないから。良いか。


「次元神様の影響で生み出されたのが【精錬】スキルで、くず銅貨が無くなっちゃったんでしたっけ」

「お、良く知ってるな。どんどん無くなってくず銅貨の元も無くなった頃にコイツが生まれたらしいな」

「これも何千年も前の話だから俺たちも伝え聞いただけで、良くは知らん話だがな」

「俺が教える【金属加工】もこの頃生まれたんだが、その結果【鍛造】【鋳造】スキルなんかが使われなくなったらしいな」

「【金属加工】はイメージが物を言うが、それが苦手な奴のために鍛冶ギルドでは今でも【鍛造】も【鋳造】も教えてるがな」

「っと悪い、なんか話が逸れちまったな。ダハハハ」


ノインさんはもう帰る気は無いようで、そこにあった椅子に当たり前のように腰を下ろした。

隣のテーブルの上にあった金属製のカップにヤカンのような入れ物から琥珀色の飲み物を入れて飲み始めた。

バヴォールさんには気にした様子は無い。


「もう折角だから【金属加工】も一緒に習ってくか?」

「え?良いんですか?」

「構やしねえよ。こんな講座に習いに来る奴は大抵は町の外から来た奴だが、あんまり人は来ねえからな。ここに居ても鍛冶ギルドの仕事してることの方が多いしな。ダハハハハ」

「じゃ、受講料払っておいたほうがいいですかね?」

「あー、そんなの全然いらねえよ。ユーキ殿に教える機会なんてありがてえぐらいのもんだ」


この二人はずいぶんと自由だな。ビガンの町の講習会ではお目にかかったことの無い緩さだった。

これはロックバルトだと普通の事なんだろうか?


―――――――


「本当に俺たちが使う様を見るだけで良いのか?」

「はい。剣術道場でそういう指導を沢山受けましたので」

「まぁ鍛冶ギルドでも昔はそうやって人の技を盗んでたらしいけどな」


講師のお二人に実演パフォーマンスをしてもらいそれを見て学ぶことを提案してみた。

バヴォールさんが抽出した金属をノインさんが成形するという流れ作業が行われていた。

周りにカーンカーンという小気味よい音を鳴らしながらハンマーを打ち下ろしていた。


『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【金属分解】がレベル2に上がりました』

『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【金属加工】がレベル2に上がりました』


その様子を真剣に眺めていると、スキルのレベルが上がった。うん。これは順調に行きそうだ。


「ありがとうございます。凄く勉強になります」

「私もユーキさんと一緒だと何とかスキルが得られそうな気がします」


『テッテレテー!!』

『ルニートはスキル【金属分解】を習得しました』

『テッテレテー!!』

『ルニートはスキル【金属加工】を習得しました。』


そんな風に言ったか言わず彼女もスキルを習得した。

僕は【魔力視】で震える魔力を見ているが中に浸透していく様子がよく分かる。


「お前さん達はそうして見てるだけだが、スキルを習得出来たのか?」

「はい。習得できました」

「僕は元々習得していたのですが、レベル2になりました」

「ほう。なかなか目の付け所は良さそうだな」

「これはレベルが上がるとどうなるんですか?」

「こいつはどっちもレベルが上がると扱える金属が増えるな。レベル4ぐらいあると魔法金属が扱えるようになるぞ」

「ユーキ殿。この町で取れる鉱石ではレベル4でアミール、レベル5でミスリルが扱えるようになるぜ」

「俺は【金属分解】、こいつは【金属加工】がレベルが6あってな、もうちっと貴重な魔法金属なんかも扱えっからちょっとしたもんなんだぜ」


なるほど。もう少しレベルを上げると魔法金属も扱えるのか。

βテスト時代に高くて買わなかった魔法金属の鉄球を作るのも良いかも知れない。

バヴォールさんとノインさんの魔力が尽きるので、何度か休みながら何度もその様子を見せてもらった。

講習会は2枠目に入っても続けられていた。今日5000ヤーンしか払ってないけどいいのだろうか。


『テッテレテー!!』

『ルニートはスキル【金属分解】がレベル2に上がりました』

『テッテレテー!!』

『ルニートはスキル【金属加工】がレベル2に上がりました』


「あ!レベルが2になりました」

「何だと。ずいぶん早えな」


僕が幾つかレベルが上がる間も、ルニのレベルは全く上がらなかったが、ようやくレベルが2になった。

【見取り稽古】のレベルが1の彼女にはこの辺が打ち止めだろう。


『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【金属分解】がレベル5に上がりました』

『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【金属加工】がレベル5に上がりました』


「あ!僕はレベル5になりました」

「嘘だろ……レベル5。竜巻娘もレベル2かよ。俺が何年これをやってるか知ってんのか……」

「流石は町を救った英雄殿!!鍛冶方面にも才能を見せられるか!!」


段々目が死んでいくバヴォールさんと対照的にキラキラとした目のノインさんのコントラストが面白かった。

飴と鞭……違うな。ツッコミ不在のお笑い芸人コンビみたいだ。

僕の隣のツッコミ役は強力なので、彼女が本気を出さない程度のボケでお願いします。


「「ありがとうございました!」」

「おう!」

「しっかし、アンタらすげえな。こんな短時間でレベルが上がる奴を見たのは初めてだわい。ダハハハ」

「ほんとにな。俺らも負けねえようにしないとな」


最後に今日の記念にとノインさんから作業用のハンマーまで頂いてしまったので大満足だ。

講習会の最初に渡されていた加工の時に傷が付きにくく、反動を殺す樹脂らしい素材で覆われたハンマーだ。

高いんじゃ無いかと聞いたらダハハハと笑って誤魔化されてしまった。



次話「29 形を想像する力」


誤字を修正しました。

見直す時間が取れていないので今週は誤字が多いかも知れません。

感想等で指摘頂けると助かります。

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アクセス研究所
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