表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/226

25 宴の終焉を告げるもの

前回のあらすじ

 力持ちのドワーフが少人数でワイバーンを街まで運んだ。

午前中のうちから始まった宴は終わりそうもない。

昼頃にフグスタリさんが来て、一旦終わるかと思ったら。

僕が居る場所にクッションが用意され、食事が用意され、どんどんと長期化する方向が助長されている。

手元にあるジョッキも最初はアミール製のものだったがいつの間にか見たこと無い魔法金属製の立派なものに交換されていた。

仕方が無いのでルニとスールさんにも【解毒】を掛けると二人は再起していた。


最初の頃の慌てた感じは少し落ち着いて、僕も来る人とゆっくり話しが出来るようになってきていた。

話を通じていろんなことを聞いた。


「ストゥルールの坊主はヴォルドン神殿の守人の一族でな。若い頃にその役割に反発して町を出たんだが【ワイバーン】の奴に襲われた神殿を見て考えを改めたんだが、親父殿までやられたんで、ちょっと薬が効きすぎてなぁ」

「あ、親父殿?今もピンピンしとるぞ。そこで裸踊りしてるのがその親父殿じゃ」


スールさんもいろいろあったんだなぁ。


「ロックバルトの町はその昔は最前線じゃったから、名のある武人で溢れとったが、魔の領域は大きく後退して、単なる鍛冶の町となってずいぶんと経つ」

「そうじゃ、儂が若い頃にだって、この程度の魔物ぐらいズバーンと切り裂ける武人は両手に溢れる程おったんじゃぞ」

「おめえが戦ってたわけじゃあるまいに!」

「ガハハハ。違いねえ!!」


ロックバルトの町は最前線だった頃と違いその役割を変える中で、力を持つ武人が拠点を変えて戦う力が落ちてしまったようだ。


「あの狂獣殿が旋回姫をよくあんたに同行させたな?!どうやったんだ?!」

「そうだぞ。旋回姫にコナ掛けてた連中は鍛錬と称してそりゃまぁ酷い指導を受けとったが、結局許される奴はおらんかったんだぞ!」

「狂獣殿もそうだが、あの兄上が妹を大層可愛がっておってな、あの指導は恐ろしいもんじゃった」

「旋回姫にも丁度良い練習相手とばかりに鍛錬に付き合わされるばっかりだったから、まぁ同じことだがな!ダハハハハ」

「ちげえねえ!そいつらはほれ、今も旋回姫の前で飲んでるやつらよ。酷い指導だと思ったが、今じゃ町の守り手の中でもなかなかの武人になりよった」


僕が、答えに窮していると勝手に話をして、勝手に納得して帰って行った。

マイペースな人達で良かった。


剣術道場で起きていることと同じようなことがロックバルトの町でも起きていたようだ。

そういえば、お兄さんが居るんだったか、大丈夫なんだろうか?ルーファスさんは話しを通してくれるとも思えない。

それはそうと、ルニは髭人(ドワーフ)の面々にも人気があったのか。


エール酒はそれほど強いお酒では無いけれど、どんどん来る人の中には少しきつめの蒸留酒を勧める人もちらほら出てきて段々厳しさを増してきた。

【解毒】と【AFK】が欠かせない。さっきから【解毒】をルニとスールさんにも配っているが魔力が厳しい。

そのつもりは無いけれど、なんだか修行をしているようで面白い。


スールさんは【AFK】が無いので時折トイレに中座していて大変そうだ。

今も僕に流れ込んでいる【AFK】の経験値をお裾分け出来れば良いのにな。

自分の感覚を人に伝えるというのはとても難しい。

ARデバイスの操作系を直感的にしようとして僕の考えをとり入れたあの時も凄く大変だったな。


―――――――


葛西の役割理論を取り入れてARデバイスはある程度の形が固まってきていた。

AIに動作を任せる事である程度の運用は見えてきていたが、どこまでをプレイヤーが操作するかで苦労していた。


「意味が分からない!なんでリーダー機を動かしてる時に射撃機からスナイプできるの?!」

「ええと、それは逆で、射撃機を操作してるときにリーダー機を的の近くに動かした感じ?かな」

「はー。渡先輩の頭の中どうなってるんですか。一回分解して中を見たいです!!」


葛西が毎度無茶を言う。僕だって突発的に無茶をやらかすお前の頭の中を覗いてみたいよ。

そんなことは今のテクノロジーじゃ、まだまだ無理だと思う。


「頭の中か~。ちょっと覗いてみますか」


藤本が急に変なことを言い出した。

藤本は葛西の同期で、葛西の無茶にいつも付き合わされている可哀想な後輩だ。


「え、どういうことよ!?」

「渡さんの頭を分解するのは無理ですけど、視線をモニタすれば、操作系は全部トレース出来てますし、再現して体験することはできるんじゃないですかね?」


そんな簡単なことじゃないと思うけど……と思う僕の考えはあっという間に覆された。

一週間後、変な基盤がむき出しの装置を持って藤本がやってきた。


「いやぁ、操作系をちゃんと規格化しといて良かったです。問題はハードスペックだったんですけど、渡さんの操作系を再現するって言ったらハードチームが凄い勢いで盛り上がって帰して貰えなくなりましたよ。会社入ってから、一番仕事したんじゃないですかね?ハハハ」

「それ何なのよ!?」


葛西は藤本に厳しい。もうちょっと優しくしてあげてもいいと思うんだけど……。

彼女は男子に対していつもツンツンしてるからしょうが無い。

僕もよくどうでも良いことで噛み付かれる。この前は偏食を怒られたな。


「これはユーキさんの操作系を中径して体験出来る装置です。こっちに開いているモニタを繋いで、こっちに操作系を繋いで……本当は渡さんと同じくVR系のコントローラが良いんだけど、とりあえずこれでいいか。よしこれでいけます」

「は?ちゃんと説明しなさいよ」

「うーん。説明する前に体感してもらった方が分かりやすいと思うよ。実ちゃんこっちに座ってこのコントローラ持ってもらえる?」

「私は何すればいいのよ」

「何もしないでコントローラーを握っていると、こっちの操作でやってるのが分かるようになってるから」


藤本は頭の中を覗くというのを操作系とモニタを繋ぐことでそれに近い状態を作りだそうとしていた。

操作系の再現にはフォースフィードバック機能を使って強制的に動きを再現するらしい。


「じゃ、渡さんはいつものようにARデバイスを操作してみて下さい」

「わかった」


いつもやっている様にAIを相手に一戦を終えた。

AIはパターンにハマると凄く強いけど、なんか凄くアンバランスなんだよな。そこが操作する醍醐味でもあるけど。

コントローラを取り外して椅子から降りると、藤本が葛西に話しかけていた。


「実ちゃんどうだった?!渡さんの視界と操作を体験出来たと思うけど」

「……気持ち悪い」

「え?」

「……気持ち悪い」


葛西は何とか席から降りたが口とお腹を押さえて子鹿のように震えていた。

藤本が心配そうにその顔を覗き込んでいる。


「何あれ?藤本は私に何をやらせようとしてんのよ!……うぇ」

「うわあー」


酷い物を見た。藤本は体を張って機材にかからないようにしていた。あいつこういう所、本当にえらいよな。

藤本が服を着替えて帰ってくる間、みんなで掃除したが、つーんとした臭いが残っている。


その後も、バケツを準備した上で同じ体験に挑んだ藤本と渡辺課長が青い顔をして出した結論は、僕と同じ事を他の人にやらせるのは無理というものだった。

僕の操作経験のうち一部をバッサリと切り落とした物をシステムに組み込むことになった。


その装置は、僕の操作体験をシステムに組み込むために何度も体験した人達からは拷問装置と呼ばれた。

装置はそのまま封印されるかと思ったが他の人同士で使う分には全然問題無かった。

後に藤本がその拷問装置の無駄をそぎ落として、人体に有害な部分をケアして、シミュレータとして商品化した。

人の操作を人体に有害とか言うのはどうかと思ったが、あれだけ被害が出ているので文句が言えなかった。


藤本も相当な才能をもった技術屋だと思うが、いろいろ報われていない。

とある飲み会で葛西に対しての不満は無いのかと聞いたらこう言っていた。


「渡さん。あれは、我々の業界ではご褒美ですよ」

「お、そ、そうか」


業界?いや、僕たちはARスポーツ業界なんだけどきっと違う話なんだよね?

それ以来、葛西の藤本に対する扱いを気にするのをやめた。


―――――――


「おい、ユーキ殿大丈夫か?」

「あ、はい」


全然大丈夫だけど少し記憶が飛んでいた。あーそうそう。僕の体験をそのまま人に伝えるのは大変だってことだ。

装置があれば、一部だけでも電子機器を通じて伝えることが出来るんだけどね。


待てよ、この世界は魔力が電力みたいなもんだ。

【飛剣術】で魔力線が繋がるように、魔力線を通じて経験を伝えることが出来たら。

なんかそういうのあったな、あれだスキル魔石だ。

別に魔石を通じなくても、直接人に行っちゃってもいいんじゃないかな。

スールさんも困ってるし絶対にこれは良い事だよね!


あとで思い返すに僕はその時そこそこ酔っていたと思う。


僕に流れ込んでいる【AFK】の経験をスールさんに流し込むイメージを固めた。

細い魔力線を循環させた。ちょっと離れてるけど魔力に不可能は無い!あははは。

ちゃんと何かが流れ込んでいく気がする。きっと気のせいじゃない。


『テッテレテー!!』

『ストゥルールはスキル【AFK】を習得しました』


「うぉお。なんだこりゃ」


ほらね!スールさんも喜んでいる。って、なんだこれ。何やった僕?


『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【指導】を習得しました』


え、指導ってこういうスキルなの?おかしくない?

指導ってもうちょっと、こう経験を口や動きで、やってみせて、やらせてみせて……


ゴーーーーーーーーン!!!ゴーーーーーーーーン!

突然例の鐘の音が聞こえた。


地面が揺れている!あー!あれだ!またやってしまったらしい。

酒を飲んでいたみんなもぎょっとした顔で僕の方を見ている。

だんだんと揺れが大きくなって、踊っていた人も倒れ込んでいる。

みんなが手にしたジョッキから酒が飛び出している。


えーと、次は割れる奴だ。視界に細かなヒビが入って空間が割れていく。

ギシッ、ゴリゴリッ、ガガガッ

やっぱり何か重たい物が引きずられるような音がする。

あれ、でも前より酷く無い気がする。


空間のヒビがから光が溢れて、どんどん光が強くなる。

なんだろう、これにちょっと慣れてきたみたいだ。


ガッシャーーーーーーーーン

視界が真っ白に染まった。


強制イベントが終わって、そろそろメダル探しに行けると思ったらこれだ。

真っ白な視界の中、僕はやってしまったと反省している。

みんなに注目されている中で、このゴンゴンガシャーンが出たら、何を言われるか分からない。

また変な通り名が付けられるかも知れない。


新たなスキルを得た喜びもあったが、それよりもこれから起きる展開を思って一人苦悩した。

次話「26 討伐の報酬と仮の住処」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アクセス研究所
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ