10 宿屋もある意味進んでる
前回のあらすじ
鼠をスキル【金玉飛ばし」で撃ち抜いた
西門をタッチ&ゴーで抜けて冒険者ギルドに戻った。
魔石を報酬に変えるのと宿屋を斡旋してもらうのが目的だ。
【冒険者マニュアル】に冒険者に向けた各種支援サービスとして店舗紹介や仲裁などもあると紹介されていたのだ。
受付は結構混雑していたが、『初心者はこちら』の立て札のある受付は誰も並んでいなかった。
凄くありがたいがこれはなんだろう?ゲーム的な演出なのかな?
「クエスト完了したので報告させてください」
「冒険者カードと魔石を出しな」
受付嬢さんに依頼の完了を告げると、【冒険者カード】と魔石の提出を指示された。
一瞬この人は何のクエストか分かってるのかなと思ったが、受領したときにニヤニヤしながら見てたことを思い出した。
例のトレイに魔石を乗せて価値を測定された。
「魔石7個で630ヤーンだね。クエストの最低金額で下取りするけどこいつはちょっと小さいねぇ」
クエストの最低買い取り金額の90ヤーンで引き取るけれど、それ以下価値の魔石が混ざっていたらしい。
【冒険者カード】に報酬を入金してもらった。「ピロン」残高は2365¥也
「あの、今日の宿を探してるんですが」
そのまま宿屋の紹介をお願いする。
「今日の稼ぎで泊まれそうなところ……異界の旅人ならキンブリーさんところがいいね」
受付嬢さんはカウンターの裏から地図を取り出すと広げて場所を教えてくれた。
ビガンの町は広場を中心とした小さい町で、ここ冒険者ギルドと反対の広場の東側が宿屋のある区域らしい。
【キンブリー亭】は街灯のある立て看板の十字路を北側に入ったところだと紹介された。
分かりやすく【キンブリー亭】と大きく書いた看板があるから字が読めれば迷わないとのこと。
「あと、獲物がこの剣しかないので、武器を売ってる店を教えて下さい」
「作り置きの装備を売ってる店はギルドの向かいだよ。今日はもうそろそろ店じまいしちゃっただろうねぇ。朝は早くからやってるから行ってみな」
「ありがとうございます」
「ちょっと待ちな」
それじゃ、と去ろうと思ったら呼び止められた。ひょっとして紹介料がかかるんだろうか?
「これ持ってきな」
腰に巻くタイプのポーチに小さな瓶が入っている。
「体力を回復させる薬だよ。危なくなくなる前に使うようにしな。どうも異界の旅人さんはみんなフラフラしてて危ないからね」
「これ、もらっても良いんでしょうか?」
「初心者なんだから、遠慮しないでもらっときな。そいつは前に居た異界の旅人が亡くなる前に使ってたもんだから気にしなさんな」
「あ、ありがとうございます」
なんだ?以前にβプレイヤーが使ってた物らしい。亡くなってるってどういうことだろうか。
用事を済ませて冒険者ギルドを出ると、既に周囲は薄暗くなっていた。
チュートリアル先生が急がせてきたのは支援の一環だったらしい。
暗くなる前に紹介された宿に向かうことにした。
広場を抜けて……立派な宿屋があるな。これじゃなくて、と、先ほど教えてもらった街灯を探した。
暫く進むと看板のいくつかくっついた街灯があった。
看板の中に目当てのものを見つけた。『←キンブリー亭』と書いてある。
十字路を左折すると、通りより少し狭くなった道があった。
その左右にそれぞれ食事処があって、良いにおいをさせている。
おなか減ってきたな~。ゲームだってことを忘れそうだ。というか今ちょっと忘れかかってた。
食事処を左右に見ながら数件歩くと三叉路に突き当たり、正面の店がキンブリー亭だった。
普通に食事処のようで、店に入るとニコニコしたおばさんに元気な声で「いらっしゃい!」と声を掛けられた。
「今日は【ラージラット】のソテーがオススメだよ」
「えーと、冒険者ギルドに宿屋を紹介されたのですが……」
「あー。マリーさんの紹介だね。泊まりは朝飯付きで500ヤーンだよ。良ければカード出しとくれ」
素直に【冒険者カード】を取り出して渡す。「ピー」支払時はちょっと音が違ってた。
カードを返してもらい、すぐに-500¥の履歴を確認する。
「部屋はこの階段上がって2階の203号室ね。晩飯は普通にここで食べても良いし、外の店で食べてきても良いから荷物置いたら降りておいで」
階段は建物の角にあり、2階の3番目の部屋が203号室だった。
部屋に入ろうとしたら鍵がかかっているようで開かなかった。あれ?鍵くれなかったけど、女将さん忘れたのかな?
と思った時に、ドアノブの上に黒いプレートを見つけた。
もしかして?と【冒険者カード】をかざしたらカチャッと解錠音がした。
なにこれ!すごいハイテクなんですけど!
現実世界では電子マネーの規格が合わないとかで一部のホテルでしか導入されてないようなシステムだ。
部屋の中に入ると左手にベットが、その奥には机と椅子があって、正面奥の壁は嵌め殺しの窓だった。
そしてベットの手前には荷物が置ける棚とスペースがあった。
さっき1階で見た客には帯刀しているような人は居なかったので、剣の鞘が付いたベルトを外して、ナップサックといっしょに荷物置きに置いて部屋を出た。
装備はジャージなのでそのまま、財布も【冒険者】カードなので手ぶらで良い。凄いラフな格好だ。
1階に戻ると、女将さんが出迎えてくれた。
「お、身軽になったわね。それじゃ、ちょっとそこに立って。口閉じといてね」
なんか部屋の隅に立たされた。なんだ?と戸惑っていると女将さんがなにやらしゃべり出した。
「清浄なる水よ、彼の者の身を清める力を示せ!」
突然だったので、口を開けてぽかんと見ていた僕は、そのままおぼれそうになった。
「カボボボ」
「ゴホッ、ゴホッ。何してるんですか!」
「え?【水洗浄魔法】だよ。あれっ?あんたその格好、異界の旅人かい!」
一瞬で水浸しになったと思ったが、気づいたら水はどこかに消えていた。
なんでも洗浄する力を持った水を呼び出して一気に対象を綺麗にする魔法を掛けてくれたらしい。
この世界では普通のサービスだった。一緒にジャージも綺麗になっていて素敵なサービスだった。知ってれば。
うん。ゲーム世界は宿屋もある意味進んでた。
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「あははは!あの顔!最高だったよー。本当に始めたばかりだったのね!」
「あはは!このゲームの通過儀礼の一つだよな。懐かしい」
「βプレイヤー最近来てないからね」
僕は今、キンブリー亭の食堂で昼ご飯をおごってもらったカナミさん達に晩ご飯もごちそうになっている。
カナミさん達三人もよくこの宿に泊まるらしい。
「洗浄魔法って創造魔法のカテゴリなので、火水土光闇の属性にそれぞれあるんですよね。
水魔法は飲食点と親和性が高いので宿ではだいたい水洗浄されちゃうんですよね」
「髭人の村で、火洗浄魔法かけられそうになった時はあせったっス」
「光洗浄魔法か闇洗浄魔法が良いけど、使い手が少ないのよねー」
創造魔法という何も無い所から突然出現させる魔法の力で、出現させた水と一緒に、身体や衣服にとっての異物を消すらしい。
ファンタジーいいですね。
テーブルの上には女将さんお勧めの【ラージラット】のソテーが載っている。
味はポークソテーだった。普通においしい。
「これ、お肉はどうやって手に入れるんですかね。」
「あーそれ!導入の剣っス」
「初期装備の導入の剣を装備してると、倒した敵を自動で【解体】してくれるんです。
付与されている【解体】の効果が高くないので魔石以外がなかなか取れないんですよね。
特定の部位を持ってこいというクエストで、これに気づくまで大変でした」
初期装備にもいろいろボーナスがついてるらしい。
ベテランっぽいと思ったけど、本当にいろいろ知っているものだと感心する。
こうして晩ご飯も3人から指導を受けながら舌鼓をうった。
次話「11 先輩プレイヤーとスキル群」