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1 始まりはコンソール

「これはすごい!」

宇宙まで抜けるような青空を見て思わず声が出てしまった。

鮮やかなグラデーションがかかった緑の山とのコントラストが素晴らしい。

最近のゲームはすごいことになっているようだ。


───────


入社以来6年間取り組んできた担当商品が売れに売れて、ついには在庫が一掃された。

特殊な商品のため増産の計画もすぐには立たないことが分かっていた。

少ないチームメンバーと打ち上げをした翌日には、上司のすすめもあり、僕はまとまった休みを取った。


(わたり)くん、長めに休みをやるから、仕事を離れてリフレッシュして来たまえ。

誰か、葛西あたりとデートするとか。なんなら私がつきあってやろうか?」

「田波部長は仕事じゃないですか、仕事上がりは深酒につきあわされそうだから遠慮しておきます。

葛西は筋トレとかつきあわされそうだからデートにならないですよ。

家でゴロゴロして何か考えますよ」

「頭を空っぽにしてこいってことなんだが、まあ良いか。ゆっくりしてこい。」


田波部長は社長の娘さんで開発チームにもよく顔を出しては、いつも無理を通してくれた。

今の僕は仕事にならないのをお見通しなのかもしれない。

素直に休みをもらってリフレッシュしてこよう。


───────


休み初日にはこれまでをリセットするように寝まくってやろうと意気込んで挑んだ。

が、身についた習慣は恐ろしいものだ。なんだか昼前には起きてしまった。

暫くはだらだらするぞ!と、仕事帰りに大量の冷凍食品とともに買ってきた弁当を温めて、食事を取ることにした。

スプーンでチャーハンをすくいながらニュース巡りをはじめたら、担当商品関連ニュースを追っている自分に気がついた。

『いくらなんでも、仕事好きが行き過ぎてるだろ』

これでは休みにならないと、気分転換のために最近手を出してなかったゲーム機を買ってみることにした。


高校生の頃に発売されたヘッドマウントディスプレイはさらに進化しているようだ。

当時マンガや小説で夢のように言われていた仮想現実を実現したゲーム機らしい。

自宅でじっくり遊ぶ没入型のゲームは中学生以来だ。

うっかりハマって時間を捨てることになったらと心配もあったが、貯まった休みを消化しろ!という上司の顔を思い出してカートに入れた。

一緒に遊ぶゲームをランキングの上から選んでいく、5位までは継続作品らしい。

せっかくだから新商品開発の参考になるような新しい体験のゲームが良い。

と再び仕事の虫が騒いで、最新のネットワークRPGをカートに入れて発注ボタンを押した。

今予約すると現在進行中のβテストに参加できるらしい。


気になったらそればかりどんどん知りたくなるのは性格だから仕方が無い。

スキルクリエーターズワールド、完全スキル制?のRPGらしい。没入感が高いタイプのゲーム機なので現実のように体を動かせるらしい。

スキルは【身体】【武器】【加工】【芸術】【魔法】の5つの種類に分類されるらしい。剣と魔法の世界だ!

キャッチコピーは「君のスキルが世界を変える!」

まさに当時見たアニメのようだ。なんか楽しくなってきた、休みって素晴らしい。

VRは担当商品でも使っているが、そちらは現実とリンクした使い方なので、没入感のあるタイプは畑違いで面白そうだ。


βテストに参加するにあたって、身長、体重から始まり、利き腕、利き足、スポーツ経験など入力していく。

これは情報集めすぎだろうと思わなくもないが、昨今では個人情報は集める側のリスクが高いのも公知の事実だ。

『なかなか思い切ってるな~。』

変なところで関心しつつβテスト申込みが完了したら結構な時間になっていた。


───────


翌日、朝食を食べてコーヒーをすすっていると、元気な宅配便のお兄さんがゲーム機を持ってきた。

「こんちは~。荷物でーす。こちらにサインください。」

タブレット型端末にサインを入れるのはどうなんだろうと思って結構経つが、変な物が長く定着するのが面白い。


梱包は最近の流行に漏れずさっと開くタイプだった。

ストレスフリーなパッケージが素晴らしい。

綺麗な流線形がかっこいいヘッドマウントディスプレイが一つと両手に嵌める軽いグローブが2つ。

ソファーに座り、電源を繋いで本人認証のために個人情報カードをスキャンする。

母は『最近はなんでも便利になったわね』というけど、物心ついた時からそういうものだからいまいちありがたみが分からない。

むしろ硬貨のやりとりの方が好きな僕には納得出来ないが、こんな時にはありがたい。

機械を両手と頭にセットすると自動で電源が入った。


耳元で軽快な起動音が心を揺さぶる。だんだん盛り上がってきたぞ。

注意事項のインフォメーションで、テンションが下がったが、気を取り直してメニュー画面に挑む。

メニュー項目らしき玉が等間隔に浮かんでいる。そのうち一つがぶるぶる振動してるので見ると

昨日βテストに申し込んだ例のRPGだ「スキルクリエーターズワールド」そんな名前だったかな?

ロゴっぽい女神様に見覚えがあるのでこれに間違いない。


昨日の今日で電源入れたらもう出来るのか。行き届いてるな~。

ぶるぶる振動しているメニューに手を伸ばして触れると周囲が暗転した。


───────


ふいに座っていたソファーの感覚が背中から消え、天地も無い真っ暗な空間でナレーションが聞こえる。


『この世界はスキルの力で溢れています。

ある神は言いました。人の営みに必要な力を世界が分けてくれているのです。

ある神は言いました。この世の無慈悲に無理を通す力だ。

ある神は言いました。ちっぽけな人生を彩るスパイスとしての演出さ。

あなたはこの世界にどんなスキルを生み出すでしょうか?

くれぐれも用心してください。そして、心の底から楽しんで下さい』


急に天地の感覚が戻ってきた。周りがゆっくり明るくなる。僕は草原に立っていた。

そして冒頭の抜けるような青空の下に戻る。


唐突にシステムメッセージのインフォメーションが耳元で聞こえた

『ユーキはスキル【コンソール】を習得しました』

あ、視界の脇にも背景が透けた灰色のウィンドウにテキストが表示されている。ゲームっぽい!

ゲームをしてるってことを忘れそうになってた。これはすごいな。


『ユーキさん、スキルクリエーターズワールドにようこそ。

チュートリアルをはじめます』


システムメッセージは電子音声の合成じゃなくて、誰かの声を吹き込んだような人間臭いナレーションだった。

こうして僕の不思議な異世界生活は始まった。

次話「2 ステータスという不思議なスキル」

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