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第7話「盗賊掃討作戦開始」

「事情は分かった……しかしこれではな……」


 ディアナ王女の言葉に、俺は俯く。絡まれたのはこっちだというのに、何故説教など受けなければならないのか……

 という思いはあったが、やり過ぎは自覚していたので黙って聞く。現在はディアナ王女に事情を説明し、事の裁可を仰いでいるところだった。


「ふむ……勇者殿には、ユニークスキルを用いて足りなくなった人員の代わりをしてもらう。こっちの三人は……今回の任務の参加を禁ずる。それが今回勝手な行動をした罰だ。……そっちの2人は、どちらにせよこの怪我では動けんだろうがな」


 一人は腰を抜かしていただけなので、普通に立っているが、そいつは悔しそうにしていた。残りの二人は立たせるのは酷だと言う事でそこらに座らせているが、顎を打った奴は脳震盪のため二、三日様子を見た方が良いらしく、腹を打った奴は内臓を少し痛めているらしい。どちらもとても、この任務中でまともに動けそうにない。

 さっきは勢いでやってしまったが、少し可愛そうにも思う。とはいえ、向こうの自業自得でもあるので、思うだけだが。


「では、勇者殿は先に休むように。私はこの者たちと少し話がありますので」

「わかりました」


 ディアナ王女にそれだけ言われて解放され、ようやくこの件は落ち着き、盗賊討伐の任務に戻る事になった。


◆◇◆◇◆◇


「あーあー。誰かさんが短気を起こしたりするから……」

「ほんとほんと」

「それ、自分に言ってるからな。惨めになるからやめろって!」

 

 って言っているのは、隣を歩く分身達だ。俺は自分の言葉に辟易しながら馬車の後ろを進んでいる。他の兵士は一般人、冒険者のような恰好をして周囲の警戒にあたっている。俺と分身は見分けをつけるためにそれぞれ服装と装備を変え、同じく警戒にあたっている。


「なんでもいいから、警戒だけはしてくれよ。四人もいて警戒してませんでしたーじゃ笑えない……というか、師匠に、どんな修業を課せられるか……」


 本体の俺の言葉に、分身たちが揃って身震いした。


「わ、わかった! 背後異常なし!」

「了解! 右異常なし!」

「左も異常なし!」


 自分だというのに、自分よりも師匠とかのいう事を聞く調子の良い分身たち。1人で警戒に当たるより、数倍疲れたような気分を味わいながら、残った正面を警戒する。


「はいはい、正面異常──っん?」


 意識を前に向ければ、ガフ師匠にディアナ王女たちが馬車を止め、人だかりを中心に陣形を組み、辺りの警戒を始めているところだった。


「ん? なんかあるのか」


 人だかりができている個所では、誰かが縛られているのが見える。人が壁になって良く見えないが、兵士とは違うような気がする。


「どうする?」

「見に行くか?」

「いや、余計な事して面倒事になっても……」


 分身たちが口々に言う。俺も気にはなったが、あまり勝手な行動はしたくない。何か良い手は……あ、そうだ。


「そうだ。耳だけ強化してみるか。何か解るかも?」

「なるほど!」

「名案だ!」

「やるなオリジナル」


 俺の提案に分身が称賛するが、自画自賛なので辞めて欲しい。そんな事を思いながら、耳に魔力を集中させ、聴覚を強化、聞き耳を立てる。断片的ながら、話の内容が聞こえてきた。


「どうやら、斥候をしていた兵が盗賊を捕まえたみたいだ」

「こっちも聞こえた」

「間違いなさそうだな」

「どうするんだ?」


 自分の事ながらなんかうっとうしいな。いや、自分の言葉だからか? んなこたぁ解ってるよ! って気分になるのは、やっぱり自分と分身が、独立しながら同じような事考えてるからかもしれない。


「……を、使え」

「剣聖殿、それでは……」

「……」

「しかし…………かりました」


 声を落としているのか、やはり良く聞こえない部分もある。ディアナ王女は二、三ガフ師匠と、その場にいた兵士と話して、盗賊を前に少し思考すると、おもむろに手を上げ、周りの兵士の注目を集めた。


「……作戦の変更を通達する!」


 良く通る凛とした声が、30余りの全兵士の耳に届く。全員の注目を集めたと感じた所で、ディアナ王女が再び声を張り上げる。


「盗賊の住処が判明した! このままそこに向かい、強襲をかける!」


 強襲……少し性急じゃないか? いや……


「夜襲はしないのか?」

「盗賊捕らえてるから、向こうもこっちに気付くだろうよ」

「日が暮れたら、まともに戦えるかもわからないもんな」


 今まさに考えていた事を分身たちが口にした。おかげで、何となく自分の思考もまとまる。


「だな。どっちにしろ、俺たちは拒否できる立場じゃないし、やる事は変わらないな」


 分身たちも俺の言葉に頷いて、周りの警戒に移る。再びゆっくりと移動を始めた馬車の動きに合わせ、俺も警戒に移った。すると、先頭を進んでいたはずのディアナ王女が、後ろに下がって来て、俺に近づいてくる。


「勇者殿」

「は、はい。何でしょうか」


 何となく予想していたとはいえ、話しかけられて身構えてしまうのはしょうがないだろう。街娘のような姿に扮装しているとはいえ、ちょっと見た事のないレベルの美人ではあるし、何よりこの世界に来てからまともに話した事がない。話すときは小言か、説教かとなれば、まぁ当然の反応だろう。

 分身はディアナ王女が本体に用があると知るとそそくさと俺から離れていった。我が分身ながら酷い奴らだ……!

 

「勇者殿には、突入の際に先陣を切って貰いたい」

「は、はい。分かりました」


 先陣……勇者が前に出れば兵が鼓舞されるとでも言うのだろうか。俺が出ても士気は上がるどころか下がるような気がするが。それで良いのだろうか? そんな表情が顔に出ていたのか、ディアナ王女が少しだけ苦笑した。


「そう、緊張しなくてもいい。先陣と言っても、勇者殿のアルターエゴを使って斥候を行って欲しいのだ」

「なるほど……そういう事でしたか」


 確かに、分身なら安全に、そう言った事も出来るな。


「そういう事だ。よろしく頼む」

「はい」

 

 それだけ話すと、ディアナ王女は俺から離れ、駆け足で馬車の先頭に戻ってしまった。


「うへぇ……斥候とか……」

「仕方ないだろー。他だと怪我をする可能性もあるし」

「怖いもんは怖いだろ……」


 分身たちが俺の気持ちを代弁してくれるので、俺は黙って警戒に戻って、作戦決行までの時間を待った。


◆◇◆◇◆◇


 盗賊の住処は、自然洞窟を利用し、多少居住空間分を改造したものらしい。盗賊だから技術力に乏しいのか、改造部分はどうにも日曜大工レベルだ。

 こちらは兵士を数人毎のいくつかのグループに分かれさせ、包囲するように展開している。洞窟はいくつか入り口があったが、確認できた範囲ではすべてフォローし、ネズミ一匹逃さないようにしている。


「まもなく決行だ。準備は良いか?」

「問題ありません」


 茂みに隠れながら、近くにいる緊張はしているが、特に問題ない。分身も俺の気持ちを代弁するように、頷き返した。


「よし、では始めろ」

「了解です」


 ディアナ王女の言葉に、分身たちが一斉に頷き、散開しながら盗賊たちの住処に潜り込む。本体の俺とディアナ王女はそれを援護するため入り口に見張りとして立っていた男が、あくびをして注意散漫になった瞬間に叩きのめし、そこから分身を一体中に通した。


「後は任せる」

「おうよ」


 声を抑えながらそう交わし、分身は盗賊の洞窟へと潜り込んだ。


◆◇◆◇◆◇


「こんな時、通信とか携帯みたいなものがほんとに便利だ、ってよくわかるな……」


 盗賊の住処に忍び込んだ分身の一体──俺は、そう呟いた。こんな時通信機があれば、中の様子を簡単に伝えられるのに。いや、でもこのユニークスキルなら、一方通行とはいえ、情報の伝達ができる。最悪自分が消滅する事を視野に入れ、慎重に奥に進んだ。

 薄暗い洞窟は、外から見た通り、掘ったモノではなく自然に出来ていたもののようだ。足元が悪く、整備などされていない。部屋、と呼べるようなものには扉があるため、道に迷う、という事はなさそうだ。


「こっち側の通路には、人影は、なし。やっぱり、部屋の中だな」


 そっと扉を押し開き、中の様子を覗き見る。すると、昼間から酒盛りして居たのか、酒の匂いが充満している。そこに、10人近くが飲んだくれて潰れていたり、赤い顔をして仲間と話しながらまだ飲んでいる。


「と、ここはこれ以上いないな。次だ」


 扉は無理に閉じたりせず、そのままにして別の扉の方に向かった。多少頑丈そうな扉がある。鍵付き。俺は腰に下げていた剣を使って鍵を叩き斬って扉を開ける。


「盗賊の定番っていったら、宝物庫か──なん、て……」


 そんな言葉を言った事を、扉を開けてすぐ、俺は後悔した。

 そこにあったのは、確かに、盗賊の宝物であったのかもしれない。人心売買。その商品。あるいは奴隷。そう呼ばれる人達だろうか。襤褸を纏っただけの姿で、鎖につながれ、ゴミでも捨てられるように数人地面に転がされている。女性が混じっているのか、性的な暴力が受けた後もある。

 食事もまともに貰えていないのか、どの人間も痩せ細っていた。


「こんな……こんな事……!」

「う……?」


 捕まっていた人──、子供のように見えるその人と、視線が合う。その眼は、絶望に濁り、虚ろに俺を映していたが、俺を見てはいなかった。

 同じ人間が、こんな事をしても、良いのかよ! 人を家畜か何かのように扱って……同じ人間じゃないのか!? 怒りかなのか、自分でもよくわからない感情が渦巻き、混乱する。 

 そうこうしているうち、部屋の外が騒がしくなってきた。他の分身が暴れだしたのだろうか。しかし、俺はそれが解っても、目の前の事にショックを受け、動きだせずにいた。


「向こうから敵が!」

「あん……? 奴隷部屋が開いているぞ! それに……こいつ、何もンだ!? どこから入ってきやがった!」

「こんな……!」


 盗賊がここに気付き、数人雪崩込んできた。だというのに、俺は目の前の敵に集中できずにいる。盗賊が手入れの悪そうな刃物を振り上げ、俺に切りかかってくるのを、ただ茫然と見ている事しかできない。


「へっ、俺たちにビビってやがるのか! ガキが!」

「うぐっ……」


 そこで、分身の意識が途絶えた。


「くっ……」


 中に先行していた分身の意識が、突然フィードバックされふらつく。いつもより、混乱が激しいそれに、一瞬眩暈がした。


「勇者殿、どうかしたのか?」 

「分身が、1人やられたみたいです。ここをまっすぐいくと、手前の部屋に敵が10人。その少し先に、人が捕らえられていて……そこでやられました。それに、別の」


 混乱しそうになるそれに、ディアナ王女の声を頼りに、ただ端的に得た情報を整理する。整理した内容を、なるべく簡潔に伝えると、たったそれだけのやり取りで、ディアナ王女は俺の言いたい事を理解したらしい。怒気を滲ませ、小さく「わかった」とだけ返す。


「こんな……人をモノみたいに……」

「勇者殿、何を見たかは知らんが、今は考えるな。目の前の敵に集中しろ。……総員、突入せよ! 敵は1人たりとも逃すな! 中に奴隷が居る! 見つけ次第保護しろ!」


 ディアナ王女の一声で、兵士が一斉に動き出した。盗賊掃討戦が始まろうとしていた。


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