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第4話「伝説の勇者の装備といえばもちろん……」

静謐さを感じる、どこか 聖堂を思わせるような一室には、一番奥の祭壇にバスケットボールくらいの大きさのある水晶が安置されていた。どうやらあれが、伝説の勇者の装備、というものになるらしい。

 この場には俺や師匠たちのほかに、ディアナ王女とそのお付きの貴族たちが貴族位や階級位に従って並び、事の推移を眺めている。


「お前はただ、あれに触れ、水晶に魔力を流すだけでよい。それくらいであれば、お前にも出来るだろう?」


 事前にディアナ王女にそう言われていた通りの事だけするように集中する。こうやってお偉いさんに見られながら前に出るのは緊張するな。これに一番近い行事は、中学の時の卒業式で卒業証書を貰う時くらいだろうか。

 ……違うか? どちらにせよ無駄に緊張を強いてくるこういう行事はあまり好きではない。


「では、勇者殿。この水晶に触れ、魔力を流してください。そうすれば、水晶はあなたに最も適した形状を取るでしょう」


 歴代勇者は、こうして装備を手にしているらしい。水晶一個につき一装備のため、勇者の数が多いときは最も優れた勇者に、渡していたらしい。歴代で最も多かった形状は剣や槍で、変わったところだと弓のような遠距離武器もあったとか。どんなものだったんだろう? 王者の風格をもった剣だったり、黄金の槌だったり、神殺しとか言われる槍みたいなもんなんだろうか?


「……」


 早く終われーと願いながら、水晶に掌を乗せ、そっと魔力を流していくと。水晶が手の下でぐにゃりと形を変えた。


「うぉっ」


 取り繕う暇なんてなく普通に驚いたが、それを咎めるものはいなかった。記録ではこの国ではもう50年は勇者は召喚されていないらしく、この現象を目にするのはこの場にいる誰もが初めて。背後からも、


「おお……」

「なんと……」

「やはり勇者であられたか」


 なんて言葉が飛んでいる。そんな内にも、元水晶だった物体はぐにゃぐにゃと形を変えていた。なんか、戸惑っているようにも思える。剣っぽい形を取ったり、槍のようであったり。

 うーん。剣とか槍とか、あんまり自分にあってる気はしないんだよね……と思っていたら、元水晶が「えっ!?」って言うように一瞬震えた。そして不定形となり、何になるか形状を決めかねているみたいだ。不規則に形を変えては、「これ?」とこちらに伺いを立てるようにしている。


「む……?」

「中々形を現しませんな……」


 後ろの気配がだんだんときな臭くなってきた。うわ、早く変形して貰わないと……「ならなんか要望とかいえよ!」とでも言うように、ピリッとした刺激が掌に伝わってくる。

 要望……そもそも、どんな武器があってるんだ? まともな武術歴がこの世界に来てからしかないし、武器を選べ! と言われても困る。元の世界での武術歴は空手をかじった程度。空手は基本武器は使用しないし。

 そうだ。ならやっぱり、攻撃よりも自身が守れるものが良い。今後、どんな武器を持つか解らないし、それを持っても邪魔にならないようなもの。

 手の下で大人しくなっていた元水晶は「例えば?」とでも言いたげに手を刺激してきた。

 例えば、例えばか……そうだな。例えば。指が使える籠手のようなものが良い。動きを阻害せず、素手で攻撃する時に多少の攻撃力を期待でき、かつ他に武器を使う際に邪魔にならない。魔法を使うにしても、そう言った身に着けてしまえるものの方が良いだろうし。

 すると、「なるほど!」なんてニュアンスが水晶から伝わってきた。水晶が意気込むように輝きだし、今度は何の躊躇いもなく、目指すものがあるような迷いのなさで形状を変えていく。 


「おお。光が……」


 誰かがそう呟いた。水晶の輝きは、落ち着き始めていた。そして、手元に残る金属のような塊。


「おおーこれこれ。こういうのが良いよ!」


 俺はその、納得のいく形に思わずそう声をあげていた。

 華美な装飾はないが、かといって地味でもないデザイン。それは籠手あるいは、手甲と呼べる形状をしたものだった。2組あり、さっそく両腕に着けてみる。

 肘から手首までのしっかりと白っぽい銀色の金属のようなもの覆われており、手の甲に当たる部分は、元の水晶だろうか、球状の綺麗な石がはめ込まれている。手の部分はグローブのようになっており、指先まで保護されていながら、指の動作を邪魔したりしない。

 何度も握ったり、開いたりして具合を確かめてみるが、まったく邪魔にならないし、重さも気にならない。


「うん。ぴったりだな」


 そこまで満足したところで、後ろがかなり静かな事に気付いた。いったい、何だと言うのか。


「……」


 振りむけば、誰も彼もが沈黙していた。武器のあまりの神々しさに押し黙った──って雰囲気ではないな。

 気まずそうな。あるいは、蔑む様なものもいる。


「期待はしていなかったが、ここまでとは。まぁいい。勇者殿、どうせそれはあなたにしか使えない。自由にしてくれて構わない」


 それだけ吐き捨てるように言って、ディアナ王女はつかつかと足音をたて、この場を後にした。その後ろに続き、貴族たちはわらわらと部屋を出て行った。最後に残った貴族が、吐き捨てるように俺に言った。


「何故お前のような無能が、勇者なのだ……!」

「頼まれてなった訳じゃないからな」


 閉じていく扉に向かって俺も返答してやるが、恐らく聞いてないだろう。まぁ、別に構いわしない。


「性能の確認もせずに、形状だけで無能と判断。己の無能をひけらかしているのは、どっちなのかしらね」

「面白い形になったな。ガントレットか?」


 そう言ったのは、エイラ先生とガフ師匠だった。2人はこっそり残っていたらしい。気配を消されると全然解らない上、急に声をかけられるとびっくりするのでやめて欲しい。そんな2人は勇者装備に興味津々みたいだ。


「ふーん。ほうほう……ほう。これがミスリル、魔法の銀と呼ばれた金属なのねぇ」

「何ですか、それ」


 どこのロマン金属ですか。


「古代の魔法技術の結晶でね。異世界人にしか反応しない、とは聞いていたけど、こうなっているとはね……使用者の意思を反映してるのかしら? これを思い浮かべるとき、細かく想像してた?」

「いえ。ざっくり武器より籠手みたいな防具のがいいなーとは思いましたが……」

「なら、金属側が使用者の思考を読み取って、それを元に判断してる? でもどうやって……」


 異世界定番金属は、この世界ではそういうもんらしい。エイラ先生は顎に手を当て、思考の海に潜ってしまった。こうなると話しかけても無駄だろう。


「ふむ。しかし、作りはしっかりしているな。武器になったなら、その武器を中心に訓練をしようかと思ったが、これなら邪魔にならんな」


 おっふ。なら、剣とかの方が良かったか……? メイン武器に限定されるなら、色々覚えなければいけないって負担はなかったかもしれない。


「メイン武器が決まった所で、別に他の武具の鍛錬がなくなる訳ではないぞ。優秀な装備とはいえ、着けていなければ意味はない。どんな状況も想定しておかねばならぬ以上、訓練量が減る訳ではないぞ」


 あれ、でも俺旅に出るだけの武力が身に付くだけでそこまでオールラウンダーになる必要ってないんじゃ……?


「勇者装備は非常に壊れにくい上に、壊れても使用者の魔力で修復もされると聞く。防具の替えは必要なくなったが、そろそろまともな武器が必要だな。……いや、例の空手なる武術もあったな。そちら方面で訓練を課すのも面白い」


 それを聞こうかと思ったが、ガフ師匠はガフ師匠で思考の海に潜ってしまったようなので、俺は肩を落とした。俺に出来る事は、これから先の修業が、ちょっとでもマシな事を祈る次第だ。


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