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第24話「全て終わって。新しい一歩」

 目の前の脅威をどうすれば? そんな思考を巡らす一瞬さえ惜しまれるようなその瞬間に、俺はこの世界に来て刻み込んできた経験に、全て投げ打つ事を決めた。

 ここまで立たせたのはなんだ? 生き延ばせてくれたのはなんだ。覚悟? 意思? 違う。ガフ師匠が、エイラ先生が追い込むように教え、伝え、身体に刻み込ませた経験だ。 


「あああああ! ≪身体強化≫≪防護≫≪硬化≫≪堅固≫!」


 俺の周囲に文字が躍る。一瞬重ねられるだけ≪単語魔法≫で魔法を使い、自分の身体を書き換える。もっと文字を重ねたかったが、そこで魔力のほとんどを使いきった。これじゃ、まだ足りない。


「死ねや! 勇者ぁぁあ!」


 無造作に出した左手に、ゲルトが突き出した右手が突き刺さる。異音。俺の左手が砕けた音と、ミスリル製の勇者の籠手が、その折れたてを支えながら、ゲルトの突き出した拳に拮抗した音だ。だが、おかげで必要なピースが全部揃う。


「≪魔力吸収≫」


 残った魔力を、耐えるでも、反撃でも無く使用する。文字の通り、ゲルトが練った魔力を吸収しようと魔法が発動し、暴れる。ゲルトの魔力の方が、俺が発動した魔法より若干だが強い。それに、吸収した魔力そのもの、俺の全身で暴れるように駆け巡るため、所々肉が裂け、血が噴き出した。

 それでもゲルトの一撃を弱め、俺の身体には魔力が満ちる。反撃するだけの、僅かな力が。


「≪傀儡≫」


 もう自分で身体を動かすのも難しい俺は、魔法によって、身体を動かす。無理矢理動き始めた身体は、健気にもこれまで修業した内容を再現しようと動きだす。左手はそのまま、相手の懐に潜り込むように潜り込み、折れた右腕を魔力で補強しながら動かして、相手の腹部に添える。

 

「≪魔力全解放≫……!」


 文字が浮かぶ。勇者の籠手に浮かんだそれは、一際大きく輝いて、当てているだけの俺の手から、今なお吸収している魔力を一瞬にして放出する。


「がっ!!?」


 突然の衝撃に、ゲルトはたまらず苦悶の声をあげた。踏ん張る事もかなわず、ものすごい勢いで吹き飛び、壁にぶつかり、なお止まらずに外にまで飛んでいった。

 ゲルトが飛んでいった事で、兵士たちが歓声をあげる。


「や、るじゃねぇか……だが、残念だったな。まだ倒れちゃいねぇ。俺は死んじゃいねぇぞ……!」


 歓声がぴたりとやみ、兵士たちに動揺が走った。俺もそうだ。ただ、俺はどこかでこれを予想していた気がする。何故なら、俺はまだ立っている。全部使い切ったと思ったけど、倒れたらダメだと、まだやる事があると、そんな感じがして、まだ立って待っていたのだ。


「≪影分身≫」


 さっき吸収した魔力だって、もう残り少ない。それでも、最後にはこれが必要だった。三人に増えた、俺の姿。


「今更小細工か…? 見損なうぜ、勇者よぉ!」


 ゲルトが駆ける。しかし、さっきまでの速度も見る影無く、兵士だってもうちょっとマシな速さで走れるだろう。三人になった俺もそれに向かって走る。ゲルトが脇目も振らず、真ん中に居る1人を狙っている。それに割り込むように、右の1人が真ん中を庇うように踊り出る。


「邪魔だぁ!」


 ゲルトは前に出た俺を、殴りつける。肩にそれを受けた俺は、噛みついて、ゲルトの動きを止めた。反対側も、分身が噛みついてゲルトにまとわりついている。


「何、てめぇが本体……!? なら向こうは! 魔力が多いこいつは……!?」


 そいつは分身だ。魔力を多く渡してある特別な。不思議そうなゲルトに、答えを教えてやりたい所だが、あいにく口が塞がっている。


「分身だと、てめぇの動きが止められないだろうが!」


 魔力を多めに分けてた分身が、俺の心の声を代弁し、ゲルトの頭に頭突きをかました。炸裂する残りの魔力。そして煙となって消える、俺の分身。動きを止めてた分身も維持が限界だったため、同時に消えた。俺は、噛みついていたゲルトを放した。


「へっ……そう、かよ」


 ゲルトはそう言って、今度こそ倒れた。それとは別方向に、俺も身体を投げ出す。そんな俺を、誰かが支えた。


「カゲフミ殿……」


 涙でくしゃくしゃになったディアナ王女が、俺を抱きとめ、ゆっくり地面に横たえてくれる。


「ああ。ディアナ王女。会ったら、言ってやろうって思ってたんだ。……その、ありがとうございます」

「えっ」

「俺を、守ろうとしてくれて、ありがとうって。あと、なんか色々と気を使わせたみたいで……ごめんなさい」


 これだけ、本当にこれだけは言っておきたかったんだ。彼女は無理矢理俺にいう事を聞かせることだってできたはずだった。それを選択しなかった事へのお礼。そのために裂いた労力と、その労力をこうして無駄にした事に対しての謝罪。


「カゲフミ殿……私は、私は……」


 ぼろぼろと止め処なく涙があふれ、俺の額に水滴が落ちてくる。涙を拭ってあげたい気持ちに駆られたが。両腕が折れていてそれも適わなかった。ディアナ王女の両手が、優しく俺を包み、何か言いたげに唇が震えている。

 意を決したように、ディアナ王女の口が空きかけた所で、横合いから声が聞こえてきた。


「カゲフミっ!」


 ディアナ王女は慌てて俺から手を離した。

 倒れている俺に、縋りつくように抱き着いてくるクー。痛い。もうちょっと手加減して欲しい。特にさりげなく腕に当たってる足が、ぐりぐりしてやばい。

 しかしクーはそんな俺の気持ちに気付かず、俺の首に抱き着いて、甘えるように頬を摺り寄せている。


「クーネリア殿。心配しているとはいえ、少し手加減をしてやらないと……」

「心配当然。カゲフミとクーは、番だから」


 ディアナ王女の言葉を半ば遮るようなクーの言葉。その言葉に、俺とディアナ王女は固まった。

 つがい、ツヴァイ……いや、そんな強そうで二番目な感じじゃなかった。番? つまりは夫婦?


「ど、どういう事!?」

「カゲフミ、クーに言った。責任とるって。ずっと、側にいるって。尻尾も絡めた」


 尻尾……確かに、指切りみたいに、約束だって、そう。大切な約束だって、そう言っていたような……!?


「つまり、クーは正妻」


 ごく当たり前のように、クーは爆弾を投下した。

 いつの間にか、ディアナ王女は泣き止み。冷めたような笑顔を浮かべていた。おかしいな、笑顔ってこう、もっとあったかいものだと思うんだけど。矛盾しているように思えるそれは、ごく自然にディアナ王女の中に混在している。


「ほう、詳しい事が聞きたいな。カゲフミ殿。幼いクーネリア殿と、契まで交わしたと。2人はそこまで親密な仲だと。その辺りをよぉく、聞かせて貰おうか。場合によっては盛大な祝福をせねばならない」


 笑顔でそう言うディアナ王女は、完璧な笑顔を浮かべていた。しかしおかしいな。見た目は聖母のような笑みを浮かべているのに、その裏には阿修羅のオーラが見えると言う矛盾。言葉も祝福する、と言いながら、含まれた棘を隠そうともしていない、責めるような口調。


「え、いや、あれ? あははは……」

 

 その笑顔に圧倒された俺は、何も言えず、ただ乾いた笑いを浮かべるだけだった。クーは宣言した事で満足したのか、俺に抱き着いたまま、ゆっくり尻尾を振っていた。

 こうして、国境における、魔族との戦いは終止符を打たれた。

 

◆◇◆◇◆◇


 ガフが西門に向かってみれば、そこではいつの間にやってきたのか、カゲフミが魔将ゲルトと戦っていた。カゲフミが何を思い、何を掴んだのか。戦いを見れば一目両全であった。


「ふん。それがお前の答えか」


 ガフは満足そうに呟いて、背を預けていた壁から離れる。そのままふらりと歩き去り、国境線の街を後にした。その後、剣聖ガフの姿を見たものはいなかった。


◆◇◆◇◆◇


「ここ、は……」


 見上げれば、見知らぬ天井があった。身体を起こそうとすると、全身に痛みが走る。カゲフミがディアナに頼み、用意して貰った病室なのだが、ゲルトはそれを知らない。


「いてぇ、だと……?」


 ゲルトは、何故自分が生きているか不思議に思った。


「俺は、勇者と戦って……?」 

 

 混濁していた記憶が、段々とはっきりしてくる。そう、勇者。奴を敵と認め、真の敵と認めた相手にしか見せない、自分の全力を見せた。敵と認めたとはいえ、勇者は実力の釣り合いの取れないような、格下だったはずだ。それでも、自分はこうして倒され、あまつさえ手当さえされて、生き恥を晒していた。


「マジで、殺さなかったのか……」


 殺さない、殺されない戦いをすると言っていた勇者。覚悟がない、そう思った。相手に対して冷徹になり切れない、甘い奴……とも。そういう奴から死んでいったのを見ていたゲルトにとって、それは新鮮だった。


「……」


 ゲルトは自分の手を見た。傷だらけだったはずだが、今は治癒している。いったい誰が。いや、こんなことをするのは勇者くらいしかいないか。

 不思議な感覚だった。戦いの後に、これほどすっきりとした気持ちになった事はない。悔しい、という気持ちはあった。しかし、それ以上に何か、得るモノがあったのだと感じていた。それが何か、ゲルトはまだ解らなかったが。


「カゲフミ。この借りは、いつか必ず返す……」


 ゲルトはそう言い残し、病室を離れ、その街を後にした。行く先は仲間である筈の魔族の元ではなく、人類のいる街でもなかった。


◆◇◆◇◆◇


「緊張、するな……」


 こんな緊張はいつ以来だろうか? そう思ったら、今付けている勇者の籠手を貰った時にも似たように緊張していた、と思い出す。


「いろいろあったな……」


 俺は今、魔王城を訪れていた。

 戦後の処理が行われたあと、魔王との戦争締結について話し合いが持たれる事になり、俺はディアナ王女と共に、魔王城に足を運んでいた。もうすぐ、魔王との謁見が行われ、長きに渡るアクス王国と魔族との戦争が、終わる。

 それで何もかも平和になる、という簡単な話ではないんだろう。でも、和平への一歩にはなる。それを自分が手伝っているのだと考えると、少々不思議な気分だ。


「カゲフミ? まだ、腕が痛むのか?」

「あ、いや? 腕はもう大丈夫。魔法のおかげで、痛みもないよ。ほら、この通り」

「なら、いいのだが」

 

 ディアナ王女にひらひらと手を振って見せ、ディアナ王女は納得したように頷く。

 腕はもう、完治している。あの戦いから数日で、だ。理由は、俺の魔法にあった。≪快癒≫の文字で魔法を使った所、俺の身体は動画の逆再生でも見るようにみるみる治癒し、ディアナ王女を驚かせた。一度王都に戻ってエイラ先生にその話をした時には、俺の魔法の非常識さにはため息をつかれた。この世界には回復魔法というものは無いそうで、それを可能にしているのは、別の世界で発する言葉が、この世界の位階を上回っているとか何とか言われたが、よくわからない。

 回復魔法便利! といっても、かなり魔力を消費するので、ぽんぽん使えるものではないのだが。それに、俺は問題なかったが、他の人間にはどう作用するか解らないため、エイラ先生から使用を禁止された。俺以外にはゲルトの様態がぎりぎりだったために一度使用したが、それだけだ。

 ゲルトはその後、病室から消えてしまったという報告を受けた。てっきり、すぐにでも俺を倒しにくるかと思ったが、誰も傷つけることなく、ただ忽然と姿を消したらしい。

 それにしても、回復ができる、なんて事を修業中に知られなくてよかった。毎日ぶっ倒れるまで修業して、無理矢理回復して続行……なんて事があり得たかと思うと、想像だけで背筋が震える。


「うん。師匠がいなくて助かったかな……」


 ガフ師匠はあの戦いの後、行方をくらませてしまった。エイラ先生に相談した所、エイラ先生は何かを知っているような様子で


「ま、そのうち戻ってくるでしょう」


 と言われ相手にされなかった。俺なんかより遥かに長い付き合いの先生がそう言うのであれば、そうなのだろう、と納得しておく。


「また、ぼうっとしてるぞ? カゲフミ」


 そんな風にまた物思いにふけっていると、ディアナ王女にそう窘められた。


「あ、すみません。ディアナ王女。これから魔王に会うのに、心ここに有らずじゃだめですもんね」

「……」


 俺の答えに不満だったのが、ディアナ王女が不機嫌な顔をして俺を睨んだ。


「あの、ディアナ王女? どうかしましたか?」

「それだ」

「は、はい?」

「その王女、というのだ。それに敬語。カゲフミはもう英雄といっても過言ではない。今回の件で何らかの称号も与えられるだろう。そうなれば、私と立場は大差ないものになる。いい加減、その王女というのと敬語のような余所余所しい言い方はやめないか」


 さも、当然のような言い方だが、それが照れ隠しだという事くらいは解る。

 それに、立場が近いものになったって、王女に敬語を使わなければ不快感を示すような貴族はいるだろうし、王族といった肩書は、そんな簡単に飛び越えていいものではないだろう。だが、頬を染めながら、そっぽを向くように言われれば、俺も否とは言い辛かった。


「え、あー、うん。じゃ、そろそろ行こうか。ディアナ」

「うむ。魔王と話を詰め、私たちの未来への一歩を進めよう」


 手を差し出され、その手を取りながら俺は苦笑する。私たちの、ってそう言う意味なんだろうな……ここではさも、人類の未来っぽい事言ってるけど。クーの正妻発言と、ディアナが召喚時、何を思っていたのかを俺に全部話してから、彼女はちょくちょくこう言う感じだ。

 クーは未成年だったこともあり、成人してからもう一度答えを聞く、と決めている。でもそれも先延ばしなだけだよな……きっと、決断を迫られるんだろうな……俺の未来には避けようのない修羅場がある気がして、胃がシクシクしてきた。

 魔王との謁見もあるというし、ストレスがマッハだ。


「あ」


 いや、魔王との謁見なら、回避する事ができるんじゃないか? ≪影分身≫で! せっかくのユニークスキル、生かさねば損だろ!


「その、あ、というのが何か知らんが、間違ってもアルターエゴを使って魔王との謁見を済ませよう、なんて思わない方がいい」

「いや、うん。あははは! そんな訳ないだろ。お、お土産! クーとエイラ先生にお土産どうしようかなって!」

「ほぉ。私の隣にいて、他の女の事を考えているとは、良い度胸だ。その事も後でみっちりとお話しせねばなるまい」


 あるぇ!? なんか選択肢をミスったのか! 俺はディアナのアルカイックスマイルに身震いした。もうこうなったら魔王との会談の方がずっとマシだ。

 俺は半ばヤケクソになって、扉に手をかける。この扉の奥に、魔王がいるはずだった。豪奢な扉。ラスボス=魔王なイメージからは程遠い、清潔感があって綺麗な扉。

 俺はディアナと一緒にその扉を開けた。


「よく来たな。勇者よ」


 凛とした声に出迎えられる。この声の主が、魔王だろうか。

 人類と魔族、初の試みであるこの会談で、良くも悪くも何かが変わっていくんだろう。それが少し、楽しみなような、恐ろしいような……

 ともかく、俺が元の世界に帰るのは、ずっと先になりそうだ。そう思った。





ここまで拙作にお付き合いいただきありがとうございました。


これにて一応、本作は完結となります。

元々MFブックスの投稿用にと始めた作であり、一応それには間に合うように作る事が出来たことが、何より嬉しいです。


ブクマ、評価いただいた読者様、ありがとうございます。この作品についての続きに関しては、もっとご評価いただけたらまた書くかも……?


来週からはいったん止めていた元々の長編に戻ろうかと思います。良ければそちらも読んでいただけると嬉しいです。


▼以下その作品

http://ncode.syosetu.com/n2333cg/

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