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「歪みの苑」の続編となります。
もう一つの幸せを描いていけたらと思ってますので、よろしくお願いします!
※この話は本編読了後にお読みくださった方がいいかと思います。
閉じていたはずの双眸を開け、少年はあたりを見渡した。
漆黒に染められた周囲に一瞬驚いたが、少年は不思議なほど冷静だった。
「俺、寝てたよね」
立っているのか座っているのかもわからないこの空間。
いつもどおりベッドに入り、眠っていたはずなのだが――夢なのかと思っていると、ふいに視界に白が映る。
「いらっしゃい。驚いたわ」
黒い髪を揺らし、その身を包む白い服をなびかせながら佇んでいる一人の少女。可憐な笑みを浮かべる彼女の周りは、少年とは違って明るかった。
唇を歪めた少女は少年を見て小首を傾げる。
「あなた……」
「ねぇ、ここは夢? あなたは誰? 俺、寝てたはずなんだけど」
周囲を見ても彼女以外は漆黒に染まっていて、ここがどこなのかもわからない。
夢なのか、あるいは――
「夢か現実かで言ったら……その狭間のようなところかしら?」
小首を傾げつつ微笑む少女は、どこか不思議な雰囲気をまとっている。人であるはずなのに、どこか浮世離れした感覚がした。
「狭間?」
「そう。普段はめったに来れないはずなんだけど……あなた、不思議ね」
どっちがだ、と言おうとした少年よりも早く少女は言葉を紡ぐ。
「身に余るほどの闇を抱えてる。だからこそ、ここへの扉を開けられたのかもしれないけど」
その言葉にぴくりと少年の肩が揺れ、それを見た少女はかすかに口角を上げた。
「ねぇ。その闇の正体は何? そんな小さな体で、それほど深い闇を抱えてるなんて」
「……関係ないだろ」
「ふうん。まぁそうね……でも、私ならあなたの願いを叶えてあげられるけど」
「願い?」
不審な顔を向けた少年に、少女はくるりと体を回転させる。黒く艶やかな髪と、それと相反する白い服がふわりとなびいた。
「あなたの持つ闇。私なら、それをなくしてあげられる。代償はいらないわ、久しぶりのお客さんだから」
楽しげに笑う少女は、何の屈託もない。ただ単純に、この事態を面白がっているような。
「あぁ、何も今すぐじゃなくてもいいわ。時が来たら、またいらっしゃい」
可憐な笑みでそう告げた少女の顔が、ぐにゃりと歪む。
とっさのことに驚いた少年は彼女の言葉を理解するよりも早く、深い闇に包まれたまま意識を手放した。
――ゆるり、と双眸が開く。
いつもよりも軽い体に少年は首を動かし、そして頭の中に木霊する言葉を口の中で転がす。
「願いを……叶える」
得体のしれない少女だったが、どこか嘘を言っているようには思えなかった。
ならば。
どんな願いでも叶えてくれるというのなら――この己の中に住み続ける闇を、憎悪を消してくれるのだろうか。
少年は脳裏に浮かぶ人物に強く目を閉じた。