木曜日の女
いつも行ってる飲み屋のカウンターには、常勤の人の他に、その日によってアルバイトの子数人が入れ替わり入る。
その一人が、韓流スターみたいな、とってもイケメン男子なのである。
彼は木曜日のみカウンターに入る。 目の端に流れる前髪を払うでもなく、涼しい表情で煙草を吸う様は、何か少女マンガに出てきそうな具合だ。麗しい。
何も言わなくても、その佇まいから、今までの人生が円滑に進み、かつモテてきたことは容易に分 かる。 あまりに恐ろしくて、その辺の事情はこちらから聞いてみたこともなければ、切り出す勇気も出ない。
「キレイな顔だなぁ」と一目見たときから思って いた。 その図だけ見れば、まるでホストに会いにきた客のようでもあるけれど。
私はこのとき、ホストに通う女の人の心情がなんとなく理解できた。 お金を払いたくなるほどの美男子は確かに、居る 。
そんな木曜日にのみ、足を運ぶ女性がいる。
非常に美人である。年は30代くらいだろうか。 透き通るような白い肌に、ふんわりとカールした髪。 初対面の私にも話しかけてくれるような気さくな人である。
しかも、見ている限り、お酒も強くないようで、 さすれば目的は「飲酒」ではなかろう。
「彼のファンなんだろうな」ととっさに思った。
彼女のことは、さっそく店でネタになった。
イケメン君はいつものクールさを保ちつつ、「僕 から声をかけることは出来ませんから」と頑なだ 。
もし彼女が本当に彼のことが好きだとするなら、 一目見るために毎週通うのはなかなかにしんどい ことだろう。 彼女は、いつか彼が声をかけてくれるのを夢見て待っているのだろうか。
そんな私の老婆心をよそに、彼女は明日もきっと店に来る。