プロローグ~まさかの告白~
あまり期待しないで!
なぜ俺が
こんなことを
学ばなければならないのか…
数学教師が口走る呪文と
xとyと数字で埋め尽くされた
黒板とを交互に見る。
目と耳から情報が
入っては抜け、入っては抜け
を繰り返す。
「ではこのときのxの値が
わかる奴いるかー?
では…椎葉!答えろ。」
「えっ!?」
あの野郎…
俺が数学の問題など
わかるはずがないだろうが!
俺は
算数の段階で
躓いていた男だぞ!
高校一年一学期
入学後初めての授業が
数学だというだけでも
嘔吐しそうなのに、
まさか指名第一号とは…
はぁ…、
舌を噛み切って死にたい。
「おーい、早く答えろー。」
俺が答えに詰まって
30秒ぐらい経ち、
もう適当に答えて
この最悪の状況に
終止符を打とうとしたとき、
俺の机に神が舞い降りた。
あ、いや、
正確には…
『紙』が舞い降りた。
ノートの切れ端らしきものが
握力によって
小さく丸められている。
救援物資が飛んできた方向を
目で追ってみる。
どうやら隣の席の女の子が
投げてきたものらしい。
小柄な体と肩まで伸びる黒髪が特徴的なその娘は、
なぜか深刻そうな顔で
俯いたまま、
微動だにしてない。
そこで俺はとっさに、
この娘が助け船を
出してくれたのだと気付く。
(め、女神だ!!!)
神よ、
高校入学早々、
わたくしのような者に
ご加護をくださるとは…
もうあなたに一生
着いていきますよ!
(早く答えなければ!!)
焦っていた俺は
丸まっているそれを
音速で開き、
内容など気にせずに
一気に読破する!
「舞、俺がお前を幸せにする!だから俺と結婚してくれ!
………………………………
…ってえぇぇー!!!!!」
俺、プロポーズした?
舞にプロポーズした?
てか、舞って誰だよ!
静まり返る教室…
みんなの視線が痛いよ…
この惨状をどうにかするため、プロポーズ用紙の主である
隣の女神に声をかける。
「舞っていうのは
どこにお住まいの方?」
すると女神は
勢い良く立ち上がり
答えた。
『け、結婚なんて
できるわけないでしょ!!!』
「いやお前かよ!!」
『ぐす…、
結婚とか…無理だもん。』
「お前が言わせたんだろ!
そして泣きそうに
なっているのはなぜだ!」
『う、う…うわーん!!!!!!!』
女神は突然号泣を開始して
教室を飛び出してしまった。
訳がわからない…
自分でプロポーズさせて…
それを拒否して…
泣いて…
これじゃあまるで
俺が結婚しようと迫って
泣かせたみたいじゃないかー
あはははっ、あはははー…
クラスメイト全員が
俺を睥睨している。
まるで変態を見るように…
時は過ぎ、教室ではHRで
担任教師が何やら
明日からの予定を話している。
だがそんなことは
どうでもいいから
早くこの地獄の空間から
帰らせやがれクソ野郎。
「マジ変態だよねー」
「やつは汚物よ!」
「あたしさっき
お尻さわられたよ!」
お尻は断じて触っていないが
この状況はマズい。
みんな明らかに
誤解している…
誤解を解こうにも、
あの元女神(現悪魔)は
もうここにはいない…
これでは、
みんなに
「あいつに言わされた」
と弁明したところで
信じてもらえるはずもない…
どうしたものか…
「君も大変だね。」
…????
100年に1度の変態(1時間目の休み時間に命名)と呼ばれる
俺に話しかけるアホが
いたとはな。
こいつ、自殺志願者か?
『俺なんかに
話しかけていいのか?』
「僕はああいう思い切った
行動は好きだよ。」
『ち、違っ、あれはだな…!』
俺は慌てて否定しようとする。しかし、そこに
こいつの声が割り込む。
「わかってるよ。
柚木崎さんに
言わされたんでしょ?」
「ゆきざき???
あの悪魔の名か!?」
柚木崎舞、
これがやつの名前らしい。
でもなぜだ?
この吐き気がするほど
顔が整っている男はなぜ
真相をしっている??
「まあ落ち着きなよ。
あれはあの娘なりの
スキンシップというか、
友好の印だからさ。」
ははは、なんだぁー、
あれは俺と友達に
なろうとしての
行為だったのかー。
あー、安心した~
良かった良かったー
…………………
「んな訳あるかぁぁーーい!」
俺は激しいツッコミと同時に
自らの学生鞄を
床に全力投球する。
どこの世界に
友達になろうとして
自分に告白させる奴が
いるんだよ!
「僕は下舞満
(しもまいみつる)だよ。
よろしくね。」
『自己紹介のタイミング
おかしいだろ!!
今はお前のことより、
柚木崎舞について
詳しく教えろ!!』
この下舞とかいう男、
顔はいいけど
ちょっと変人らしいな。
「柚木崎さんとは
中学が一緒だったからね、
彼女については
よく知ってるんだけど…」
…………………………………
下舞は意味ありげな
変な間を空ける。
『な、なんなんだよ?』
ゴクッ、
下舞が醸し出す緊張感に
思わず息を飲む。
「一言で言えば、
彼女は変人だよ!」
『いや、お前が言うなよ!!』
思わずツッコむ。
「まあまあ士郎くん、
話をきいてくれよ。」
「いきなり下の名前?
てか教えてねーのに…」
「僕はクラスメイト全員の
顔とフルネームぐらいは
入学前に暗記しているよ。」
ビシッ!(b^ー°)
っと親指を立てる下舞。
口から覗く白い歯が
まぶしいな。
「話を戻すけど、
彼女はちょっとひねくれた
ところがあってね、
普通のやり方じゃ
友達が作れないんだよ。」
下舞は柚木崎舞の講義を
再開した。
「彼女は仲良くなりたい人を
見つけると、
まずその人を
何らかの手段で陥れる。」
『ひでぇな…』
「そして相手が抗議してきた
ことをきっかけにして
仲を深めようとするのさ。」
ひねくれてるにも
程がある…
『よくそれで友達できるな…』
「椎葉くん、早とちり
しちゃいけないよ。
彼女はそのやり方のせいで
中学では1人も
友達がいなかった!(b^ー°)」
『なんでそこで
(b^ー°)なんだよ!
そんでもって
全然ダメじゃねーか
柚木崎!』
いやでも考えてみると、
あいつが俺を陥れたって
ことは…
俺と友達になりたかったのか?
まあ、
手始めに隣の奴と仲良くなろうとするのは定番だしな。
でも俺はその安易な考えの
せいで、
このクラスで羽ばたくための
翼をもがれた!
それはもう酷たらしく
引きちぎられたのだ!
簡単に水に流してやることなどできるだろうか?
いやできん!
断じてできるはずがない!
「下舞よ、
柚木崎舞のパーソナリティーは大体理解した。
だが俺はあの女を許してやることがどうしてもできんのだ。
明日のHR、
みんなの前であいつに
真相を話させるためにも、
俺はこれからやつの家に行き
やつを説得してくるんだ(今決めた)。
だからあいつの住所を
教えてくれないか?』
しばしの沈黙の後
下舞は重々しく口を開く。
「いいけど、
彼女の家なんか行ったら
余計ややこしいことになるよ」
た、確かに…
柚木崎の家に行ったのが
クラスの誰かにバレれば
あだ名が《変態》から
《変態ストーカー》に
成長進化するだろう。
だが、
かといってこの状況を
放置するわけにもいかない…
ここは賭けだ!
『覚悟の上だ』
「まあそこまで言うなら
僕には止められないな。
(…それにちょっと楽しみだしね)」
『ん?最後なんか言ったか?』
『別に?
何も言ってないよ(笑)』
(笑)が気になったが
下舞に柚木崎の住所を聞き、
その近辺までやって来た。
人通りの少ない高級住宅街。
でかい家(時々豪邸)が
いくつも軒を連ねている。
(場違いだな俺…)
劣等感に苛まれていると、左前方15m、下舞に教えてもらった住所に白い豪邸を確認。
この高級住宅街の中でも
一際大きいその家は
まだ新築なのか、遠目から
見てもその混じりっ気のない
白さが際だっている。
「やっぱいざとなると
緊張するもんだなー」
家の前まで行ってしまうと、
もう引き返せなくなる。
15m手前で
立ち止まってしまう。
「今更何やってんだ俺!
覚悟決めたんだろ!
迷わず行けよ!
行けばわかるさ!
バカヤロー!!」
猪木になった俺は
柚木崎邸へ走りだそうと
脚に力を込めた。
その時…
ドゴォーン!!!
白い豪邸の扉が
いきなり中から
蹴破られた!
「ちょ、待て!
いきなりすぎるだろ!」
突然の出来事に驚き、
俺はとっさに、
3m程後方の曲がり角の塀に
急いで身を隠す。
我ながら情けないが
まあしょうがないじゃないか。
俺は塀から僅かに
顔を出して
柚木崎邸の様子をうかがう。
「………しよう……頼む!……じゃないか……舞!」
40歳ぐらい、
白髪まじりの短髪、
割とスタイルがいい
おじさん、いや、雰囲気は
《おじさま》って感じの人が
なにか言っている。
説得をしているような
感じだな。
対して、
説得されている方は、
白くて、フリフリがいっぱい
ついたワンピースを着た
肩まである黒髪の少女、
間違いない、柚木崎だ。
『うるさいうるさい!
邪魔なのはわかってる!
もう帰らないから!』
そう言って柚木崎は
俺がいるのとは
反対の方へ、
プンプン!という擬音が
似合いそうな歩き方で
去っていこうとしている。
にしても
柚木崎の声は高くて
よく通るな。
15m離れている俺にさえ
はっきり聞こたぞ。
しかしまあ…
ベタな家出だな…
にしても…
まさか家出の瞬間に
出くわすとはな。
しかし物は考えようだ。
これは家に訪ねる手間が
省けたってもんだぜ。
さて、やつに直談判
しに行きますか…
と、その時だった。
柚木崎が歩いていこうとする
方向から、
学ランをだらしなく着た目つきの悪い三人組の学生が
ニヤニヤしながら
柚木崎に近づいてくる。
こ、これは、まさか…
あれか!?
あのパターンなのか!?
そして三人組の真ん中、
もはや絶滅危惧種の
リーゼントの男が
俺の期待に答えてくれた。
「へいへいネーチャン
いいけつしてるねぇ~」
ベタナンパきたーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!
こ、これはもはや俺の期待すら軽く越えている!
俺は精々
「ネーチャンお茶しな~い?」
止まりだと思っていたのに!
ケツとお茶では
フリーザとセルぐらい
差があるぞ!
だがしかし
一番ビックリなのは
あの往年のナンパに
ガチビビりしている
柚木崎だな。
俺からは後ろ姿しか見えんが
両手の拳を自分の胸に寄せ、
軽く内股になりながら
震えている。
「ぁ、の…
と、通してください…」
『あぁん?聞こえねーよ!』
びく!!!
リーゼントの
これまた一際ベタな怒号に
柚木崎はより一層
萎縮している。
ここはベタにいくと…
①俺が「こいつは俺の女だ!」的な発言をしながら柚木崎と
リーゼントの間に躍り出る
②殴りかかってくるリーゼントを返り討ち
③舎弟二人が気絶したリーゼントを運びながら逃げつつ、
「覚えてやがれー!!」
なのだが…
俺がそんなにベタな人生、
歩むはずがなかろう!!
柚木崎のやつ
ざまあみやがれ。
俺を変態にしてくれた
罰だな、これは。
「じゃあネーチャン、
ちゃっちゃと行こうや」
『……………………………』
ん?
なぜそこで無言なんだ?
ここはもう1つの
ベタパターンである
《家出したばっかりなのに泣きながら家に戻って『パパ助けてー!!!!』で、仲直り》
だろ?
このままだとあいつ、
マジで連れてかれる。
連れてかれたらおそらく、
明日のHRに
俺の変態評価をリカバリー
することは不可能だ…
仕方がない。
ベタではあるが、
俺が救出するしかないか。
俺は中学のとき柔道部に
所属していた。
そのため、柔道2段だ。
リーゼント1人ぐらいになら
勝てる自信がある。
「やめたまえ君達!
彼女が困ってるじゃないか!」
俺はこのベタな
シュチュエーションに
敬意を払い、
自らも合わせてみる。
……………………………
あ、あれ?
なんでみんな絶句?
さっきまでお前ら
これで成立してただろ!
「あんた何時代の人?
てか………
殺してほしいの?」
おいおい
どうしたリーゼント!!
この一瞬の間に
君になにがあったんだ???
いきなり《大昔の不良》から
《現代のキレる若者》に
進化を遂げてるよ!!!
「キ、キモ…!!」
『お、お前までっ!!!!』
柚木崎にまで見捨てられた…
リーゼント達の手には
1人1つずつスタンガンが
構えられる!
くそっ、
さっきまでのベタは
罠だったのか!
「卑怯ものどもめぇぇー!」
三人組&柚木崎とっては
意味不明なセリフを吐き、
柚木崎の手をつかみつつ
逃亡を試みる!
俺は先ほど隠れていた方向へ
踵を返し、全力疾走!!
「ちょ、いきなり逃げるの!?」
俺は柚木崎の言葉を
無視して走りつづける。
三人組の方は
見ないようにして、
人気の多い方へと向かう。
走って走って、
商店街に逃げ込んだ。
多少人通りはあるものの、
やはり不安なので
どこか入り込めそうな
建物をさがす。
「ちょ、ちょっとあんた…
あたし…もう…
は、走れないわよ…」
激しく息切れした柚木崎が
休憩を希望している様子。
こいつに気を使ってやるのは
なんだか癪だが、
ここまで走らせたのは
ヘタレの俺である。
走るのをやめ、
柚木崎の手を取りながら
休憩に適した場所を探す。
今まで女の子と2人で
どこかに出掛けることなど
したことのない俺は、
どこに入ればいいか
あまり見当がつかない…
(どこかゆっくり座れて
ジュースでも飲めるところ…)
そんなことを考えながら
必死で辺りの建物に
目を凝らしていると…
「ちょ、ちょっと、
あ、ああ、あんた!」
『えっ?何だよ?』
「て、ててって、手!手!」
『手?』
さっきまで走っていたせいか、ほんのり顔を紅潮させた
柚木崎が、俺に手について
指摘しながら激しく睨む。
まだ緊張が抜けていなかった
俺は、柚木崎の手を結構強めに握ってしまっていた。
身長178cmの俺を
身長が推定140cmほどの
柚木崎が見つめると
自然と上目遣いになる。
顔を赤く染めた女の子に
手を繋いでいることを
上目遣いで指摘され、
俺は思わず少し照れる。
『あっ、わ、悪りぃ…』
俺は急いで手を離す。
「あっ…」
そこでなぜか柚木崎は
少し残念そうな声を出す。
さっき「て、てて、手!」
とか言って思いっきり
嫌がってたじゃねーか。
意味が分からんぞ。
「ていうかあんた!
さっきから無意味に
迷いすぎなのよ!
逃げ込む場所ぐらい
さっさと考えなさいよ!」
そう言って
プィっと
そっぽを向いてしまった…
今度はなぜか
物凄く怒っているようだ。
なんで?
俺なんかしたか??
まあ
柚木崎がキレているので
俺は休憩する所を
さっさと決めることにする。
『じゃあ、あそこの
カラオケにするか。
俺も2人きりで
話したいことがあったから
丁度いいしな』
そうだ。元はといえば
俺の変態疑惑を解消するために柚木崎に会いに来たのだ。
「えっ!
話したいこと?
し、しかも2人きり…」
そう言ってから、
カラオケBoxに入って
現在ソファーに
腰掛けているのだが、
柚木崎は何やら
ずっとブツブツ言っている。
(やった!
作戦は成功してた!
…でも
告白だけですむの?)
「おい、ドリンクバー
入れてくるけど
お前何飲む?」
(カラオケ=密室…
男と女が密室で2人きり…
お、男は性欲の魔神…)
「おい!聞いてんのか?」
(強いお酒で酔わされる…
正常な判断力を奪われる…
甘い言葉で誘惑されて…
そのまま………………!!)
「おーい、柚木崎さーん」
『お、お酒なんか
飲まないんだからね!!!』
「なぜいきなり酒!?
心配しなくても
ドリンクバーに
酒はねえよ!!!」
『ふ、フン!どうだか!』
柚木崎の謎の発言に
困惑しながらも、
俺は無難にコーラを選んだ。
コーラを入れたコップを
ふたつ持ち、通路を戻る。
いやいや待て待て!!
(なぜ俺はあいつに
これほど親切にしている?)
俺、あいつのせいで
クラスで変態扱い
されてるんだぞ!!!
羽をもがれたんだぞ!
そうだ!
あいつにはもっと
強気に!強引に!
部屋に戻ったらまず…
明日のHRでの
《俺=変態》撤回宣言
の要求を、横柄とも言える
態度で押し通してくれるわ!
俺は歩を進め、
部屋のドアの前で立ち止まり、1度大きく深呼吸。
右手で持っている方の
コーラを一気に喉へと
注ぎ込む。
そして家出時の
柚木崎のように
勢い良くドアを蹴り開ける!
「柚木崎!!!
俺の頼みを聞いてもらうぞ!」
『………………………』
…………??
俺がいきなり
横柄すぎる発言をしたにも
かかわらず、
柚木崎は立ち上がって
反論するどころか
ソファーに座ったまま
自分の膝小僧とにらめっこ。
その横顔は
時間の経過と共に
不安→困惑→思案…………
と、次々とシフトチェンジ。
数々の表情を経て
………→決意
で止まる。
何かを決意したらしい
柚木崎は、
顔を目一杯紅潮させ…
ついにその重い口を開く。
『は、初めてだから
優しくしてください!!!!』
「……………はい?」
このセリフ…
俺に体を捧げようとしている?
俺がいつ
そんなフラグを立てた?
そもそも俺たち
会うの今日で2回目だよ?
俺が脳内でバグを
発生させていると、
柚木崎は
早口で話し始めた。
『今日はいきなりだったから
し、下着もあんまり可愛いの
じゃないけど…………』
いきなり下着トークを
始めたぞ!!!
『でも男って…
結局…さあ…
み、みんな…
ぬ…ぬ…
ぬぅぅ………!』
「ぬ?」
『脱いじゃえば
こ、ここ、
興奮するんでしょ!!!』
そう叫ぶと同時、
柚木崎は自らワンピースの
裾を両手で掴み、
そのフリフリがついた布を
捲り上げようとする!
「な、何考えてんだよお前!」
俺は
慌てて部屋へと駆け込む。
両手のコップを
後ろへ投げ捨て、
柚木崎の手を抑えようと
彼女へと飛びつく。
だが俺は自分で
考えているよりも
ドジだったらしい…
俺は
柚木崎の手前で
テーブルの脚に躓き、
バランスを崩して
彼女へとダイブしてしまった。
「うおっ!」
『ひゃん!』
激突した俺たちは
そのままソファーへ
倒れ込んだ。
結果的に…
俺が柚木崎を
ソファーに押し倒した
みたいにになってしまった。
いや実際に押し倒したんだけどこういうときの『押し倒す』は意味合いが…ねぇ…。
ソファーに背中を付け
完全に仰向けになった
柚木崎。
その上から全身をぴったり
密着させて、うつ伏せで
重なる俺。
俺の顔面はというと
柚木崎の顔面を通り過ぎて
彼女の肩まである
黒髪の中に埋もれている。
彼女の耳が俺の耳に
当たっているのを感じる。
柚木崎のツヤツヤした髪から
ほんのり甘酸っぱい
香りがする。
『ううぅ、痛いよ…』
「えっ?んっ?
あっ!ご、ごめん!」
俺はすぐさま上半身を
起こそうと、
ソファーに両手をついて
起き上がろうとした。
そして
とんでもないことに
気付く。
柚木崎のワンピースの裾が
胸のちょい下、ブラが
ギリギリ見えないくらいの
ところまで捲れあがって
しまっている。
今すぐに起き上がれば
柚木崎にパンティーを
晒させてしまう…
う、動けない…
そのため、
中途半端にしか
頭を上げられず、
俺と柚木崎の
顔の距離は
ほんの数cmにまで接近!!!
柚木崎は少し強めに頭をうったせいか、
目を閉じながら
「うぅ…」と唸っている。
え、エロい。
男ならみんなそう思うだろう。
(うっ、
り、理性もたな…)
本能むき出しの
野獣になりかけた瞬間、
彼女の前髪に目が止まる。
綺麗な黒髪の中に
少し黄色が混じっている。
(ゴミ?)
本能を紛らわせるために、
あえて俺は前髪についている
何かに意識を集中する。
手で払ってみる。
取れない。
ちょっと強めに
前髪をファサファサ
してみる。
…あーくそ、取れん。
思い切って、
頭頂部を掴み、
髪全体をゴソゴソと
まさぐってみる。
すると、
柚木崎の綺麗な黒髪は
おでこの生え際のあたりから
ずり落ちた。
……………ん??
ずり落ちた?
いやいやいやいや!
なぜ女子高生がヅラを
している!?
気が動転して、
俺は黒髪ヅラを
一気に取り去る。
き、金髪…
黒の下は
まさかの金だった。
しかも長い。
今はくしゃくしゃになって
いるものの、
立ち上がれば、
腰あたりまで
あるのではないだろうか?
「ん…なに…?」
やば!目が覚めたようだぞ!
金髪に動揺しすぎて
俺は何もできずに
固まってしまう。
「え?は?
ちょ、あんた
なに乗っかってんのよ!
(…………………あっ、
でもこれでいいのか…)
は、早く続けなさい…」
『女の子が押し倒されて
言うセリフじゃねえ!!!
それよりお前、髪…』
「髪?
えっ!!!もしかしてっ…」
柚木崎は顔を横に向け、
露わになった
金髪を認識する。
「………ひっく、ひっく」
『なんで泣くんだよ!』
************
俺たちは姿勢を直して、
ソファーに隣り合って
すわった。
柚木崎は金髪だった。
グレてるのかな?
「これは地毛よ」
『考えが読まれてる!
いや、地毛って方が
すごいけどさ!』
「パパがアメリカ人。」
『………
お前の家出止めてた人か?
どう見ても日本人だったぞ。』
「あの人はママの再婚相手よ
パパはあたしが小5のときに
病気で死んだわ。」
『…そっか。
でもまさかお前が』
ハーフだったとはな。
どうりで金髪な訳だぜ。』
「ハーフじゃない
ママもアメリカ人だから」
『はい?』
「パパもママも
出身はカリフォルニアなの。
でもパパは若いときに
日本国籍を取得したから
私は日本人。」
そう言って、
柚木崎はいきなり
自分の目に指をつける。
コンタクトレンズを
取っているようだ。
俯いたしせいから
顔をあげると………
青い…………
宝石みたいだな。
ベタな例えだけど。
見事に青い目をしている。
目の前の
金髪碧眼の美少女は
あの柚木崎なんだよな?
もう完全に別人じゃないか。
遺伝子はアメリカ一色。
でも国籍は日本。
ゆえに日本人。
ん~、違うだろ!
だが今はそんなことよりも
言わなければならないことが
あるよな、俺には。
「俺は今変態なんだぞ!!!!」
『どういう返しよ!
なんで
青い目から変態なの!?』
「お前の奇行のせいで
クラスで変態扱いを
受けているんだ!
責任とって
明日のHRで
みんなに全て説明しやがれ!!」
『あ、そのことか』
はてさて、
俺の変態疑惑と
こいつの金髪碧眼の詳細は
どうなることやら……
人生で初めて小説を書きました
疲れた!
まあ見てのとおり、
なにも解決していません…
プロローグと思って
頂ければ幸いです。