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誰にでも出来る簡単な仕事(大嘘)  作者: うどん


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12/21

12:赤と青の卵を仕分けるだけの仕事

 最新のVRゲームを堪能する毎日。

 広大なマップを探索して、モンスターを討伐し。

 はぎ取った素材で強い装備を手に入れて……楽しかった。


 飽きる事が無い。

 ゲームはやっぱり最高だ。

 そんな事を思っていれば……バイトの連絡が来た。


《ノルマが達成できない可能性が高いので、急で申し訳ありませんがお越しいただくことは可能でしょうか?》

『今ですか……今はぁ……あぁ』

《――今回の報酬は300万でいかがでしょうか?》

『行きます』


 今回は二週間ぶりだ。

 何時もなら割とすぐだった気がするが……まぁいい。


 電話越しに今回の仕事の内容やルールを聞く。

 聞いた感じであれば、普通に簡単そうだった。

 今回も楽な仕事なら嬉しいと思いながら準備をする。


 春も終わり、学生たちは夏休みシーズン。

 コンテナハウスの外からもよく子供の声が聞こえていた。

 楽し気であり、俺の学生だった頃の夏休みの時は……まぁいいか。


 一応、遅くなることも考えてイチのごはんを沢山入れておく。

 コンテナハウスのエアコンをつけっぱなしにもする。

 何かあった時の事も想定して前回と同じようにマイケルにメッセージだけ送っておいた。

 仕事の事は伏せておいて、翌朝になっても連絡がなければイチの事を頼むと。

 すると、秒で連絡が来て……めちゃくちゃ心配されたな。


 多分、大丈夫ではあるとだけ伝えておいた。

 薄々、仕事に行くのだと勘づかれてそうだったが……まぁいい。


「……行ってきます」

「わん!」


 イチに見送られてコンテナハウスを出る。

 予備の鍵は、使っていないポストの中に入れておく。


 Aさんからの指示で、今回は直接、仕事場へと行く事になった。

 服装は自由だと言われたので、何時も着ている青いジャージで向かう。

 少し場所が妙だったので、レンタカーをレンタルして現地に向かった。




 複雑な指示だった。

 山の中に入り、分かれ道を右や左に曲がっていった。

 こんなに広い山だったかと思いながら進んで……あれか?


「……工場か」


 見えて来たのはどう見ても工場だ。

 人の気配はしない上に、トタンの屋根はところどころ剥がれ落ちていた。

 明らかに、廃工場に見えるが……まぁいいか。


 ガラガラの駐車場に車を停める。

 人の手から離れて長いのか、草がアスファルトを突き破っている。

 罅まみれで荒れ放題だった。


 車を停めて外に出る。

 鍵をかけてから……あ。


 工場から誰か出て来た。

 見ればAさんであり、俺は彼女の元へと向かう。


「お待ちしておりました……既に、他の方々は作業を始めていますので。業務の再確認は必要ですか?」

「いえ、大丈夫です」

「……では、私について来て下さい」


 Aさんについていきながら、今日の仕事について考える。

 今日やる事は簡単で――“卵の仕分け”だ。


 流れて来る卵の仕分けで、卵には色がついている。

 赤と青のたった二種類。

 目の前に卵が来た瞬間にそれぞれの対応するボタンを押す……それだけだ。


 説明では、赤い線から別の赤い線までがボタンが認識する範囲らしく。

 それの前でも越えてしまってもボタンが作動せず卵はそのまま不良品と判定されてバケツに落ちるらしい。

 この仕事において、不良品が出る事は絶対に無いらしい。

 兎に角、赤か青かだけを間違えないように仕分けするだけだ。


 勿論、この仕事にもルールがある。


 一つ、赤と青の卵の仕分けを間違ってはならない……以上だ。


 何時ものようにルールが幾つもある訳じゃない。

 たった一つであり、間違わなければいい、それだけだ。

 基本的な事であり、それ以外であれば何をしてもいいということだ。

 勤務時間は3時間。

 たったこれだけで300万円が貰える……良い仕事だなぁ。


「「「――――ッ!!?」」」

「……ん?」


 工場内に入り、複数の扉の前を通っていく。

 すると、扉を激しく叩く音や奇妙な鳴き声が聞こえてきた……鶏?


 Aさんも足を止めて俺を見て来る。

 暫くすれば、人の声は消えて……扉の隙間から赤い液体が流れて来た。


「……まぁいいか」

「……こちらです」

「はい」


 案内されるままについていき……一つの部屋を示された。


 改めて確認すれば、間仕切りで部屋を仕切っているだけだ。

 広めのネットカフェの部屋を少し頑丈にした程度のものか。

 部屋の中に入ろうとすれば――扉が勝手に開いた。


「「……」」

「どうも」


 部屋から出て来たのは黄色い防護服のようなものを着た二人組だ。

 何やらバケツやモップを持っていた。

 バケツの中身が見えたが……まぁいい。


 彼らはぺこりと頭を下げてから奥の方に行ってしまった。

 Aさんは彼らの事は説明せずに、無言で部屋の中に入るように視線で訴えかけて来た。

 俺は静かに頷いてから部屋の中に入る……へぇ。


 想像に近い部屋だった。

 部屋の広さは六畳ほどで、中央には真っすぐに伸びるベルトコンベアのようなものがある。

 ベルトコンベアには等間隔に天井の方を向くように針のようなものが伸びていた。

 扉側のコンベアの終わりには錆び塗れのバケツが一つある。

 他には、天井から赤や青の……目玉のようなものが無数についた謎の……機械か?


 ジッと俺の事を目玉が見ていた。

 その視線を無視して他のものも観察する。


 天井の照明は白熱電球が一つ。

 部屋の明るさはそこそこだが、視界に問題はない。

 壁に貼られた昭和にありそうなビールのポスター。

 古そうなラジオカセットが置かれている。

 ベルトコンベアの中心あたりには、パイプ椅子が一脚。

 椅子の前には赤と青のボタンがついたパネルがある……分かりやすいな。


「……」


 椅子の方に近寄る。

 ベルトコンベアの上にアーチのように掛かった赤い線が二つ。

 その間隔は……まぁ20から25センチくらいか。


 つまり、この線の間で卵を仕分ける為のボタンを押さなければならない。

 一度のミスも許されない仕事という点では難しく感じるかもしれないが……まぁいい。


 ベルトコンベアの先には穴が空いていた。

 あそこから卵が出て来るのだろうが、穴の先は闇のように暗い。

 出て来る直前までは見えないだろうが……最初の線まではそれなりに距離がある。


 どれほどの速度かは分からないが問題はない。

 冷静に対処すれば済む話だ。

 そう思いながら、俺はパイプ椅子に座りバッグを横におろした。


「合図が鳴ります。それから業務の開始とさせて頂きます。それでは――よろしくお願いします」

「はい」


 Aさんはそれだけ伝えて扉を閉じた。

 鍵が掛けられた音がした。

 俺は視線をコンベアの先に向ける……ん?


 カチリ、と何かのスイッチを押したような音が聞こえた。

 何かと思っていれば……曲?


「…………ラジカセか」


 ラジカセが勝手について昭和にあったような曲を流していた。

 何の曲かは分からないが……まぁいいか。


 仕事の始まりの合図だろうと思っていれば、コンベアが動き出す。

 俺は二つのボタンに手をのせた。

 そうして、コンベアの先を見つめて……出て来た。


 ゆったりとしたペースで――最初に赤い卵が流れて来た。


「……」


 ジッと見つめる。

 そうして、最初の赤い線を通過したタイミングで――赤いボタンを押した。


 そのまま赤い卵は最後の赤い線を通過した。

 どうなるのかと見ていれば――赤い方の目玉塗れのそれからにゅっと何かが伸びた。


「んんあぁぁん!!」

「……うん」


 にゅっと伸びたのは口だった。

 それが赤い卵を一口で丸呑みした。

 俺はそれを確認してから、再びコンベアの先を見つめて……連続か。


 赤、青、赤、青、青……順番に押していく。


 カチ、カチ、カチと音が響いていく。

 そうして、視線を向けずとも卵を目玉の何かが食べていると音で分かる。

 その後も、一定のスピードで卵は流れて来る。

 俺はそれをジッと見つめながら、ただ機械のように業務を熟していく――




 業務は進んでいく。

 少しコンベアの速度が上がった気がするが……問題はない。


 精確に仕分けをしていく。

 この調子であれば、何も問題は――ん?


 急に電球の明かりが消えて……またついた。


 消えたり、ついたりを繰り返している。

 一瞬だけ卵が見えなくなり、ペースが乱れそうになる。

 が、すぐに適応し速度を合わせていく。

 念の為に、卵の色が変わっていないかも見ておくが……これは変わらないな。


 消えて、ついて、消えて、ついて……消えている時間が?


 時間にすれば1秒か2秒とばらつきがある。

 目がちかちかとする。

 が、これくらいであれば問題はない。

 俺は普通に業務を遂行していき――



「井上ぇぇぇぇぇ?」

「――鬼瓦部長?」



 鬼瓦部長――前職の上司の声だ。



 特徴的な声だったからよく覚えている。

 何で部長の声が聞こえたのかと少し驚いたが。

 俺は気にせず仕事を続けていき――腕の皮膚に熱を感じた。


 何か細いものを押し付けられて皮膚が焼かれた。

 腕に感じるこの痛みは――煙草か。


「井上ぇぇぇぇ? なぁにぃ無視してんだぁぁぁ? あぁぁ?」

「……」

「おいおいおいぃぃ! 何時からテメェは俺の事を無視できるほど偉くなったんだぁぁぁ? なぁぁ!!」

「……」


 鼓膜が裂けそうなほどのデカい声で叫ばれた。

 耳元で叫ぶ癖も本物そっくりだ。

 言い方も部長そのものであり、懐かしさすら感じた。

 が、それでも俺は目の前の仕事に集中し――頭に強い衝撃を感じた。


「……いて」


 硬いガラスの感触だ。

 じんじんと頭が痛みを発していて、血が流れて……は、いないか。


 部長が部下を殴る為に置いているお気に入りの灰皿の感触だ。

 馴染みのある脳を揺さぶる衝撃で……少し違うな。


「井上ぇぇぇ? 井上ぇぇぇ? おぉぉぃ。無能の糞カス野郎って呼んだ方がいいかぁぁ? 返事しろやぁぁぁ!!!」

「いて」


 また頭を殴られた衝撃が伝わって来た。

 血は出ていない。ただの衝撃だけだ。

 それが痛みとして脳が認識しているのか……まぁいいか。


 じんじんと頭が偽物の痛みを発する。

 一瞬だけ意識がブレもした。

 ボタンを押し間違いそうになるが堪えた。


 どれだけ経ったのかは分からない。

 まだまだ終わる事は無いだろう。

 鬼瓦部長のせいで集中が少し乱された。

 ちょっと困ると思っていれば……ぷすっと首に鋭い痛みが走る。


「ぁ」

「井上ぇぇ? 何時ものテメェはもっと素直で可愛げがあったのによぉぉ……教育、しなきゃなぁぁ!」


 鬼瓦部長はもう一本の安全ピンの針を俺の首に刺す。

 そうして、くちゅくちゅと弄り始めた。

 細い安全ピンの針であろうとも痛いものは痛い。

 寧ろ、細い方が痛みとしてはハッキリと認識できる。

 それもねちっこく弄るから意識が乱されるほどには痛い。


 鬼瓦部長が得意な教育だ。

 他の部下にもやっているところを見たことが何度もあるが。

 大体の部下がそれのせいでロボットのようになっていた。

 意思無き傀儡であり、俺もそうなるのかなぁと何となく思っていた。


 物理的な洗脳のようなもので……まぁいいか。


 俺は痛みの中でも業務に集中する。

 鬼瓦部長はげらげらと笑っていて――数が増えた?


「おぉぉぉぉ? 偉いじゃねぇぇぇかぁぁ! 言われた通りの仕事を熟すなんてなぁぁ!!」

「だがまだまだだなぁぁぁぁ? ノルマすら出来てねぇぞぉぉぉ? 会社のじゃねぇぇ俺のノルマがなぁぁ!!!」

「井上ぇぇぇぇ!!! もっと集中しろやぁぁぁ!!」

「……おぇ」


 吐き気を覚える。

 痛みやらデカい声のせいで頭痛がする。

 その間も、照明がついたり消えたりを繰り返している。

 コンベアの速度も少し速まり……まぁ、問題はない……と思う。


 俺は鬼瓦部長の刃物のような言葉を聞き流し。

 彼の教育に抗いながら、それでも仕事に専念する。


「「「こっtiをMいRおぉoぉぉ!! inoうeイのuエiのuエえinouエァinoエ!!!」」」

「……」


 声にノイズが走ったような不快な音が混ざる。

 人の声じゃない。色々なものが混ざり合ったような音だ。

 黒板に爪をたてて、ガラスを爪で、金切り声、赤ん坊の泣き叫ぶ声。

 心臓が激しく鼓動し、呼吸が苦しくなっていくのを感じる。

 そうして、卵を見ればぎょろりと目が浮かんでいた。

 血走った目であり、真っすぐに俺を見つめている。

 

 不安、恐怖、憎悪、怒り……見つめるだけで負の感情が出そうになる。

 

 意識が乱れる。

 心が狂っていく感覚。

 手が震え始めていた。

 呼吸も少し乱れて――唇を噛み切る。


「……」


 口内に血の味が広がる。

 不快な味で、何度も飲んでいたもので――これだけでいい。



 他はいらない。

 他のものは殺せ。

 心を乱すな、感情すらも捨てろ。

 何もいらない、何も求めない――――“仕事だ”。



「「「ハhaハaaハ!! ino上ぇeeぇぇ!! やっぱriテメェはa俺no最kouの――dou具だぁAAぁaaぁxwrawe!!」」」

「……」



 鬼瓦部長のような何かはげらげらと笑う。

 そうして、俺の心を乱そうとしてくる。

 真面な人間の心を壊すような罵声に怒声。

 場に不釣り合いな曲に、電球はバチバチと点滅し。

 卵の目はジッと俺を見つめて来る。


 声と音。

 主張の激しい全てが混ざり合う。

 まるで、雑音のオーケストラだ。

 脳内にノイズのような思考が紛れそうになるが――“すぐに消す”。


 全てが集中力を乱す要因。

 明らかに手元を狂わせようとするそれらだが――どうでもいい。


 鬼瓦部長が本物かどうかは関係ない。

 少なくとも、彼への対応は業務には含まれていないのだ。



 ただ、彼には少なくとも――“恩は感じていた”。



 何故なら、社会の厳しさ、どんな事があろうとも仕事はやり遂げる信念。


 

 そう、全ては――




「貴方が、俺に――教えた事ですよ」

「「「ハhaハaaaハhaaハハ――ッ!!」」」




 彼は笑う。

 狂ったように笑って――


 #


「あぁ……疲れた」

「……今日は一段とお疲れのようですね」

「え、あぁ、まぁ……はい」


 何とか業務はやり遂げた。

 ラジカセの曲が停まって、コンベアも止まった。

 卵は全てちゃんと仕分ける事が出来た。

 目玉の何かを見れば、目を細めて……笑っていたのかな?


 気づけば、鬼瓦部長の声も聞こえなくなっていた。

 体の不調やら心拍数も元に戻っていた。


 結局、アレは何だったのか。

 殴られたような痛み針を刺したような痛みも嘘のように消えていた。

 首を触っても、針の穴は勿論、血の跡も無かったしな……。


「まぁ……いいか」

「……こちら、本日の報酬になります」

「どうも……?」


 車の音がして視線を向ける。

 すると、白いバンが駐車場内に入って来た。

 止まったかと思えば、防護服を着た人たちが降りて来る……あの人たちは、さっきの……。


「彼らは掃除係です。主に、現場の後始末を担当しています……普段は必要ありませんが、この場は稀に人が来る場合もあるので」

「……はぁ、そうですか……じゃ、俺はこれで」

「――井上様」

「はい?」


 帰ろうとすれば呼び止められた。

 何だろうと思って振り返ればAさんはジッと俺を見つめて――


「絶対に叶えたい願い……井上様には、ありますか?」

「………………まぁ、はい」


 絶対に叶えたい夢。

 いや、正確に言うのであれば絶対に叶わない夢だがある。

 それは俺が生きていて良かったと思えるような出会い。

 人生に満足できるような最高の……そうだな、今ならゲームかな?


「……そうですか。それなら、良かったです」

「……?」

「また、よろしくお願いします。それでは、失礼します」


 Aさんはお辞儀をし工場へと戻っていく。

 俺は彼女の言葉の意図について考えて…………まぁいいか。

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