しがみつき異世界人生
暗い世界の中、紫の森の中を歩く。
左腕は痛いし、両目に違和感を感じる。
「誰も追って来ないでしょ……」
召喚されてどのくらい経ったっけ?
覚えてないや。
◇
俺――桜井晴人。
年齢は、十七歳。
休日でゲーセンに行こうと思って外に出たら、青い魔法陣みたいなのが地面に出現して、王宮に召喚された。
そこには、王様や騎士なんかがいた。
俺を召喚した少年は、ジロジロと俺を見て、ため息をついていた。
「異世界から来た者よ。汝には――」
その時の感情は、期待と恐怖だった。
期待は、テンプレ的な流れで勇者。
恐怖は、見放される。
「死んでもらう」
放たれた言葉は、俺を絶望させるのに十分なものだった。
死にたくなかった俺は、扉へ全力疾走。
しかし、騎士たちが剣を抜いて立ち塞がった。
本物の剣を見た時の感情は恐怖。
――死にたくない!
心の中で必死に、この世界の神様に願った。
その願いのおかげか、召喚された時に与えられたのか。
左腕から、焼かれるような痛みが流れ、気づいたら騎士たちの剣と同じような剣を左手が持っていた。
その出来事に王宮内はざわめいていた気がする。
――死にたくない!
◇
そこからの記憶は、よく覚えてない。
「いてっ……血……?」
右腕から、ヒリヒリとした痛みを感じて、右腕を見ると斬り傷があった。
他の部位にもあると思うけど、見たくないな。
とにかく、あの状況から生き抜いた。
「どこか、安全な場所は……」
眠くなってきた。それに寒い。
「もう……ダメかも……」
遠くから人が近づいて来ている。
視界が歪んで、はっきりとしないけど、人だってことだけは分かる。
「眠い……」
視界が暗くなる。
◇
目を開けると、視界には見知らぬ天井。
ゆっくりと起き上がり、周囲を見渡す。
日本にある和室みたいな部屋。
世界観変わってね?
「どこ……?」
困惑していると襖が開く。
「目が覚めましたか」
そこには、巫女装束を着用しているケモ耳少女がいた。
背は低くて幼女と間違えるぐらい。
髪色は橙色で瞳は茶色。
正直に言うと、俺の好みのタイプ。
ケモ耳キャラ大好きなんだよ!
「あの……」
「あ、すみません。ちょっと興奮……じゃなくて興奮してました」
「え?」
「あなたはキツネ?キツネですよね?そうですよね!」
「お、落ち着いてください!」
両肩を掴まれる。おっと、興奮しすぎた。
ケモ耳少女は、頬を赤く染めている。
「あ、あー……えっと〜」
「落ち着きましたか?」
「はい……」
目を逸らす。じゃないと鼻血が出る。
それぐらい可愛い。
両肩から手を離したケモ耳少女は、コホンと咳払いをする。
「私の名前は、エンコと言います。キツネですよ」
笑顔を浮かべるエンコさん。眩しい!
そして、やっぱりキツネ!
「俺の名前は、晴人です!助けてくれてありがとうございます!何かお礼をさせてください!お願いします!」
「み、見返りは求めていないので、大丈夫ですよ」
「お願いします!お礼を!させてください!」
◇
数日後。
「ただいまです〜」
「おかえりなさいませ。ハルト様」
神社に入ると、エンコさんが箒で掃除をしている。
お礼として、この神社――『紫風神社』のご奉仕をしている。
『紫風神社』は、訪れる人がいない。
この神社の存在を認知されていないらしい。
神様――エンコさんが、この世界の見守り役として自分を『紫風神社』の巫女にしたとのこと。
他の神様に頼まれたんだって。
「エンコさん、今日は大儲けしましたよ!」
魚や野菜が沢山入ったカゴを見せる。
「こんなに!?すごいですね!」
尻尾を振って喜んでいる。
「エンコさん」
「なんでしょうか?」
「あなたに出会えて幸せです!」
風が吹き、紫の花が舞い散る。
「私もですよ。ハルト様」
エンコさんは、優しく微笑む。
―――――
•桜井晴人
普通の日本人。
両目……見た物を左腕に認知させる。
(剣や盾などの武器)
左腕……両目から得た情報を再現する。
•エンコ
『紫風神社』の巫女。元神様。




