雨、白、彼女。
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あぁ、今日も雨か。
ガラス越しの世界は慣れっこだったが、こうも連日雨続きだと景色に面白みがない。
それに、なによりこのどんよりとした空模様を見ていると不思議と気持ちが滅入ってくる気がする。
かといって、窓から目を逸らしたところで周りには真っ白なカーテンと真っ白な天井と真っ白なベッドと真っ白な服をきた僕がいるだけだ。ここまできたら、淡々と過ぎていく時間すら、真っ白なんじゃないかって気さえしてきた。
あぁ、
病院は生活するのになんて味気ない場所なんだろうか…。
ガラッ。
急に開いたドアの音は、僕を一気に現実に引き戻させた。
おっといけない、
脳がフリーズしてぼんやりとしてしまうのは僕の悪い癖だ。
現実世界とは薄い壁ひとつで隔離されてる僕だけの世界。
なんの感情もなくただ宙に浮いているような感覚がそこにある。
しかし薄い薄い壁はいとも簡単に破かれる。
ドアの開く音ですら。
どうやら隣の青年のガールフレンドのようだ。
彼は3日前に事故で両足を骨折して入院していた。
彼女は、毎朝9時にやって来る。顔は見たことがないがたまに花を取り替える手が見えた。その指にキラリと光る指輪があり、既婚者だということが分かる。
カーテンがかすかに揺れ、柔らかな囁きと共にふたつの影がゆっくりと重なった。
…おっと。
そこで僕は目をとじる。気が使えないほど子供じゃないのだ。
まぶらの裏はこれまた見慣れた真っ黒の世界が広がる。
真っ白と真っ黒の世界の行き来を繰り返す日々の中で、彼女の真っ赤なネイルだけが、ただ、色を持っていた。
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