決別の森。
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イラついたって何も変わんねぇよ、と俺は俺自身に言い聞かせる。
俺の名前は、サトウタカフミ、と言うらしい。
本当かどうかなんて分かんねぇ。なんてったてこの森に入ってから記憶がねぇんだ。いつからここにいるのか、どうやって抜けるのか、誰と来たのか、つーかそもそも何でここにいんのかが一番分かんねぇ。
なんで名前が分かったかというと、ポケットに入ってた手紙のおかげだ。
“サトウタカフミ”様宛てに書かれた手紙を俺が持ってるってことは、つまり俺が“サトウタカフミ”様ってことだろ?
ちなみに差出人は“森川”とだけある。誰だよ、モリカワって。
手紙を開くと短く“湖に来い”と急いでペン走らせましたって筆跡で書いてあった。読めなくないが、まぁキレイな字じゃないわな。そのくせ、この“森川”ってやつ、自分の名前だけ丁寧に書くのな。いるいるこーゆーやつ。
…と、いうわけで今に至るわけですがね、30分歩いたとこで気付いたわけ。
…湖ってどこよ!?
手紙にゃあ不適切に地図も同封されてたけど、なにが不適切って現在地が分かんねんだよ。それに自慢じゃないが地図は読めない。読めない上に現在地が分からない。イラつくねぇ。
そもそもがさ、湖に行ったらどうなるとか、なんで来てほしいのかハッキリ教えてほしいね。俺、訳もなくさ迷うのってマジ堪んない。あーぁ、女でもいれば全然別なんだけどな。
真実は分かんねぇ。
でも行くしかないんじゃないの。だってさぁ、ほかに頼るもんなんかないんだもん、いまの俺。やってやろうじゃないの。待ってろ“森川”!
よし、そうと決まったら、とりあえず進め。
進め、俺。
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