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ナップザックのふしぎ。
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旅人は言った。
「このナップザックは僕の夢が沢山詰まってるんだ。覗いてごらんよ。」
チャックを開けて覗きこんでも、暗くてよく見えない。
ナップザックを逆さにしてみるが、出てきたのは私が期待したようなものじゃなかった。
それらは衣服や飲料水、薬、地図といった類のもの。
なんだよ、私の鞄となんら変わりがないじゃないか。
「おちょくっているのか?説明してくれ!」
そう私が攻め寄って尋ねても、旅人は答えることはなくただただ笑っている。
その笑顔は、言葉を続けられなくなるくらいパワーがあって、わたしは何も言えなくなってしまった。
手元には、陸にあがった蛸のように原型を留めていないナップザックだけが残った。
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