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四章

 無駄に長い校長の話や卒業式はついに終わり、私たちは教室で担任の最後の話に耳を傾けた。

 義務教育、その最後の話というものに、多少ながら期待をしていたのだが、あまり記憶に残っているものではない。

 記憶が正しければ、後悔なくこれからの人生を楽しんで生きていってほしい、そんな内容だった気がする。思えば、随分と平凡で難しい要求をしていた。


 何ら情動もなく終わると、ついに私たちは中学生という身分がなくなってしまった。

 それに物悲しいものがありながらも清々しかった。

 何か私を縛る見えない鎖が解けてしまったように思え、ひとしに駆け寄った。


「ついに中学も終わったぜ。これから何するよ」


 幾分も乱暴になった言葉遣いだと思う。

 それに、ひとしは頷きながら答えるのだ。


「高校生らしいことさ」


 思えば、不明瞭な解答だった。

 ただ、私にはそれがある一定の正解を得ていると思えていた。言ってしまえば、私は高校生らしさというのを求めていたように思う。

 子供らしい発想だが、そのらしさを実践するために、私たちはこの日に今まで禁止されていた買い食いをすることにした。


 中学から出たその足で駅へと向かい、名古屋の大須商店街を目指した。

 岐阜から名古屋は特急が出ているが、思ったよりも時間が掛かってしまい、到着したときは夕方ごろだった。


 久しぶりに訪れた大須は時間のせいもあるのだろう。私たちと同じ学生が多い。

 きっとこれらの大半が名古屋の高校生なのだろう、と思いながら何度も見回した。


 色々な制服がある。中には私が受けた私立も見られ、ただそれ以上に知らないものが多い。私は名古屋の高校に行くわけだから、当然のこの中の一員となるのだ。それに心が躍った。


 明らかにインバウンド向けのおにぎりを持ち、私たちはアーケードの下を歩く。

 この時にあんまり会話はなかったと思う。これは不仲のためではなかったと断言できる。私たちはきっとこれからのことを考えていたのだと思う。


「これから毎日こんなところに来るのか、お前は」と、唐突にひとしは口を開く。


「ないよ。ちょっと高校から遠いし。それに無駄に高いし」と、少し考えてから答える。実際私の高校はここから六駅程度離れていた。


「いや、どうだかね。きっと俺の予想は当たるぜ」と、根拠のない自信を彼は見せた。


「そんなことはないさ」そう答えた。


 結局として、私は大須に毎日通うことはなかった。

 これは高校の友とここに来たいと思えなかったからだ。何かそう思うべき理由があった訳ではないが、強い違和感が私の中にあったのである。


 洒落た店でコーヒーを飲んだりした。

 恰好つけてブラックを飲んだ。一口くれと要求する彼に応えて、ともにそのコーヒーに苦い、これは飲めないだのと文句を言いながら、飲み切った記憶が確かにある。


 ついに私たちが岐阜に帰った時には既に日が暮れてしまっていた。

 右手には駄菓子を、左手には適当な炭酸飲料、幾つかの土産物を持ち、私たちは夜の街を歩いている。


 夜の街はいつも見ている街とは随分と違って見えた。まず歩いているのが大人ばかりである。

 それらも大抵何かに酔った様子である。酒か、はたまたもっと身近なものか。

 ただその大人たちも駅を離れると、疎らであるから幾分も特別な夜に思えていた。


 ついに私の家に近づいたとき、ひとしは手を挙げて言った。「そんじゃ」


「うん、じゃあ」と、言葉だけを言った。


 ひとしの後姿を見送ることはなかった。ましてや手を振ることもなかった。

 それはきっと私たちの関係らしくないと思ったのだ。


 この日からは忙しい日が続いて、ついにはひとしと会うこともなく引越しをすることになってしまった。私とひとしの関係というのはそれっきりである。


 最後の日、きっと私たちはいつも通りの別れをした。これに何ら特別な意味などない。そして、私はこれに他の意味を見出すこともないし、それをするつもりも毛頭ない。

 思うことがあるとすれば、それじゃあまた、という挨拶のあとに私たちの再会がなかったこと、その悲しさだけである。

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