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第9話:清浄の日

本作は、作者が構築した詳細なプロットおよび世界観設定に基づき、AI(Gemini)を用いて文章の初稿を作成しています。また、物語の骨子には作者が持つ地政学、国際政治学、マクロ経済学の基礎理論を反映させており、単なる空想に留まらない国家間の動態や経済的背景を構築しています。


AIによって生成された文章は、これらの理論的整合性を含め、作者自身が精査・改稿し、表現の微調整を全面的に行っております。


挿絵の挿入&修正を、不定期でやり直しております。


【閲覧にあたっての免責事項】 本作はフィクションであり、実在の人物、団体、国家、および歴史上の出来事とは一切関係ありません。 作中で描かれる政治・経済的描写や思想、国際情勢は、あくまで物語の演出上の設定であり、特定の思想を推奨、あるいは批判する意図はございません。


挿絵(By みてみん)


その朝、ファング公国を支配し続けている重く淀んだ機械の轟音が、ピタリと止まった。  一年に一度の奇跡、「清浄の日」。  この地に眠る良質な金属鉱石や石炭の鉱脈からは、絶えず有毒な地ガスが噴出している。本来、この国は自然そのものが毒を孕んでいるのだ。だが、特定の気象条件が重なり、国内全ての工場がその黒い排煙を止めることで、滞留していた霧が一時的に押し流される。資源を糧にする工房の煙が、自然の毒を補完し、逃げ場を奪っていたという皮肉。ゆえにこの日は、毒の連鎖を断つために、全ての民に休息が義務付けられていた。


 工房の奥、エンバー・リヴァースは真鍮の工具を置いた。  この静寂こそが、ファングにおける唯一の「聖域」だ。エンバーは、長年顔の一部となっていた革製のくちばし状マスクの紐を、ゆっくりと解いた。


挿絵(By みてみん)


 マスクが外れた瞬間、煤にまみれた中性的な容貌の下から、一人の雌猫の素顔が現れた。  低く掠れた声や、古傷だらけの手つき、何より男勝りな口調ゆえに、現場では誰もが「若き天才技師」を青年だと信じて疑わなかった。だが、剥き出しになったその瞳は、強く、知的な光を宿した雌猫のそれであった。


 外へ出ると、同じようにマスクを脱いだ者たちが、慣れない陽光を浴びて街を歩いている。  ファングの民にとって「個」の識別は、マスクの装飾や、油染みのついた作業着の修繕跡、あるいは独特の歩法で行われるのが常識だ。ゆえに、素顔のエンバーとすれ違っても、それが「あの工房のエンバー」だと気づく者はいない。彼らにとって素顔は、滅多に見ることのない、剥き出しの臓器のようなものだった。


「……空気が、軽いな」


 エンバーは、ラベンダーの香草越しではない、真実の酸素を胸いっぱいに吸い込んだ。  隣でマスクを外したアッシュ・フォージが、眩しそうに目を細め、エンバーの顔をまじまじと見つめて不敵に笑う。


「おいおい、そんな綺麗な顔をしてたか? 確か一年前に見た時は、もっと鼻筋が曲がっていたような気がするが」


「ふん、余計なお世話だ。お前こそ、一年で随分と老け込んだんじゃないか?」


 エンバーもまた、軽口で返した。短命の宿命を背負う彼らにとって、一年の歳月は他国の数年分に等しい。冗談の中に潜む「次の一年も生きて会おう」という祈りが、二人の間の空気を僅かに和らげた。


 二人は工房の屋根に上り、霧が晴れたことで遠くまで見渡せるパウリア島の遠景を眺めた。  地毒という天然の要塞に囲まれたファングを攻める国など存在しない。ゆえに国境に壁など不要だが、エンバーの視線はその先、中央平原へと続く主要街道に向けられていた。


「アッシュ……見て。あんなに荷馬車が出ている」


 霧が晴れたことで露わになった街道には、ファングの刻印が打たれた巨大な大砲や、黒色火薬の箱を積んだウィスカーの商隊が、列をなして東へ向かっていた。   「俺たちが『毒のない空』を夢見て気球をいじっている間に、国の上層部はせっせと死を輸出していたわけだ。あの数は、ただの小競り合い用じゃない。……じきに、平原が燃えるぞ」


 エンバーは、空っぽの青空を睨みつけるように見上げた。  自分たちが生きるために掘り出した鉱石と、それを焼く炎が、遠い異国の地で誰かを踏み潰すための暴力へと変換されている。その構造的な不条理に、エンバーは肺の奥が焼けるような痛みを感じた。


「……行こう、アッシュ。霧が戻る前に、もう少しだけこの空気を吸っておきたい」


 エンバーは素顔に微かな笑みを浮かべようとしたが、不意に激しく咳き込んだ。  掌に広がるのは、鮮烈な血の跡。  たとえ清浄な空気であっても、地毒に焼かれ、排煙に蝕まれた肺の傷を癒やすことはできない。


 平原の先では、軍靴の足音が近づいている。  平和な休息の日は、重く淀んだ霧の帰還と共に、終わりを告げようとしていた。

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