13
助手席にはタイガ。
後部座席には……ジローさん。
当然後ろに座っていた私は、入り込んできたジローさんとばっちり視線がぶつかってしまった。
まさか私が乗っているだなんて、思いもしなかったんだろう。
ジローさんは瞬きもせず、切れ長の目をほんの僅かに見開いていた。
沈黙がこの場を、支配する。
夜に彼らと会うのは、これが初めてだった。
昼のイメージを覆すその光景に、何が本当かわからなくなる。
ジローさんの瞳には様々な色が、混ざっていた。
困惑。疑問。迷い。失態。諦め。
クールなその顔にあからさまには出さないものの、普段とは異なる彼の空気が告げる。
私の憶測でしか、ないけれど。
“見ていたのか”
“見てしまったのか”
彼の微かに揺らぐ瞳が……そう語る。
「お!?なんだオメー、ユーレイかと思ったじゃねーか!!影と一体化してんじゃねーよ!!ビビらせんな!!」
気まずいなか、よく通るうるさい声が割り込んできた。
後ろを振り返ったタイガが私を見るやいなや、大げさに驚いていた。
先程の不良達の前で見せていた顔はどこにいったのか、もう元のタイガだった。
ふん。どーせ暗いわよ、影にだって紛れ込んじゃうわよ。取り憑いてやろうか。
「なんでタマちゃんが乗ってんの」
今度は横にいる運転席の飛野さんに、聞いていた。
「ジローんちの夕飯に招待したんだよ」
バックミラー越しに飛野さんと目が合うと、縮こまる私に彼はにこりと笑ってくれた。
やっぱり飛野さん、独断で決めちゃってたのかな。
ジローさん……いきなりお邪魔しちゃったりしたら、困るんじゃないかな。
「……何考えてんだよ、飛野さん」
地を這うような、低い声。
口を開いたのはタイガではなく……黙り込んでいた、ジローさんだった。
機嫌の良くはなさそうなその声色に、身が竦んでしまう。
てっきりいつもの調子で「やっと帰ってくる気になったか」とか、ジロー節をかましてくれるかと思っていたのに。
今の彼は、どことなく殺気立っているように感じた。
「今日帰ってくんだろうが、アイツが。なんでそんな日にコイツを連れてくんだよ」
「帰ってくるからだよ。太郎さんが会いたがってる」
ただ口を閉じて、ジローさんと飛野さんのやり取りを聞いているしかなかった。
その中で飛野さんの口から発せられた、“太郎さん”という名前。
それがきっと、ジローさんのお兄さんの名前なんだろう。
ジローさんのお兄さんなんだから、タローさんでも納得できる。むしろ自然だと思う。
「会わせてどーすんの?これがジローの新しいペットです~って紹介すんのか?」
タイガがそうのん気に、飛野さんに話しかけたのと──
同時だった。
「っ、!ジローさ……」
「おい、ジロー!!」
急にジローさんが、私の腕を乱暴に掴んだ。
かと思うと、続いてドアが荒々しく開けられる。
ジローさんは私を引き摺るように車の中から連れ出し、そのままどこかに向かって歩きだした。
一切、私の方を振り向かず。
腕だけを、痛いくらいにしっかりと握って。
ついていくのが必死で、足がもつれそうになる。
急変したジローさんが、怖くて。何がなんだかわからなくて。
彼の背中を、銀色の髪を……見上げるしかなかった。
声をかけることすら、できなかった。




