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“ジローの兄貴だよ”
兄貴……?
ジローさんの……お兄さん?
ジローさん、お兄さんがいたんだ。
そして、その人が──
私のお兄ちゃんを、知っている……。
立て続けに投げ込まれる事実に、頭が追いつかない。
容量オーバー寸前で、思考がぐらぐら揺れていた。
そんな繋がりが、あったなんて。
こんなところで、ジローさんと繋がっていただなんて。
じゃあ……ジローさん自身も、もしかしたら響兄ちゃんに会ったことがある?
なんで。
どうして。
そんな疑問ばかりが、次々と浮かんでは消える。
でも──
お兄ちゃんも、そうだった。
彼らと纏う空気が、似ていたから。
ふんわりと鼻先を掠めるタバコの匂いを、覚えてる。
陽の光に透ける、ゴールドブラウンの髪を、覚えてる。
大きな手で、くしゃりと優しく頭を撫でてくれたことも。
時々、顔に傷を作っていたことも。
いつだって、どっしり構えていて。
いつだって、怖そうな人達の中心にいて。
光の中で、屈託なく笑っていた。
ジローさんのお兄さんが、どんな人なのかはわからない。
でも、ジローさんたちと同じ世界にいる人なら。
響兄ちゃんと関わりがあったとしても、何も不思議じゃない。
そう、思えた。
「急だけど今日の放課後、空いてるか?」
飛野さんの声に、ハッとして顔を上げる。
「あ……今、放課後は残って文化祭の準備をしてるんです」
「そうか。じゃあ、その後は?」
「何もない、ですけど……」
「なら、ジローんちでメシでも食わねえか?」
「え!ジ、ジローさんのおうちで!?」
あまりにも唐突すぎて、思わず声が裏返った。
だって──
ジローさんの家にお邪魔するだなんて、考えたこともなかった。
ついさっき、お兄ちゃんの話が出たばかりなのに。
ジローさんにお兄さんがいて、しかも響兄ちゃんと知り合いで。
それでもって、今日いきなり家に行くなんて……!!
「そんな身構えなくて大丈夫だ。みんな自由に暮らしてる。ヤロウばっかで、ちょいとむさ苦しいけどな」
私の腰が引けてるのを察したのか、飛野さんは朗らかに笑って言った。
いや、そんなこと言われても、「はいそうですか」って簡単に納得できない!!
っていうか、ジローさんの許可は取ってるの!?
飛野さん、まるで自分の家みたいに招いちゃってるけどそれでいいの!?
「じゃ、その居残り作業が終わる頃に迎えに行くから」
「え、でも何時に終わるかわかんないですよ?」
「あー、そうだったな。ちょっとスマホ貸してくんねえか」
「は、はい」
言われるがまま、スマホを手渡す。
画面を操作する飛野さんを、ぼんやり眺めていた。
「俺の連絡先入れといたから、終わったら電話して」
返されたスマホに視線を落とす。
名前の欄には、シンプルに『飛野』の二文字。
よかった。
飛野さんまでハイジみたいに『今世紀最後のハンサムマン飛野様』とか、変な名前で登録してなくてよかった。
「それじゃ、また後でな」
ほぼ強引にジローさんのおうち行きを決定した飛野さんは、目元を緩め、再び大教室へと戻っていった。
淡々と、重大事実を置き土産にして。
その場に残された私は、しばらくの間、ただ立ち尽くすことしかできなかった。




