表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/120

9



まるっきり、会話の内容がわからない。



タイガはそこでようやく笑顔をみせた。

まるで子供みたいな、無邪気な笑顔。



南高って……南遥(なんよう)高校だよね。

あそことも、繋がりがあるんだ。




「にしても、ありゃケッサクだったな。威勢よく吠えてきやがるから、どんなモンかと思やクソザコで萎えたっつの。鼻血ダラダラ流して大人しくなりやがった」


「どーせ下のヤツらだろ?」


「おお。けどな、ミッチーいるだろ?アイツ鬼だぞ、マジひでえよ。翔桜のヤロウの鼻折りやがったからな!!」




何が嬉しいのか、タイガは楽しくてたまらないというように笑っていた。


「ひでえ」と言いながらも、ちっともそうは思っていないんじゃないか。



テンション高めのタイガに「加減ねえな、あの人」と、ハイジもくしゃっと笑った。




ミッチー……誰?



翔桜って、あの翔桜(しょうおう)高校?



共学だけど、魁帝ほどじゃないにしても、ヤンキーが多い高校。



頭がこんがらがりそうだ。



南高だけじゃなく、翔桜の不良とも繋がってる?


不良界の人物相関図は、一体どうなってるんだろう。



そしてタイガが面白おかしく話しているのは──不良同士の抗争みたいなものなのかもしれない。


勢力争いでもしてるんだろうか。



だとしても。


人の鼻が折れたことを、げらげら笑いながら話のネタにする感覚が、信じられない。



以前ジローさんが魁帝の三人組と対立した時も、私は自分の世界と彼らの世界の余りの差に、閉口してしまった。



暴力が当然のように、そこにある世界。



力が優劣を決める世界。



そんな場所に彼らは身を置いて、日々傷つけ合って──


それでも、笑い合っていた。




私じゃ、到底わかりっこない。


彼らにしかわからない、“遊び”。




こういった別の一面を見せられるたびに、私は蚊帳の外で黙っているしかなかった。



だから、この場から去るのが正解だ。



私への用件が終わった、合図なんだろうから。



立ち上がり、まだ話し合っているタイガとハイジを残して、私は大教室を後にした。



出て行く間際に、後ろの方で「オラ起きろ、粗大ゴミ。今日、南高に行くぞ」というタイガの声が聞こえた。


たぶん、爆睡してるジローさんへのものだろうなと思った。



教室を出て、私は何をすべきか考えた。



そうだ、ミスコンだ。

出場を取り消してもらわないと。



ハイジの思惑通りになってたまるかってんだ。





「花鳥」





一歩踏み出したと同時に、背中に被さったのは、私の名前を呼ぶ声だった。


振り返ると、そこに立っていたのは飛野さん。



至極真剣な顔つきに、自然と背筋が伸びる。




「あの……どうしたんですか?」




思いがけない彼の登場に、心臓がトクンと僅かな音を立てる。


人気のない、しんとした廊下に、私の声がやけに響く。



飛野さんは静かに歩いてくると、真っ直ぐな黒い瞳で私を見つめた。



そして、重い口を開く。





「お前……響さんの妹なんだろ」





衝撃が、走った。



全身に一瞬、電流が流れたみたいだった。



鼓動がドクドクと加速しだして、息をのむ。




「どう、して……?どうして知ってるんですか、飛野さん!?お兄ちゃんを知ってるんですか!?」




縋りつくような眼差しを、必死に向けていた。


飛野さんの口から、お兄ちゃんの名前が出てくるなんて。夢にも思わなかった。




「……俺はあの人と会ったことはあるが、深く関わったわけじゃない。近づけるような人じゃなかった」




──知ってる。


この人は、お兄ちゃんを。



儚げに微笑むお兄ちゃんの姿が、脳裏に蘇る。



誰と、どんな世界で生きていたのか。


何を思い、何を感じていたのか。



そして──

最期のその瞬間に、何があったのか。



手を伸ばしたって届かない。

叫んだって、泣いたって、二度と返ってくることはない答えを、


永遠に彷徨うはずだった、答えを──



知る人が、いる。


こんなにも、近くに。




「もっと響さんに近かった人がいる。その人にお前を会わせたい。会いたがってるんだ、その人も」




私の心の奥を見抜いたかのように、飛野さんが強く芯の通った、揺るがない声で……そう言葉を続けた。





「誰……ですか」





震えそうになる声を、懸命に抑える。


あの頃の想いが、溢れ出しそうで。



少しの間を置いて、飛野さんははっきり告げた。





「ジローの兄貴だよ」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ