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最近ちょっと暴走気味だ。
コイツらと関わるようになってから、想像力がさらに豊かになった気がする。
少し抑えないと。
本気で頭おかしくなったと思われて、そういう目で見られるのは癪だ。
「まぁとりあえず、落ち着いて」
「お前がな」
一旦冷静になって、ハイジへと視線を向ける。
「あんた、彼女いるんでしょ?」
「いねえって」
「だってタイガ言ってたじゃん。リナちゃんって彼女がいるって」
「別れた」
「へ?昨日お泊りしたんじゃないの?」
「だから、昨日別れたんだよ」
ハイジはうんざりした顔で、これ以上聞くなと言わんばかりだった。
昨日彼女と別れたばかりで、もう私とデートしようなんて気分になれるものなんだろうか。
そりゃあ相手は私だし、ハイジにとっては“女”じゃないんだろうけど。
それでも、ちょっと“軽い”んじゃない?
なんて思ってしまう。
別にいいけど。
ハイジがそんな男だって、女の子との付き合い方は本人の自由だし。
私には関係ないことだ。
フラれたのかフったのか。
それにもよるのかもしれない。
だとしても、付き合うってことは、お互いに好きだって気持ちがあって成立するものなんじゃないの?
私は男の子と付き合ったことがないから、当事者の気持ちにはなれないけれど。
それにしたって、昨日別れたばかりなら少しは落ち込んでるのかと思いきや、ハイジはいつもと何ら変わりはなかった。
そういうものなの?
恋愛って、意外とあっさりしたものなのかな。
私が勝手に幻想を抱いているだけなんだろうか。
そんなふうに、考えが深みに入りかけた、その時──
誰かのスマホの着信音が、大教室に響き渡った。
そのけたたましい音に、思わずビクンと体が跳ねる。
早く取れとばかりに主張する、騒音まがいの着信音。
向かいのソファーに座る金髪──タイガのものだった。
一度ディスプレイを確認し、タイガは電話に出る。
「どうかしたか」
たぶん、相手は男。
タイガの口調が物語っていた。
女の子に向けるものじゃない。
どこか重みのある、低い声。
会話の内容は、私には何のことだか理解できなかった。
「人数を増やすしかねえな」とか「バレねえ程度にやっとけ」というセリフ。
話している間、タイガは真顔だった。
にやけてもなく、いやらしくもない。
“黒羽大駕”の顔がそこにはあった。
そして、これは彼らの世界の話なんだろうと直感した。
私には決して見せてはくれない、“彼らだけ”の領域。
魁帝の事件の時に知った空気に、よく似ていた。
やがて通話を終えたタイガは、スマホをしまい、短くなったタバコを灰皿で揉み消した。
白い煙が、ゆっくりと吐き出される。
「こないだよ、女が襲われたろ」
唐突に放たれたその言葉は、ハイジに向けられていた。
「ああ、聞いた。けど助けたんだろ?ヤられる前に」
当然のように、それが日常での一コマであるかのようにハイジが答える。
“女が襲われた”?
胸の奥が、かすかにざわついた。
犯罪の匂いを孕んだその言葉を、タイガは何の躊躇いもなく口にする。
彼らが持つこういった一面に、戸惑ってしまう。
さっきまでフザけてたくせに、途端に取り巻く空気をがらりと変化させる。
そんな彼らの二面性に、奇妙なズレが生まれていく。
どっちが本当の顔なの?
それとも……どちらも、あんた達の“顔”なの?
「それが懲りてなかったらしくてな。俺らの目が届かねえとこで、まだカモを狙ってんだとよ」
「ふーん。で、南高のヤツらも総動員?」
「まーな。仕事が増えたって、嘆いてやがったけどな」




