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「俺は日曜予定あるから、パスな」
そう言ってタイガはタバコを取り出し、一本に火を点けた。
白い煙がゆっくりと昇り、宙に溶けていく。
最初からタイガとデートする気なんてなかったし、それは問題ない。
というか、そもそも誰ともデートしたいと思ってない。
ハイジのせいで妙な流れになってはいるけど、従う義務はないし。
だいたい、デートして何になるっていうのよ。
男を知る?
何したら“男を知る”ってことになるの?
デートしたら、男という生き物をマスターできるの?
それで『イイ女』になれるの?
いや、そんな簡単になれるわけがない。
たった一回のデートで。
じゃあ、彼氏がいて、日常的にデートしてる子って、もう男を知り尽くしてるの?
“師範代”クラス?
みんな、男を手の平で転がしちゃったり?
私なんて白帯のぺーぺーなんだけど!?
転がすどころか、転がされまくりなんだけど!?
そんでもって丸められちゃって、ピーンって指で弾かれてハナクソ扱いされるようなレベルじゃん!!
「じゃあ決まりだな」
ハイジが口を開いた。
白帯を締めて、巨大な手と脳内で死闘を繰り広げる私に、にんまりと笑いかけてくる。
「決まり……って、何が決まったの」
学習してるから。
ハイジのこの笑みが、不幸の入り口だってこと。
「俺とデートしようぜ、ももちゃん」
ほっぺたをつねってみた。
痛かった。
テーブルに頭を打ち付けてみた。
痛かった。
タイガをこちょこちょしてみた。
怒られた。
残念なことに、私はれっきとした現実世界に存在していた。
「お、お願いハイジ……それだけは勘弁してください!!お代官様!!!」
「誰が悪徳代官だ。喜べよ、俺とのデート権をお前は手に入れたんだから。なんて幸運な女なんだ、お前は」
そんなもん放棄してやる!
欲しい子にくれてやる!!
そこらへんに配布してやる!!
ポケットティッシュと同等の扱いだコノヤロウ!!!
……ジローさん、何も思わないかな。
勝手にペットを連れ出しやがって、とかそんな程度だよね?
それでもいいから、ハイジを叱ってくれないかな。
そう思ってジローさんの方を見る。
彼はついさっきまでソファーに座りながら頭をかっくんかっくんしてたのに、今では床に転がって寝てた。
飛野さんは難しい顔で、ずっと地図を眺めている。
「上が北か」と方角を確認していたけど、「待てよ、これをこっちに向けたらこっちが北じゃねェのか!?どっちが北だ、北って何個あんだ!?」とあちこち向きを変えながら一人でパニくっていた。
挙句の果てに「こんなのアテになんねェじゃねーか!!」と逆ギレして、地図にあたっていた。
この人どうやって生きてきたんだろう、と本気で不思議だった。
それより何より、ハイジとデート……。
私、人生初のデート相手がこの緑のヤンキーとだなんて……。
神様はひどくイタズラっこらしい。
ふふっ……こんなこと仕組んでくれるなんて、ちゃめっ気たっぷりじゃないの。
もし今、私の前に神様が舞い降りてきたら、
「も~、神のお・ちゃ・め・さ・ん☆」なんて、頭をつんってしたり──
「するかバッキャロオオォ!!ぼっこんぼっこんのぎったんぎったんにしてやるわ!!!」
「うおぉ!!何だお前!!?何言ってんだいきなりよぉ!?」
「こ、怖えーなお前!!ついに頭イっちまったか!!?」
妄想がはみ出しちゃった私に、ハイジとタイガは引きまくっていた。




