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沈んだ気分のまま戸を開けると、教室にはうっすらとタバコの匂いが漂っていた。


黒いソファーに腰掛けていたのは、ハイジとタイガ、ジローさん、それから飛野さんの四人。ケイジくんの姿はなかった。


……本当にケイジくんとは会わない。

ここまで顔を合わせないと、逆に避けられてるんじゃないかって勘ぐってしまう。



私……嫌われてる?



そうだとしても、ほとんど接点がないんだから、嫌われるようなことを言った覚えも、した覚えもないんだけどな。


そもそもケイジくん自体、学校にあまり来ていないのかもしれない。




「おっせーよお前。克也が呼びに行ってから、何分経ってると思ってんだよ」




大教室に入ってきた私を見るなり、ハイジは吸っていたタバコを灰皿に押しつけ、もみ消した。


コイツの偉そうな態度は今に始まったことじゃないけど、それでもやっぱりイラッとする。


かっちゃんを使っておいて……とは言えない。



わかってるから。

ハイジがそうするのは、私を気遣ってくれてるんだってことくらい。


私が「来てほしくない」と思っているのも、彼らはちゃんと理解してくれている。


だから校内で会っても、ここでの振る舞いとは全然違う。

からかったりもしないし、ほとんど話しかけてこない。



そのおかげで、彼らに憧れる女の子達から目をつけられることもなかった。


彼らなりに私のことを思いやってくれているのを、最近になってようやく気づくことができた。



なのにしょっちゅう呼び出しては無茶苦茶な要求を突きつけてくるんだから、考えてくれてるのか、くれてないのか、正直よくわからない。




「……で、重大なお知らせって何よ」




ジローさんと飛野さんが座っている側のソファーに腰を下ろし、向かいのハイジへ、ムッとした視線を送る。


すると、ヤツはニタリとあからさまに怪しい笑みを浮かべた。


その時点で、私の身に降りかかるのは災難なんだろうと推測できた。




「ももちゃん、もうすぐ文化祭だよな?ちらっと噂で聞いたんだけどよォ……」


「な、なに?」




イヤだ、文化祭なんて単語がコイツの口から出てくるなんておかしいし……!!


反射的に肩に力が入る私に、ハイジは一枚のチラシを突きつけてきた。


私はそれを、穴が開くほど凝視した。




「ミス・北遥コンテスト……?」




何色もの鮮やかな色で派手に彩られたチラシの中央には、『ミス・北遥コンテスト!』の文字。



……これって、まさか。




「ねぇ、ハイジ……これって……」


「そ、ミスコンだよももちゃん」


「あんた、もしかしてソレに……」


「うん、エントリーしといたからね。“花鳥もも”で」




ニコニコと、気持ち悪いくらい満面の笑みで、ハイジはこの世の終わりみたいな一言を吐いた。


「マジかオメー!!オモシロそーだなオイ!」と、はしゃぐタイガの声も、頭が真っ白になった私にはシャットアウトされていた。



ちょ、え、なに……?

今コイツ……なんて言った?


ミスコンって、一番美人な女の子を選ぶアレだよね?


文化祭でそんなのやるの?



でもって、そのコンテストに……私が出る?


ミスコンなんかとは一生縁のない、地味キングな私が!?


待って待って、なんでそんなことになってんの!?


ありえないから!!




「ハイジ!!!あんた勝手に何やっ──」

「それとお前。今度の日曜、空けとけよ」




ハイジの襟元を両手で掴み、文句をぶちまけてやろうと思ったのに。


ヤツは、そんな私の勢いを一言で殺してしまった。




「なん、で……?」




胸ぐらを掴まれているというのに、ハイジは悠々とソファーに座ったまま、固まる私に口角を吊り上げて意地悪な笑みを作る。


見上げてくるその目は、完全に悪巧みの色に染まっていた。




「デートすんだよ、デート」





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