ハダカのあなた
ジローさんとファーストキスしちゃった、あの日から──
数日が経った。
特に変化もなく、平凡……とは言い難いけれど、白鷹ファミリーとの騒がしい日々は相変わらず続いている。
でも、一つだけ変わったことがある。
ジローさんの、私への態度。
どこか、よそよそしくなったような気がする。
冷たくなったとか、そういうわけじゃない。
おさんぽにはいつも通り連れて行ってくれるし、気にかけてくれているのは同じ。
でも、なんというか……。
以前は遠慮なんて皆無でやりたい放題だったのに、今は少しだけ自分を抑えているように感じる。
必要以上のスキンシップが、なくなった。
私を見る彼の目も、たまに何を思っているのか全くわからない時がある。
一線を引かれているような、そんな気がした。
それでも、あれから一度だけ。
もう一回だけ、ジローさんとキスをした。……というか、された。
自分からしてきたくせに血圧上がりすぎて死にそうになった私を放って、ジローさんは何も話さなくなっちゃって、気まずくなった記憶がある。
もとから常人には理解不能な仙人みたいな人だったけど、ますますわかんなくなって悩むことも少なくなかった。
一緒にいる時間が長ければ長いほど、彼への気持ちが大きくなっていっていた。
傍にいられるのは素直に嬉しいと思う。
ただ、ペット扱いされるのがほんのちょっと寂しく思うのも事実だった。
そんなことを頭の端でうだうだ考えつつ、私は午前中の授業を受けていた。
彼らから解放されるのは、授業中だけ。
実は未だに朝と放課後の送迎は続いていて、ヤンキーにーちゃん達がまるでボディーガードみたいに私の家と学校の間を、ぴたりとついているのだ。
別に私、誰からも狙われてもいないのに。
痴漢とかに襲われる要素もないし。
それどころか最近は文化祭の準備で遅くまで残ってるのに、おにーさん達は私に合わせて居残りし、一緒に帰っている。
なんか申し訳ないから、正直やめてほしかった。
おにーさん達だって暇なわけじゃないだろうし、どうせあの五人のうち誰かに命令されて仕方なく来てくれてるんだろうし。
アイツら……何考えてんだろ。
気づけば、近頃の頭の中は白鷹ファミリーでいっぱいだ。
私の生活、ほとんど彼らに支配されている。
ため息をつきながら、黒板の文字をノートに書き写していると──
「おいコラ、ジローてめえ!!俺のチョコあんパン勝手に食ってんじゃねーよ!!」
突然、静かな廊下に怒号が響き渡った。
それに続いて、バタバタと荒ぶる足音が追いついてくる。
「トラのじゃねーよ、机の上に置いてあったんだ」
「ザケんな、俺が食おうと思って置いてたんだよボケ!!」
……これは、もしや。
私は一旦シャーペンの動きを、止めた。
廊下を走る音が、徐々にこちらに近づいてくる。
そして。
「チョコあんパンが俺に、『食ってくれ』ってお願いしてきたんだよ」
「オメーはパンの言葉がわかんのかよ!?どんなミラクルマンだてめえは!!」
バッと廊下の方へ目を向ければ、嫌な予感は見事に的中した。
教室の前を走り抜けていく、パンをくわえた銀髪。
その後を怒りながら追っかけていく、金髪。
私はごしごしと目を擦ってみた。
……幻じゃない。
「えー、なになに!?白鷹先輩と黒羽先輩だぁ」
「何してんのかな、パンがどうとか言ってたよね~」
「堂々と授業サボってるよな」
クラスメイト達はジローさんとタイガを一目見ようと、廊下側の窓へと一斉に詰め寄る。
毎度ながらの大騒ぎ。
「返せ、今すぐ返しやがれ!!俺はチョコあんパンくんを食わねえと、一日が始まんねーんだよ!!」
「もう食った」
「あぁ!?ジョーダンじゃねえぞ、出せバカヤロウ!!」
「ほい」
「っ、!ほんとに出すヤツがあるかお前、きったねえ!デロデロになってんじゃねーか!?戻せ戻せ、ほれ!」
過ぎ去っていった彼らの会話だけが聞こえてきて、想像するのも恐ろしい状況になってるのは確認しなくたって理解できた。
っていうか、見たくない。
隣のクラスも、その隣のクラスも騒ぐ声でうるさくなっている。
先生たちが注意している声も飛び交っているけど、ワンパクキング達にはまったく効かないのだった。




