22
小春は、どうなんだろう。
ジローさんに好かれちゃっても、小春にはその気があるんだろうか。
恐がっちゃうかな……やっぱり。
私は小春も好きだし、ジローさんも好き。
小春もジローさんを好きになったら、応援するしかないかな。
辛いな……。
恋って、辛いんだね。
大切な友達でさえ、“嫉妬”なんて醜い感情の色で見てしまうんだから。
「お前……なに泣きそうな顔してんの」
心臓が破裂しそうなほど暴れていて、彼の答えを待つだけで生きた心地がしなかったのに。
予想外の一言に、ハッとなった。
ジローさんは、少し驚いたように私を見ていて。
その視線でやっと気づく。
私……そんな顔してたの?
泣きそうな顔、してた?
「嫌だったのか。俺がお前のトモダチの話すんの」
何も言えない。
私は黙ったまま、ゆっくり頷いた。
ジローさん、どんな顔してる?
呆れてるかな。
図々しいヤツだって、うんざりしてるかな……。
「可愛いって思ってる。好きか嫌いかで言えば、好きだろうな」
続けられる言葉が小さく刺さって、胸をちくりと痛ませた。
その先を聞くのが怖くて、でも聞きたくて。
迷っているうちに、ジローさんが続けた。
「けどそれは、お前がいることが前提だ」
意味がよくわからなくて、そっと顔を上げる。
怒ってもないし、呆れてもない。
そこにあったのは、柔らかい瞳だった。
「お前と一緒にいるから、可愛いんだ」
まだ理解するのに苦しむジローさんのセリフ。
「サイコーじゃねえか、犬とウサギが一緒にいるなんてよ。たまんねえ組み合わせだ」
……はい?
一瞬自分が日本人なのか、疑ってしまった。
日本語がわからなくなったんだと思った。
だってジローさんの目が……なんかうっとりしてる。
「犬もウサギと仲良くなれるんだな。でもよ、タマ。俺にはお前が一番だ。一番可愛いのは、お前だ」
待て待て待て。
ちょーっと落ち着こうか。
一回深呼吸をして、恐る恐るジローさんに聞いてみた。
「あの、ウサギって……小春が?」
「おう。まさかオトモダチがウサギとはな」
開いた口が塞がらなかった。
発狂しそうになった。
どうやら、彼の目には小春がウサギに映っていたらしく。
私が犬に見えるように、小春はウサギに見えているらしい。
そして小型犬とウサギが仲良くしている図は、ジローさんにとってはサイコーに可愛い組み合わせらしく、彼のツボを刺激しまくりだと。
全ての謎が解けた。
女嫌いが治ったわけじゃなかった。
彼にとっては小春はキューティーハニーではなく、キューティーバニーだったのだ。
とんだ勘違いだった。
“人間”として、彼女を好きだったわけじゃなかったんだ。
私、なにを悩んでたんだろう。
……本気で疲れた。
ジローさんは一枚どころか、百枚くらい上手だった。
やはりマジシャンなだけあって、彼は私なんかじゃ手に負えない。
こうして、『ジローさん小春に一目惚れ疑惑』はあっけなく終結したのだった。
「悪かったな、お前がヤキモチ妬くなんて思わなかった」
そう言いながらも悪びれるどころか、嬉しそうなジローさん。
人の気持ちも知らないで。
「もう言わねえよ。お前に嫌な思いさせたくねえし、お前に嫌われんのはキツい。俺にはお前だけでいい」
だけど、私の頭を撫でながらジローさんがそんなことを優しい声で言ってくれるから。
まぁいっかって、思ってしまう。
だって、安心しちゃったんだもん。
根本的なことが解決したわけじゃないけど、すごくほっとしている自分がいた。
私もとことん単純だ。
でも、それで終わりじゃない。
顎に指を添えられて、顔を上げさせられる。
視線が絡み合う。
ああ、この人なんて色っぽいんだろう……。
なんて見惚れてる場合じゃない!
「俺を舐めろよ」
問題は、ここからだ。




