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自分の立場をわきまえなきゃ。月とスッポンもいいとこじゃん。
第一、まず女として見てもらうとこから始めなきゃいけないなんて。
ふっ……笑うしかないじゃんよ。
「タマ、こっち見ろよ」
鬱々としていた私の頬に指が触れて、軽く向きを変えられる。
ジローさんは、本当に何気なくこんなことをする。
そんなさらりと触れられるだけで、こんなにもいっぱいいっぱいな私に、気づかないでしょう?
「なぁ」
どうしたら、私……
「舐めて」
あなたにとって、“女”になれるの?
静かな昼下がりの屋上。
二人きりの空気がやけに濃い。
目の前にいる美男子は、じぃっと私の顔を凝視している。
少し開いた唇も、彼の色気を滲み出させていた。
妖艶な眼差しで。
低くて甘さを含んだ声で、「舐めて」なんて言われたら
──
クラクラしちゃうじゃん。
全身の骨が砕けて複雑骨折になっちゃうじゃん。
そしたらふにゃふにゃになっちゃう。軟体動物に。
朝美のお仲間になるのだけは、ごめんだ。
「ど、どこを?」
前回と同じ質問をしてしまう。
だってね、気になるじゃん!?
「舐めて」に対して「どこ舐めるの」って疑問を抱くのは、当然でしょ!?
「ココに決まってんだろ」
前は教えてくれなかったのに。
ジローさんは、すっと距離を詰めてきて──
長くて綺麗な指で、私の唇をなぞった。
気を失いかけた。
ジローさんの溢れんばかりのフェロモンを直に浴びて、マジで鼻血が出そうなくらいに体が熱い。軽く目眩すらした。
無理。
女を瞬殺できるセクシーフェロモンがムンムンな今のジローさんには、太刀打ちできない。
恋愛レベル1未満な私には、クリボーだって倒せやしないのに。
ラスボスレベルなジローさんはクッパなんだから、到底無理だ。
クッパ……クッパってどうやって倒すんだっけ。
そうだ。
私はすっくと立ち上がった。
そして、
「びよーん」
と、座っているジローさんの体を飛び越えてみた。
ふははは!
どうだ、これでラスボスジローは灼熱のマグマに落下するはず……
「座ってくんねえ?」
なかった。
ジョークをかわしたジローさんの瞳の奥に、まるで切れ味のいい刃みたいな鋭さが潜んでいる気がして。
私はやっちまったと激しく後悔し、大人しく腰を下ろした。
結局さっきと同様の体勢で向き合う、私とジローさん。
どう足掻いたって、逃げられないんだ。
ジローさんは黙っているけれど、目が「早く舐めろ」と訴えかけてきていた。
「私……昨日、すごく嬉しかったんです」
急に全然関係ない話を切り出してみても、ジローさんは怪訝そうな顔をしたものの、遮らなかった。
「私なんかのお願いを聞いてくれたこと。ジローさんが助けてくれなかったら、どんな目にあってたかわからなかった。ありがとうございます、ジローさん。とっても素敵でした」
ジローさんに笑いかけても、彼は表情を変えなかった。
なんでそんなこと言われるんだろう、というような眼差し。
「あのね、その時……ジローさん、小春を見たでしょ?可愛いって言ってましたよね、気に入っちゃいました?小春のこと……」
何を言い出すんだろう、この口は。
こんなこと、彼に聞いてどうするの?
「小春のこと……好き、ですか?」
止まらない。
駆けだした想いが、歯止めをきかなくさせる。
ジローさんが小春にいっちゃっても、大丈夫だって、仕方ないって……受け入れようって覚悟したのに。
それでも、理屈じゃなかった。
もうジローさんに惹かれていってるから。
私は……ジローさんが、好きだから。
彼に恋をしてしまったから。
だから──
好きな人が別の子を好きでいるのに、『舐める』ことなんてできない。
もし、ジローさんが「好きだ」って言ったら?
全部捨てよう。
今のこの想いも。
彼への恋心も。
全部……捨て去ってしまおう。




