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相変わらずの魔王の氷の微笑に、気を抜けば「あのキューティーなヤンキーくんです」なんて口を滑らせて、かっちゃんを指差してしまいそうで。



そうなったら、かっちゃんのキューティーなフェイスが悲惨なことになるのは目に見えてる。小春がぶっ倒れちゃうくらいに。



っていうか、彼らに罪はないし!

理不尽にジローさんの八つ当たりで、とばっちりをくらわせるわけにはいかん!!



「なぁ。お礼したいんだろ?俺も“お礼”がしてえ」



だから、ジローさんの言う“お礼”は物騒なんですってば!!




魔王。覇王。帝王。大王。キング。



そう、彼は“王”だった。紛れもなく。


王と名のつく全ての称号を、手にしている。



普段はナマケモノなくせに、ちょいと本気を出せば


彼は簡単に王者へと──変貌してしまう。



誰も逆らえない。本能がそう叫ぶから。



従え、と。逆らうべきではないと。



この男は、頂点に君臨する男だと。



何人たりとも反抗を許さないオーラと、見る者を虜にしてしまう美麗な容姿。



それら全部が“王”だけに与えられた武器。



わかってます。あなたに絶対的な権力があること。



でもね、ジローさん。


なにも……なにも今、その本領を発揮しなくてもいいじゃんよ!?



「や、いいです。教室、戻らなくていいです!ジローさん、屋上行きましょう!?」



身震いした私は必死に首を振って、なんとか魔王を屋上へ誘導した。


人の命と、私の初体験への未知なる恐怖。


そんなもん(はかり)にかけるまでもなく、答えは出ている。



いや、まあ一瞬彼らを犠牲にしてもいっかなんて思ったことは内緒で。



それに初体験ったって、べ、別にあーんなことやこーんなことをするわけじゃないし!?ジローさんだし!?

相手がタイガだっていうんなら、彼らを喜んで生け贄に差し出してたかもしんないけどね!?



なんてぐるぐる考えてたら、

「そうか、お前もそんなにやりてえのか」

と嬉しそうにジローさんは屋上へと再び歩き出した。


ご、誤解です……!!

やりた……やりたいって何を!?


アレ!?やっぱり、アレ!?



屋上に着く頃には私は疲れ果てて、意気消沈していた。


誰もいなかったけど、この時ばかりは誰かがいて邪魔してくれたらいいのにと心底願った。



清々しい青空。輝く太陽。ぬくいそよ風。



絶好のおさんぽ日和だっていうのに。


今日は、いつもの『おさんぽ』じゃない。



「タマ」


「はひっ」



名前を呼ばれただけなのに、心臓がドキドキ加速して、体が変に固まる。



「なにカチカチになってんだよ」



ジローさんに、そっと髪を撫でられる。

それだけでも赤くなってしまって、ビクビクしている自分がいた。


カチンコチンな私をよそに、ジローさんはいつもの定位置、出っ張りの上へと登っていく。


置いてけぼりにされたと思っていたら、「来いよ」と上から手を差し伸べてくれた。


そして私も言われるがままに、彼のもとへ向かった。



片膝を立て、自然体で座っているジローさん。

その隣で、私はやっぱり三角座りで。


何も言わずに空を見る彼の横顔に、気づけば見惚れていた。



今の私の気持ち。


昨日からゆっくり変わり始めた、彼への思い。



優しくしてくれるジローさん。


可愛がってくれるジローさん。


ガラの悪いヤツらから助けてくれた、ジローさん。



全部、ペットへの愛情なんだろうけれど。



その愛情を人間として……女として受けている私は、いつの間にか自分の中で彼への感情が色を変えていっていることに気づき、戸惑っていた。



淡く色づいた、甘い感情。

だけど、時々ちょっと酸っぱくて。



馬鹿げてるって、わかってるのに。

望みなんてないって。



ついこの前、失恋したばかりなのに。




それなのに、また



恋をしようとしてる。




白鷹次郎に。




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