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小春の顔を見たら、ジローさんにへの悶々とした気持ちが少し薄らいだ。
やっぱり私にとって、小春は大切な存在だから。
こんな醜い感情で見たくない。
だからジローさんが小春を選んだって、それは仕方がないし、受け入れるしかない。
小春はいい子だし、私は大好きだから。
「ももぉ、聞いたよぉ?昨日のこと~」
ぐっ、この声は……!!
「魁帝高校の人達が来て襲われてたとこを、白鷹先輩が助けてくれたんでしょ~?キャー、ちょーうらやま~!!ありえなぁい、カッコよすぎじゃなぁい!?」
ノンデリ女王のおでましだ。
私は彼女の出現に、無意識にファイティングポーズをとっていた。
「やだぁ、ももったら何そのポーズ。めっちゃウケる〜」と私を指差して軽やかに笑う朝美。
オメーのそのクネクネダンスのほうがウケるんですけど!?
この人絶対、前世はタコかイカだ。軟体動物だ。もしくはワカメかもしれん。
そんなこんなで昼休み。
私は予想通り呼び出しをくらった。
ハイジの電話は、朝の騒動の時とは違うテンションで、私の末路を楽しんでる声だった。
わかってる。だって私……昨日言っちゃったし。
ジローさんに『舐める』宣言しちゃったしね!!
ああもう……足取りが重い。
今になってすごく後悔してる。
だって、言うしかなかったんだもん。
緊急事態だったんだもん。
ため息を50回ほど吐いたところで、あのキングダムに到着した。
私はぎょっとして、目を見開いてしまった。
なぜなら──
ジローさんが、すでに大教室の外でスタンバっていたからだ。
入り口の戸にもたれ、私を待っていた。
……そんなにも待ち遠しかったんだろうか。
そんなにも、舐めてほしいのジローさん!?
下を向いていた顔が上げられ、切れ長の目が私を捉える。
無表情だった綺麗な顔に、うっすら微笑が乗った。
言葉を、奪われてしまう。
あまりの彼の美しさに。
私の心臓が、王様の色香にドクンと大げさな音を立てた。
「こ、こんにちはジローさん」
ジローさんの美貌にあてられた私は、なんだかぎこちない挨拶をしてしまっていた。
ゆっくりと近づいてくる、ジローさん。
目の前まで来ると、無言で私の手を取り、屋上へ引っ張っていこうとした。
「わわっ、ちょ、ジローさん!!私、中に入ってみなさんに色々言うことが……!!」
ぐいぐい引かれながらも、私は懸命に訴えた。
教室にも入れてもらえないまま、一刻も待てないというように直行するジローさんが私の焦燥感を煽る。
心の準備ができてないのに。
いや、どれだけ時間をもらおうとも、ジローさんを“舐める”という行為に踏ん切りなんてつかないけども……!!
だから少しでも時間を稼ぎたくて、特に白鷹ファミリーに用なんてないけどそう言ってみた。
「アイツらに何言うことがあんだよ」
やっと口を開いてはくれたけど、無愛想な声色。
その間も私を強引に、屋上へ導いていくジローさん。
握られた手が、熱い。
ま、待って。ちょっと待って。直行はダメ。
何かワンクッション置いてジローさん!!
私に猶予をください!!
「昨日送ってくれたおにーさんと、小春を送ってくれたかっちゃんにお礼を……」
「……そうだった。昨日お前と、お前のオトモダチを俺から奪ったヤロウに、礼をしとこうと思ってたんだ。どいつだよ」
魔王ジローはそこで足を止め、冷や汗流れちゃうくらい綺麗な笑顔をこっちに向けてくれた。
そんなアブナイ笑みにも、不覚にもトキめいちゃう。色気ムンムンな魔王の顔を直視できない。
このままだと昨日の四人を口走るところだったが、ギリギリの理性で踏みとどまった。
「タマ、戻ろうぜ。“かっちゃん”ってのがどのヤロウか教えろよ」




