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「け、慧次だろ?──っぐ、!!」




田川の友達がケイジくんの名前を口にしたのと、ほぼ同時だった。



ケイジくんは彼の顔を片手でガッと掴み、鼻から下を覆った。

当然、口も塞がれ、田川の友達は声を上げることすらできない。




「……、っ」


「おい、馴れ馴れしく呼び捨てにしてんちゃうぞ」




手を剥がそうともがくものの、ケイジくんの鋭すぎる眼光に射抜かれ、田川の友達は怯えたように震え始めた。




「ケ、ケイジくん!!」




ヤバイ……気がする。



今のケイジくんは一触即発。

ちょっとしたことでも感情を爆発させてしまいそうな、危うさを孕んでる。


理由の見えない怒りが、彼の内側で蠢いている。



気づけば周囲には生徒たちが集まり、遠巻きにこちらを伺っていた。

巻き込まれないよう距離を取りながら、ひそひそと騒ぎ始めている。


田川と本城さんも、ケイジくんの豹変ぶりに言葉を失っていた。




「もっかい言ってみろ」


「──、」




言えるわけがない。

自分で相手の口を塞いでるのに。



ケイジくんはわかってて、無理難題を押しつけていた。愉しむように。



狂気じみた瞳に、ぞくりと背筋が震えた。




「お前らどけ!邪魔なんだよ!!」




どうにもできず立ち尽くしていると、人だかりを掻き分けてハイジが現れた。




「ケイジ、何してんだ!」




ケイジくんの腕を引き離し、ふたりの間に割って入る。


すっかり怯えきった田川の友達はガチガチと顎を鳴らし、立とうとしない。いや、立てないんだろう。

腰を抜かしたみたいだった。




「何やってんだお前……なんでこんなヤツ相手にしてんだよ」




理解できないといわんばかりに、眉をひそめるハイジ。



一度田川の友達を見下ろし、すぐに真剣な眼差しをケイジくんに突きつけた。



滅多に揃うことのない風切兄弟が、今──並んで立っている。



それだけで、周囲の視線を惹きつけるには十分だった。


一年生の廊下は瞬く間に野次馬で埋め尽くされ、多くの目がハイジとケイジくんへ集中していた。




「おい、ケイジ!!」


「……なにマジになっとんねんハイジ。ちょーっとフザけただけやん?」




厳しい顔つきのハイジに対して、ケイジくんはニカッと笑う。



同じ顔なのに、表情は対照的だった。



ぽん、とハイジの肩を叩き、ケイジくんは歩き出す。


途端に人だかりが左右に割れ、自然と彼のための通路ができた。

ケイジくんは堂々とそこを進み、自分の教室へ消えていった。



残されたのは、ハイジと私。



ハイジは遠ざかるケイジくんの背をぼんやり見つめていたけど、やがて視線をこちらに向けた。


ハイジは私がここにいるなんて思っていなかったのか一瞬驚いた表情をしたけど、すぐに何事もなかったかのように視線を逸らし、そのままケイジくんとは逆方向へ歩いていった。



緑と赤の双子がいなくなると、ざわめきを残しながらも人の群れは散っていく。

みんなそれぞれさっきの出来事を話題にして、興奮していた。



私はふと胸に手を当て、自分の鼓動がまだ微かに早いことに気づいた。


ずっとおバカなところしか見ていなかったから、油断していた。



──彼らが不良だということ。



突きつけられた一面に、動揺している自分がいた。



そして、私とケイジくんが同じクラスだということも、今日初めて知った。




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