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「!!」
私とハイジは、もっと目を点にした。
……待って。
普通に歩いていて、電柱にぶつかるかしら。
よそ見してたとかならわかるけど、ジローさん……ちゃんと前見てたよね。
私達は二人して口を閉ざし、ジローさんを眺めていた。
これは……もしかすると、もしかする。
電柱にぶつかっているというのにジローさんは、まだ前に進もうとしていた。
そのせいで何度も頭をゴンゴンとぶつけ、ずりずりと足だけがその場で動いてる。
変なの、と思ってしまった。
女の子は完全にドン引きだった。
私とハイジは顔を見合わせた。
お互いに真剣な目だった。
そう、私達の心はこの時一つだったのだ。
頷き合って、私達は駆けだした。
ハイジは女の子へ。私はジローさんへ。
まずハイジが女の子を口説き、ジローさんから気をそらす。
その間に私は、まだぶつかり続けているジローさんの体を、頑張って横にずらしてあげた。
見事な連携プレイだった。
ハイジは手慣れたもので、女の子はあっさり口説き落とされていた。
さっきのメモをヤツに手渡し、顔を赤らめている。
もうハイジにメロメロメロンちゃんになってしまったらしい。
不覚にも、やるじゃんとヤツを見直しそうになってしまった。だけど寸前で思いとどまった。
こうして、どうにか女の子の記憶にジローさんの仰天行動が刻まれるのを、私達は防ぐことができたのだった。
ずらしてあげたジローさんは、また歩き出していた。
彼の顔を見上げ、私は謎行動の原因を知る。
──閉じられた瞼。
この人は、寝ながら歩いていたのだ。
うつらうつらしながら、「うーむ……」とか何とかちっちゃく言ってる。
女の子を無視したわけじゃない。
ただ単に彼は、“寝ていた”だけなのだ。
純粋に、私はすごいと感動していた。
ここまでくると、もう超人の域だ。
この人、本当に人間なんだろうか。
宇宙人かなんかじゃないの?
やっぱりさっきハイジが言ったように、顔だけ星人という説もありえる。
とりあえず、起こしてあげないと。このままじゃ危険すぎる。
車にはねられたり、犬のうんこ踏んじゃったりするかもしれない。
「ジローさん、起きてください!敵が来てますよ!!」
と、何の敵かわかんないけどそう声をかけてみた。
すると、バチッと目を開けたジローさん。
あまりの目覚めのよさに、私のほうが驚いて思わず体がビクッとなった。
「どこだ敵は!?どれくらいだ!!っつーか……今は朝か昼か、夜かいつなんだ」とかなり焦った様子で、ジローさんはキョロキョロ周りを見渡している。
どう考えても朝だろうに、どんな感覚してるんだこの人……と心配になってしまった。
そして何の疑問も持たずに敵を探しちゃってるけど、いつも敵に狙われるような生活を送っているんだろうか。
っていうか、敵って何なんだ。
「敵はいませんよ、ジローさん」
落ち着きないジローさんに話しかけると「む……」と彼は視線を下げた。
ようやく隣にいる私に気づいたらしい。
「タマ、家出から帰ってきたのか。俺が恋しくなったのか」
私を見つけて、嬉しそうにするジローさん。
家出もしてないし『恋しくなった』という言葉に恥ずかしさを覚えつつも、私は素直にこくこくと頷いておいた。




