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自分の心に芽生え始めた感情に向き合うのが怖くて、今は考えたくなかった。
ジローさん、あの子にどういう態度をとるんだろう……。
昨日小春にも可愛いを連発してたしなぁ……あのキュートな女の子にも、コロッと落ちちゃうんじゃないだろうか。
……女嫌いって、もしかして女の子のタイプによって変わるとか?
小春みたいな小動物系のキュンキュンさせられちゃうような女の子は、平気だったりするの?
可愛い女の子には弱いの?
でもそうだとしたら、ハイジが私なんかに頼んでくるはずないよね……。
気になる。すっごい気になる。
「まさかあーいうタイプまでジローちゃんに惚れるとはなぁ。なんでジローちゃんばっかあんなモテるんだ?やっぱ顔か、顔だよな。顔だけ星人だもんな。それ以外モテる要素ねえもんな。けどなんでここまで差があるんだ、俺もそんなに顔は悪くねえと思うんだけどな」
と難しい顔をしながらハイジは、自分とジローさんとのモテ具合の違いに不満をグチグチと漏らしていた。
いやあんた……顔だけ星人て。
仮にも自分らのボスでしょーが。なんて言いぐさなんだい。
それに自分で顔を悪くないと言い切っちゃうとこも、ある意味尊敬しちゃうよ。
「私からしたら、あんたも顔だけ星人だけどね」
「そうだろ、俺はイケメンだろう」
ぼそっと呟いたつもりなのに地獄耳なハイジには届いていたらしく、さらにヤツを調子づけてしまった。
バカにされていることには気がついていなかったみたいなので、ほっておいた。
顔だけ星人ハイジが襲来してくる妄想を一瞬しかけたけど、顔だけのハイジがうようよと繁殖してる光景に身震いしたので、打ち切った。
そんなくだらないことよりも、私は告白まがいの行動に出た女の子とジローさんの成り行きを、ドキドキする鼓動を抑えながら見守っていた。
決死の表情の女の子。
こちらに背を見せているジローさんの顔は、窺えない。
時おり通り過ぎる通行人は、銀髪のジローさんに好奇の視線を向けるものの、目が合わないようにすぐに逸らしていく。
そして、少し離れた場所にいる私たち──というより、マリモ星人なハイジにも視線を向けては逸らす、の繰り返し。
ジローさん、女の子の連絡先受け取るの?どうしちゃうの!?
ごくりと唾を飲み込み、口をぎゅっと結ぶ。
一秒がやたら長く感じられた。
ハラハラしていると、不意にジローさんが動き出した。
いっそう緊張が高まる。
「お前可愛いからペットにしてやるよ」なんて言って受け取っちゃったりして……ペットを増やしちゃったりして……!!
そんなの……ヤダ!!
「……、」
のっそりと歩き出したジローさん。
……あれ?
ジローさんは、女の子の前を──通り過ぎてしまった。
何が起きたかわからず、ぱちぱちと瞬く女の子。
目が点になる、私とハイジ。
ジローさん、まさかのスルー!?
それはいくらなんでもヒドイんじゃ……!?
せめてお断りの一言くらい言ってあげないと、可哀相なのでは……!!
傷ついたのか、悲しそうに俯く女の子。
受け取ってほしくないとか思ってたけど、さすがにこれは……あの子が少し気の毒に思えてくる。
でも、話すのはおろか目を合わすのも無理なんだっけ……?
ほんとにスジガネ入りの女嫌いなんだな……
なんて、思っていたら。
ジローさんは、道の端の電柱に正面衝突した。




