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「いや~お前の父ちゃんと母ちゃんサイコーだな!」
「人の親をおもちゃにしないでくれる?」
なんちゃって外国人を演じたハイジは、まんまと騙された私の両親を気に入ったようで、ご機嫌だった。
あそこまで二人がマヌケだと思わなかった私は、けっこうショックだったりする。
「それによォ、お前父ちゃんそっくりじゃねーか!!母ちゃん美人なのになぁ。なんで母ちゃんに似なかったんだよお前。もったいねえ」
「知らないわよ!!神様に聞けば!?私だってできることならお母さんに似たかったわよ!!」
ニヤニヤと目障りな笑顔で私の顔を覗き込んでくるハイジを、手で払った。
そう、私はお父さん似であまりメリハリのない平凡な顔。
お母さんは私から見たって、なかなか綺麗だと思う。
若い頃はきっとモテモテだったろうに、なぜ地味なお父さんと結婚したのか時々疑問に思うことがあった。
そしてお兄ちゃんはお母さんに似たから、本当に血が繋がっているのか周りから疑われるくらいに、私たちは似ていない兄妹だった。
整った顔立ちのカッコいいお兄ちゃんと、はっきりしないぼやっとした顔の地味な私。
コンプレックスを抱いて悩むこともあったけれど、お兄ちゃんも両親も、私に優しくしてくれたから。
ひがんだり妬んだり、そんな感情は芽生えなかった。
「ももちゃんはももちゃんでカワイ~よん。怒った顔もタヌキみたいで魅力的!」といちいち腹の立つ発言を繰り返すハイジを、私は徹底無視していた。
歩き慣れた通学路も、ハイジが横にいると初めて通るような感覚に陥る。
通行人からじろじろと視線を浴びるのは、この緑頭のせいだ。
ハイジはまったく気にしていないけど、注目されるのが苦手な私には居心地悪くてしょうがなかった。
さっきから、ヤツはしきりにあくびをして眠そうに目を擦っている。
「そんなに眠いんなら別に来なくてよかったのに。徹夜でもしてたわけ?」
「まぁ徹夜っていや徹夜だな。女が寝かしてくんねえから頑張りすぎちゃってよ~」
「……あっそ」
聞いた私がバカだった。
エロキングジュニアだけあって、コイツからもいやらしいオーラが滲み出ている。
こういう話題に不慣れな私をおちょくろうとしている笑みが、神経を逆撫でしてくる。
「にしても、お前も純ジョーなフリして大胆な女だな」
「は?」
「ジローちゃんのナニを舐めるって?」
ハイジの口から出た言葉に、固まる。
そうだ。
コイツが家に来た衝撃で忘れてた。
昨日の『舐める』発言を!!!
あんな、あんな大勢の人の前で私はなんてことを……
ハイジにまで伝わってるなんて……!!
「あーあ、俺も言われてみてーな女に。舐めさせてくださいってなぁ」
「ヤダやめてよ、朝っぱらから!それに舐めさせてなんて言ってない!!舐めますって言っ……じゃなくて!!あれはそうするしかなかったんだもん!そうしなきゃジローさんに小春を助け……わあぁぁあ!!!」
「お、おい!どこ行くんだよ!!」
正気を失った私は走って逃げ、近くの公園に飛び込む。
気づけばジャングルジムのてっぺんにいた。
スマホを取り出し、『舐める 意味』で検索をする。
【舐める: 舌の先で撫でるように触れる 】
失神しかけた。
しし、舌の先で撫でるように触れる!?ジローさんを!!??
追いついたハイジがギリギリでキャッチしてくれたおかげで、ジャングルジムから転落死は免れたけど、ある意味死んだ、と思った。
「イイ歳してこんなとこ登ってんじゃねえよサルかお前は」と、呆れ顔のハイジ。
「サル……見ザル言わザル聞かザル……な、舐めザルとかいないのかな」
「いてたまるか」
ヤツに強引にジャングルジムから引きずり下ろされる。
しまいには、登校中の小学生たちに一部始終を見られ、
「なー、アレこーこーせーだろー?」
「あんなオトナにはなりたくねーよなー」
「すげー、アタマが緑のにーちゃんいるぞ!」
「ブロッコリーだ」
「いやピーマンだろ」
「ネギだって」
「マリモ星人」
「弁当に入ってる緑のギザギザだ」
と、ハイジは緑野菜代表みたいになってた。




