3
「ほ、ほらお父さん!早く行かないと仕事に遅れちゃうよ!?」
とにかく、ハイジの前からお父さん達を遠ざけることが先決!!
これ以上ヤツのペースに巻き込まれては危険だ!!
「お、おおそうだったな。じゃあ行ってくるよ」
私が急かすとお父さんは腕時計に視線を落とし、足早に家の門を出て行った。
すれ違い様に「いってらっしゃいませお義父さま」とハイジがぺこりと頭を下げたのに対し、「え!あ、君、日本語うまいなぁ」と感心していた。
いい加減日本人だということに、気づいてほしかった。
「お義母さま初めまして。僕、風切灰次といいます。娘さんとは結婚を前提にお付き合いさせていただいてます」
なっ……
なぁに言い出すんだコイツはああああ!!
さっきまで号泣しながら笑っていたくせに、もうハイジはやけにキメた顔つきでビッと立ち、私のお母さんに迷惑極まりない自己紹介をしだしやがった。
「バ、バカ!!なんてこと言うのよあんた!!全っ然面白くないんだけど!?笑えないわ、笑えないジョークだわ!!」
「おい、俺はいたって真面目だぞ。だってな~、お前の初体験は俺なんだもんな~。責任取らねえといけねーだろ~?」
ムカつく挑発顔で、さらりと言ってのけたハイジ。
どうする?どうやってこの緑の悪魔を殺す?
絞殺?撲殺?毒殺?
その時パッと頭に思い浮かべたのは、ハイジをどんな方法で息の根止めてやろうかということだけだった。
それだけが、私の頭を占めていた。
「ちょっともも……どういうこと!?お母さん聞いてないんだけど!なに、あんた外国人の彼氏がいたの!?まだ子供のくせに何ヤっちゃってんのよ!?避妊はしてるんでしょうね!?国際結婚!?あんたアルプスに住むの!?そんなとこでやっていけるの!?ちゃんと連絡取れるのかしら!!おじいさんと仲良くできるの!?お母さんは反対よ、こっちに住むっていうんなら考えてもいいけどね!!」
ハイジの言葉を真に受けちゃったお母さんに、一気に責められる。
私はどこからツッコんでいいかわからず、弁解は後ですることにした。
「ハイジはれっきとした日本人よ!!コイツの言うことは、九割方ウソだから!!信じないで!!それより、私も早く用意しないと遅刻しちゃうから!家の中に戻ろ!」
お母さんは「そうなの?スイス流のジョークだったの?」とか何とかボケた発言をしていたけど、めんどくさかったのでそこは流した。
お母さんの背中を押しながら、無理やり家の中へ連れていく。
「もも、あんま待たせんなよ。俺は待たされんのが大キライなんだからよ」
私も家に入ろうとしたのに、背後からかけられたハイジの言葉に振り向かざるを得なかった。
っていうかコイツ、なんでこんなに偉そうなの!?
「は!?待たなくていいよ、先行きなよ!」
「お前なぁ、何のために俺がわざわざここまで来てやったと思ってんだよ。この俺が、お前と一緒に学校に行ってやるって言ってんだよ。おわかり?」
なんで!?
私、なぜにハイジと一緒に登校しなくちゃいけないの!?どうして緑のヤンキーと……!!
「や、やだ!あんたと学校行くなんて、目立ちすぎる!私、あんたのファンダムからリンチ受けたくないもん!!」
「なんだファンダムって。いいから早く着替えてこい。そのくまさんパジャマから制服にな。あと顔もちゃんと洗えよ。目やについてんぞ。髪もボサボサだ、クシでとけよ。俺は身なりもちゃんとしねえ女と歩くのはイヤだ」
ハイジの呆れ返った声に、ハッとして自分の格好に目を向ければ、私は朝起きたまんまの姿だった。
無防備な姿をヤツの前で晒してしまったことに嫌悪して突っ立っていると、「ほれ、遅刻したくねえんだろ優等生ちゃん」と家の中に押し込まれ、バタンとドアを閉められた。




