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ああ……私、まだ夢を見ているんだ。夢の中で夢を見るなんて、相当疲れてるんだな。
だって、ハイジが私の家に来るはずがない。知っているわけがない。
「も、もも!これはどういうことなんだ、お前の知り合いなのか!?」
くわっと目を見開き、お父さんは鬼気迫る形相で私の肩を掴んできた。
そのリアルな感触に、私はこれが夢ではないことを悟った。
「あんた……外国人と知り合いなの!?学校のお友達!?派手ね、ものすごく派手ね!!緑色の髪の外国人もいるのね!!あたし初めて見たわ!何人なの!?」
お母さんまでもが、混乱していた。
ピアスに腰パン、限界まで着崩された制服に高い身長……そして極めつけのド派手な緑髪。
そんなハイジに度肝を抜かれたらしく、お母さんはヤツを異国の人だと思い込んでいた。
「ドウモ~。ボク、ハイジッテイイマ~ス」
わたわたと慌てているお父さんとお母さんに、ハイジはニコニコしながら片言で話し、外国人のフリをしていた。
「あ、あなた!!ハイジですって!!アルプスよ、スイス人よ!!」
「スイス!?スイス語ってどんなんだった!?“こんにちは”は何て言うんだ!?」
家の玄関先で、こっちが心配になるくらい二人は取り乱している。
ハイジを名前から勝手にスイス人だと決めつけ、どうにか挨拶くらいはしようと頑張っていた。
よく聞けば、普通に日本語喋ってるのに……!!
よぉく見てみれば、日本人なのに……!!
「タクアンポリポーリ」
と、ニセスイス人ハイジが一言。
最上級のニッコリ笑顔で、私の両親に言い放った。
コ、コイツ……何考えてんだ!!何のつもりだ!バカじゃないの!?
だいたい、そんな幼稚な冗談に誰がひっかか──
「タ、タクアンポリポーリ!!」
………………
…………
私の両親は見事にひっかかっていた。
二人揃って、うさん臭さ満点なハイジが口にした『タクアンポリポーリ』をスイスの挨拶だと信じ込み、背筋をぴーんと伸ばしてハイジに返していた。
二人の表情は、真剣だった。
私は泣きそうだった。
「……、ふはっ」
そんな子供でも騙されないような嘘に、ちゃっかりひっかかっちゃった両親を、妙な顔で眺めていたハイジ。
ついに吹き出し、お腹を抱えて座り込むとげらげら笑っていた。
涙まで流して大爆笑している。
私は頭が真っ白になった。
両親を押し退けハイジに駆け寄ると、ヤツの首をぎゅうぎゅう絞めていた。
「貴様ああああ!!私の親をからかうためにこんな朝早くから来やがったのか、アァ!?どんな暇人だてめえは!!コケみたいな髪しやがってコラ、アルプスに埋めてやろうか!!」
自分でも何口走ってんのかワケわからんかったけど、目の前の緑に殺意がもりもりでとりあえず手に力を込めていた。
「うははは!わり、ももちゃ……ははは、そう怒んないでぶははは!!!」と、なおもヤツは笑い続けていた。
当の私の両親はといえば、
「あなた、外国人さんがウケてるわよ!私達何かおかしいこと言ったのかしら」
「ははっ、国際的ジョークが通じたみたいだね。ついに世界デビューだね!!」
と、殺気バリバリの私の後ろで和やかにしていた。
朝から大声で騒いでいたら、隣のおばちゃんまでもが家から出てきて不思議そうに私達を一歩引いて見ている。
「まあ、華やかな異人さん!」と、おばちゃんもハイジを発見するとお母さん達と同じ反応をしていた。
そんなおばちゃんに気づくとハイジは片手をあげ、例の「タクアンポリポーリ」の挨拶をおばちゃんにまでしたのだった。
まさかおばちゃんまでこんな馬鹿げたジョークにひっかかるまい……。
と油断している私の前で、おばちゃんは緊張しながら「タクアンボリボーリ」とちょっと間違いながら挨拶を返していた。
魂が抜けていきそうだった。
全身の力が抜けた私はハイジの首を絞めることを諦め、遠い世界に旅立っていた。
ひーひー言いながら笑いの途絶えないハイジは「ぎゃはははは!ふ、腹筋が……!!」とごろごろ転がり、息をするのも苦しそうだ。
コイツ笑い死ぬんじゃないかと思ったけど、その方がヤツも本望だろうと納得し、私はハイジがこのまま笑い死にするのを祈った。




