初めての××
その日、疲れていた私はいつもより早く布団に潜り込んで、すぐに眠りに落ちていった。
『タマ』
……あれ、ジローさん?
暗闇の中に、ぼんやりと浮かび上がるジローさん。
なぜか彼は白い光に包まれていた。
どこなんだろう、ここは。
どうして私、こんなところにいるんだろう。
『もうお前は用無しだ』
へ?洋ナシ?
次は私、果物になっちゃうの!?
『お前のトモダチの方が可愛いから、俺はこっちをペットにする』
そう言うジローさんの横には、小春がいた。
ジローさんは小春の肩を抱いて、ニヤリと笑う。
二人は私に背を向けて、暗闇の奥へと歩き出し、遠ざかっていった。
残された私はどんどん深い闇へと飲み込まれていく。
『ま、待ってジローさん!!!置いていかないで……!!』
叫んだ声も虚しく闇にかき消され、二人は見えなくなってしまった。
私はもがきながらも、奈落の底へと落ちていくしかなかった。
「うわああああ!!!!」
自分の出した大声で目が覚め、私は急いで飛び起きた。
心臓が尋常じゃなく早鐘を打っていて、呼吸も乱れていた。
変な汗が、ぐっしょりと体を濡らしている。
「い、今の……夢……?」
落ち着きを取り戻し、辺りを見回す。
窓に目を向ければ、カーテン越しに差し込んでくる柔らかな日の光。
いつの間にか朝だった。
鼓動がおさまるのを待って、自分の部屋からリビングへと下りた。
な、なんだろあの夢……なんであんな夢見たんだろう……。
変なの……。
「おはよ……」
「あら、今日はあんた早いじゃない。……って、なんて顔してんの。いつにも増してヒドイわよ」
キッチンで朝食の準備をしていたお母さんは私の顔を見るなり、眉をひそめた。
「自分の娘になんて失礼なこと言うのよ」
朝から嫌な夢を見たせいで、確かに私の顔には疲労がありありと浮かんでいたと思う。
ため息をつきながらテーブルにつくと、向かいに座っていたお父さんはすでに朝食を食べ終わっていた。
「もも、何か悩みがあるのならお父さんに打ち明けてごらん?」
コーヒーを飲みながら、穏やかに目を細めるお父さん。
お父さんは、優しい。
おっとりしているお父さんは、テキパキして気の強いお母さんの尻に敷かれている。
「ううん、別に何でもないよ」
心配かけないようお父さんに笑って、首を横に振った。
「そうか?遠慮しなくていいんだぞ」
コーヒーの最後の一口を飲み干すと、お父さんはリビングの時計を確認した。
「おっと、もうこんな時間か」と立ち上がるとスーツの上着を羽織り、鞄を持ってお父さんは玄関に向かう。
私が「いってらっしゃい」と言うと「ああ、いってきます」と微笑んでくれた。
そしてお母さんもお父さんを見送りに、玄関に一緒についていった。
パンをかじりながらも、私の胸の中はモヤモヤと晴れなくてスッキリしない。
ジローさんのペットなんて、ごめんだなんて思っていたのに……今朝の夢みたいになったら
ちょっぴり寂しくなっちゃうのは、どうして?
「はぁ……」
何度目かわからないため息を、ついた時だった。
「うわ、な、なんだ君は!?我が家に何の用があるんだ!!」
玄関の方から、お父さんの声が聞こえた。
混乱したような、悲鳴にも似た声──
普段のお父さんからは考えられない、叫びだった。
何事かと思いパンを皿に置いて、玄関に向かって駆け出す。
「お父さんどうしたの!!?」
お父さんとお母さんはこちらに背中を向けて、並んで立っている。
玄関のドアは、開け放されていた。
朝の綺麗な空気の中、私の家の前に誰かがいる。
お父さんとお母さんはその“誰か”を目にして、固まっているようだった。
訳がわからず、二人の間から私も顔を覗かせて、“誰か”の正体を探ってみた。
「グッモーニ~ン。ピーチ姫ちゃん、お迎えにあがりましたよん」
太陽を浴びて、キラキラ輝く鮮やかな緑の髪。
そこには──
マヌケ面の私にニコッと笑ってひらひらと手を振る、制服姿のハイジが立っていた。




