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無理じゃん。女嫌い治す以前の問題じゃん。
ハイジ、残念だったね。ジローさんは男の人が好きなんだって。
さすがにそれは数多の変化記録を持つ私にも、どうにもできないよ。
何なのこの気持ちは……どん底に突き落とされたような、這い上がれない真っ暗な気持ち。
そりゃあ人それぞれなんだし同性を好きだとしても、とやかく言うことじゃない。
でも、ジローさんがそうだということが、イヤだ。
受け入れられない。
なんで?
自分でもわかんない。
私、なんでこんなにショックなんだろう。
「可愛いことには違いねえ」
と、後に続くジローさんの言葉。
精神的に大ダメージを負った私に、キングはまったくもって趣旨の異なる発言をしてくれた。
どうやらさっきの「違わねえよ」は「小春が可愛いことに違いはないよ」という意味だったらしい。
……やられた。
相手はジローさんじゃないか。
これくらいのこと、読んでおかないと先がもたないっていうのに、してやられた……!!
よほどジローさんは小春にメロメロらしい。
確かに小春は可愛い。くりくりのおめめも、ピンクのほっぺたもふっくらした唇もふわふわの髪も。
守ってあげたくなる保護欲を、そそられまくる。
私でもキュンキュンしちゃうのに、男の人の目からみたら爆発寸前なんじゃないだろうか。
ジローさんも、そういう目で小春を見ているんだろうか。あのジローさんが。
なんでかな……ジローさんの“同性愛疑惑”以上に、胸がチクチクするのはなぜ?ざわめくのは?
どうして私……こんな、複雑な気持ちになるの?
もしも……もしもジローさんが小春を好きだって言うんなら、私の役目は終わりなんじゃないの?
恋しちゃったの?ジローさん。
女嫌いどこいっちゃったの?
それとも、小春も何かに似てたり?
けど……小春はヤンキー軍団のなかに入れられちゃったら、怯えまくって神経すり減っちゃうんじゃないだろうか。
ただでさえ男の子に慣れてないのに、こんな強烈な人達と小春は一緒にいられるんだろうか。
……その点、私って思ったよりも神経図太いのかもしれない。
不良は苦手とか怖いとかなんだかんだ言ったって、今じゃ何となく馴染んできてしまっている。白鷹ファミリーに。
私、このままでいいの!?気がついたら私もヤンキーになっちゃってたりして!?
でも髪は何色にしたらいいの!?
まだ誰も染めてない色……紫とか?
ダメだ、おばあちゃんみたいだ!!
「それじゃ行きましょうか、アネゴ」
ジローさん達の仲間入りしちゃった時の髪色について真剣に悩んでいると、おにーさん達に声をかけられ一旦思考を止めた。
え、行くってどこに?アネゴって何?イナゴの仲間?それになんで敬語なの?
ぼけっとしていると、三人のおにーさんにぐるりと囲まれた。
な、何も見えん!壁みたいだ!
「お前ら後は頼むな。ジローの大事なコらしいからな、ちゃんと送り届けてやってくれ」
「ハイ!!」
飛野さんはおにーさん達にそう言い残して、ジローさんを連れて校舎の方へと歩いていった。
「俺の犬をどこに連れてくんだよ。俺が連れて帰るのに邪魔すんじゃねえよ」とだだっ子ジローさんは飛野さんに抵抗していたけれど、一発げんこつをもらって強引に引っ張られていった。
どうやら飛野さんがおにーさん達を呼んだのは、私達を家まで送らせるためだったらしい。
「じゃ、俺達も行こっか。また変なヤツに狙われたら危ないしね、送るよ」
「え!?あ、あの……」
オシャレヤンキーかっちゃんは小春を送っていくようだ。急に話しかけられた小春は、おろおろして赤面していた。
「俺、雲雀克也っていうから。よろしく」
「あ、わた、私は卯月小春です……よ、よろしくお願いします」
「そんなに緊張しないでよ、それにタメだから気楽に話して」
爽やかな笑いを零すかっちゃん。
男の子にあまり免疫のない小春は、半分パニック。
この二人、とっても可愛らしい。
究極に可愛い者同士の組み合わせって、素晴らしいな。
微笑ましくてこっちまで和むというか、ほんわかしてしまう。
「ももちゃん、また明日ね。気をつけて帰ってね」
「うん、小春もね。かっちゃん小春をよろしくね」
「オッケー……って、かっちゃんって俺!?いつの間に!?」
しまった、勝手に心の中でかっちゃんって呼んでたから、ついついそのまま呼んじゃった。まだそんな話したことないのに。
でもかっちゃんの方が親しみやすい気がするし、いいよね。
戸惑いつつもかっちゃんと一緒に、小春は帰っていった。かっちゃんは女の子の扱いに慣れてそうだし、小春にも笑顔が見える。
たぶん……かっちゃんみたいな可愛いヤンキーなら、小春もそこまで怖がらないんじゃないかな。
案外いい組み合わせかもしれない。
「アネゴ、俺達も行きましょう!さあさあさあ!!」
「ひえええ!!」
こ、怖ええええ!!
なんでだ、なんで小春はかっちゃん一人なのに私にはコワモテのおにーさん方が三人もついているんだ!!
この差はなんだ!
しかもアネゴって何だよおおお!!!
そして私は大柄なおにーさん達にまるで拉致されるような形で、帰路につくことになった。
夕暮れの街を、へんてこな組み合わせの四人が練り歩く。
おにーさん達は周囲にメンチをきりまくっていた。
誰も私達に目を合わそうとはせず、避けられていた。
どう見てもヤンキーに脅迫されているようにしか見えない私は、家に着くまで終始俯いたままだった。




