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「お前がこんなくだらねえことに顔見せるだけで、どれだけのヤツらに影響を与えると思ってる。周りに、どれだけの被害が出ると思ってる」
厳しい声色だった。表情も同じくらいに。
それでも、ジローさんは飛野さんを見ようとはしなかった。無言で、彼の話を受け止めていた。
また、不良界の話なのかな。
タイガの言っていた“ルール”も、飛野さんの話に繋がるんだろうか。
ジローさんがケンカしちゃうことって……そんなに重大だったの?
沢山の人が、どうにかなっちゃうの?
被害って……何?
私、ジローさんにお願いしちゃダメだったのかな。もしかして、とんでもないことしてしまったのかな。
自分がしたことの大きさが見当もつかなくて、急に不安になってきた。
「飛野さん、退院早々説教かよ。ジジくさくなったな」
「ジロー、お前なぁ……」
顔だけを動かし、ジローさんは飛野さんを横目で捉える。
うんざりとしたその声に、飛野さんは拍子抜けしたようだった。
「くだらなくねえから、ここにいるんだろ。動かなきゃならねえ時だってあるだろ」
そこにいたのは──おさんぽのジローさんじゃ、なかった。
白鷹次郎だった。
真剣な眼差しで、飛野さんに強い意志を示す。
キングの威厳が垣間見えたような気が、した。
ジローさん、本気で考えてくれたんですか?
くだらないことじゃないって、ジローさんは思ってくれたんですか?
本当は行っちゃいけないってわかってて、助けてくれたの……?
私がジローさんじゃないといけないって、お願いしたから……?
思い上がりかもしれない。
そうじゃないのかも、しれない。
だとしても……
私と小春を救ってくれたのは、事実だから。
ジローさん、ありがとう。
今のジローさんは、紛れもなく──
ヒーローです。
この時私の目には、ジローさんは最高にカッコよく映っていた。
夕日を浴びて黄金色と溶け合う銀髪も、綺麗な横顔も一枚の絵のようで──
心を奪われている自分が、いた。
「へぇ……お前が決めたのか。お前自身が」
感嘆の声を漏らす飛野さん。
単純に、嬉しそうに顔を綻ばしていた。
ジローさんが自分の意思で行動したこと。
それが飛野さんの中では、重要な意味を持つのかもしれない。
飛野さんはニヤリと不敵な笑みを浮かべ、私たちに視線をよこす。
その後、ジローさんの肩に腕を回し、一方的に肩を組んだ。
「俺がいねえ間に色々あったみたいだな。後でゆっくり聞かせてくれよ」
「イヤだ。俺は寝るんだ」
ウザそうにするジローさんに、飛野さんは「生意気なとこも変わってねえな」とか「無愛想だ」「敬語を使え」「俺を敬え」「クソ生意気なクソガキめ」「生きてんのか」「実は人間の皮被ったナマケモノだろ」「このものぐさタロウ……じゃねえ、ものぐさジローが」だとか散々罵っていた。
そ、そんな!!
どうしよう……この美麗なお顔が実は作り物で、ジローさんの背中にはファスナーがあったりしたらどうしよう!!
「ふ~今日も一日頑張った」とか言って汗を拭うナマケモノが、『ジローさん』の皮を脱いで中から出てきたりしたらどうしよう……!!
ジローさんの着ぐるみって何着あるの!?毎日換えてるの!?洗濯とかしちゃってるの!?
「だいたい、あんた来んのが遅えんだよ。もっと早く来いよ。今来ても意味ねえだろ」
飛野さんの数々の暴言を華麗にスルーしたジローさんは、もう本当にどうでもよさそうに飛野さんを受け流していた。
よかった、ジローさんは普通だった。
「はっはっは、バレたか」とか言って皮を脱ぎ捨てなくてよかった……!!
“白鷹次郎、ナマケモノ疑惑”が晴れて、私は胸を撫で下ろした。




