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「おはよ、ももちゃん」
「小春……おはよ」
小春の笑顔を見たら、ほっとした。
私には小春がいてくれる。それだけで憂鬱も、だいぶと軽くなっていた。
「ももちゃん……気にしなくていいよ。ももちゃんは何にも悪いことしてないんだからね!」
ああ、やっぱり小春の耳にも入ってたんだ。
元気づけようとしてくれる彼女に、私は笑顔を作ってみせる。
「うん……ありがとね。私は全然平気だから!」
普通に振る舞わなきゃ。また小春が泣いちゃわないように。
そう思いながら、私は何とか普段通り過ごしていた。
──そして、あっという間に時間は経ち。
“あいつ”と一方的に約束させられた昼休みが、とうとう来てしまった。
でも私は行かない。行きたくなんかない。
『俺がお前の人生変えてやる』
あれってどういう意味!?私、悪の道に引きずり込まれたくなんてないし!!
まだ純情乙女な女子高生でいたいし!!
もうハイジと会いたくない。
何されるか、恐ろしくて考えたくもなかった。
だいたい昨日初めて会ったばっかりなのに、私の人生勝手に変えられてたまるかと思った。
小春と教室でお弁当を食べながら、彼女の話に相づちを打ちつつも、頭の中は緑のハイジでいっぱいだった。
『こねェと意地でも探し出してさらうからな!!』
……まさか、まさかね。
たかが私ごときに、そこまでするはずがない。
そんな時だった。
「ももー!!どこだーー!!」
悪魔の声が、遠くから聞こえてきました。
「きゃー!!ハイジくんだよ!!」
「うわっ、俺、実物初めて見た!!」
「早く、写真!動画も!!」
急に色めきだつ教室。
な、何!?何が起こってるの!?
クラスメイト達は一斉に廊下に出て行った。
女子も男子も、やたら興奮している。
どうやら私の教室だけではないらしく、フロア全体が騒がしい。
一年の階は、一気にお祭り騒ぎみたいになっていた。
「も、ももちゃん!ハイジくんだって!!」
小春もお箸を置き、瞳をキラキラさせて立ち上がる。
廊下に出たいのか、なんだかうずうずしていた。
なぜ?
「小春……ハイジ知ってるの?」
「何言ってるのももちゃん、知ってるよぉ!超有名じゃん、この学校じゃ知らない人なんていないよ!」
えええ!そ、そうなの!?あいつそんなに有名なの!?
むしろ、私はなんで知らなかったの!?
「ハイジくん滅多に教室に顔出さないから、ここに来るなんてレアなんだよ!ほら、ももちゃん、見に行こう?」
そう言うとワクワクした顔で小春は私の手を引いて、みんなと同じく廊下に出ようと歩き出した。
いや、待って……この状況はダメよ!
こ、こんな芸能人並みの扱いを受けてるハイジが、私を探してるだなんてバレたら……
もう普通の生活が、送れなくなる。
田川への告白以上に、痛い視線が私を襲うことになる!!
そ、それだけは勘弁してください……。
「待って、小春!私急用が……!」
聞こえていないのか、小春はぐいぐい私を引っ張っていく。
この小さな体のどこにそんな力が……!!




