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「放せっつってんだよ!!」
魁帝の男は飛野さんの手を振り払おうと、小春の腕を放した。
しめた、チャンスだ!
「小春、こっち!」
その隙を狙って魁帝の男から小春を自分のもとに引き寄せ、ジローさんの後ろにささっと隠れる。
「大丈夫?怪我は?変なこと、されてないよね?」
ようやく小春を取り戻して、すっと気持ちが楽になった。安心して、心が軽くなった。
「うん、私は大丈夫。ももちゃん……ありがと」
緊迫状態から解放されて、小春の顔にやっと笑顔が戻った。
私を癒してくれる、可愛い笑顔が。
まだ男達からの恐怖の余韻が残っているのか少し控えめな笑みだったけど、それでもよかった。
けれどまだ終わってない。
私は飛野さんへと視線を向け、成り行きを見守っていた。
「威勢だけはいいみたいだな」
魁帝の男が睨んでくるのをものともせず、飛野さんは余裕たっぷりの口調だった。
そして男の頭から手を離した──と思ったら、次には飛野さんは男の腹に拳を一発打ち込んでいた。
流れるような動作と、速さだった。
そのまま膝からガクンと崩れる男。
道路には大きな男が三人、這いつくばっている。
この人も……強いんだ。
私と小春は簡単に魁帝を蹴散らしてしまった飛野さんとジローさんに圧倒されて、何も言えなかった。
飛野さんは男達を一瞥した後、ジローさんに顔を向ける。
「……よ、久しぶりだなジロー。つーかお前……魁帝相手に何遊んでんだよ」
「コイツらが俺に用があるっていうから」
「それはわかってる。ウチんとこまでわざわざ来てんなら、それしかねえだろうからな。で、なんでお前が素直に出てくるんだって聞いてんだよ」
「俺の犬のトモダチをイジめたからだよ」
「は?」
ジローさんのセリフに対し、飛野さんの眉間に皺が刻まれる。
こ、この人誰にでも言っちゃうのねそういうこと!!
先輩にも「俺の犬」発言しちゃうのね!すごい度胸ねジローさん!
内心ドギマギしていると、こっちを見た飛野さんと目が合った。
ちょっと身構えてしまう。
想像と、全然違った飛野さん。
どんな奇抜な髪の色なのかと思いきや、なんと一番地味に黒だった。
マントヒヒでもなかった。
ジローさんもけっこう身長高いけど、飛野さんのほうがもう少し高い。185はありそうだ。
それに……飛野さんはヤンキーっていう雰囲気じゃない。
もしもハイジから情報を仕入れてなければ、ジローさん達のお仲間なんて思わなかっただろう。
黒髪短髪で、スラッとしつつも引き締まった感じの体格。スポーツマンのような。
顔立ちもキリッと凛々しい眉が印象的な、爽やかな男前さんだった。
なんでだろう……ジローさんを始め、なんでみんなイケメン揃いなんだろう。
やはりイケメンの周りには、イケメンが集まるんだろうか。
そんな中に放り込まれているギリギリ人間レベルな私は、ますます肩身が狭くなる思いだった。
「もしかしてお前……このコ達のために?」
飛野さんは黒い瞳で私と小春を捉えたまま、ジローさんに問いかけた。
その声色は、意外だと言いたそうに思えた。
「可愛いだろ?」
「!!」
自慢げに飛野さんに答える、ジローさん。
飛野さんは大きく目を見張って、ピシッと石になっていた。
「か、可愛い……!?ジロー、お前女を『可愛い』って言ったのか!?」
「飛野さん、耳遠くなったな。歳なんだなもう」
ジローさんがさらっととても失礼な言葉を吐いたのも、飛野さんには届いてなかったようだ。
飛野さんは驚愕の二文字を最大限に表情に張りつけて、私達とジローさんを懸命に交互に見やっていた。
その狼狽ぶりに、私は何だか彼が不憫に思えてしまった。
ジローさんの「可愛い」の後には、「タマに似て」が続くんですよ、と教えてあげたかった。




