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今になって、後悔している自分がいた。
ジローさんを連れてきてしまったこと。
わかってる、小春のためにはそうするしかなかった。
それにジローさんは、こいつらには負けない。
力に屈することはないし、怪我を負うこともない。
じゃあ、いいんじゃないの?
小春も助かって、ジローさんも無傷で。魁帝の男も撃退することができて。
けど、人を殴るということ……人に“暴力”をふるう場面を初めて間近で目にしてしまって、与えられる衝撃が大きすぎた。
相手が魁帝だったとしても、苦しむ人間を前にして表情一つ変えないジローさんが……まるで別人のようで、急に怖くなった。
「白鷹、動くんじゃねえ!!ちょっとでも動いたら、コイツの腕を折るぞ」
「小春!」
最後の一人……小春を捕まえている男が、ジローさんに脅しをかけた。
「や、ももちゃん……!!」
がたがたと恐怖する小春の腕を掴み、男はニヤリと口の端を吊り上げる。
それに反して腰が引けているように見えるのは、この男もジローさんを恐れているのかもしれない。
「ジ、ジローさん……小春が……!どうしよう……!!」
おろおろするしかない私はどうしようもなく無力で。結局ジローさんに助けを求めるしかなく、彼の顔を窺ってみた。
ジローさんの目は、小春に釘付けだった。
……何だろう、ジローさんはぴたりと静止している。彼だけ時間が止まっているみたいに。
瞬きさえ、していない。
「……ジロー、さん?」
「アレか。お前のトモダチ」
「はい、そうですけど……どうかしました?」
焦点は小春に合わせたまま、ジローさんはぼんやりとした声で私に尋ねた。
おかしい。何かがおかしい。
“人間の女の子”である小春をじーっと凝視しているジローさんは、変だ。
顔は赤くならないし、それどころか興味津々な目をしている。好奇心に溢れている!
ちょっと!何ごと!?
もしかしてもしかする!?
ジローさん……小春に一目惚れ!!?
ふらりと、ジローさんが一歩足を踏み出した。
虫が花の蜜に引き寄せられるように、小春という可憐な花にミツバチジローさんがふらふら寄っていく。
これは……一体何が起こってるの!?
やっぱり女嫌い治ってたの?それで小春の可愛さにノックアウトされちゃったの!?
わかんない、何がどうなってるのか理解不能……!!
「お、おい!動くなって言ってんだろうが!!」
「きゃっ……!!」
そうだった。
忠告されたにも関わらずジローさんがミツバチジローになっちゃったから、男は小春の腕を強く捻った。
「やめてよ!!」
ヒヤリと、冷たいものが背を走る。
痛そうに眉を寄せる小春を見て、ビタッとジローさんは停止した。
「ああっ!てめえ何てことすんだ!!いたいけな動物をイジめるんじゃねえ!!」
大変なショックを受けて慌てふためいているジローさんは、男に文句を言っていた。
……いたいけな動物……。
何だったんだろう、今彼の口から出たこの言葉は。
空耳?私の気のせい?
そういうことにしておこう。
ものすご~く嫌な予感がするから、そうしておこう……!!
多分、男も小春も心の中でそう思ってる。
声には出さないものの、表情に思いっきり出ている!!
“何言ってんのこの人”と……!!
「オンナを盾にしねえとタンカも切れねえなら、ケンカなんて仕掛けんじゃねえよ」
それは、本当に突然だった。
聞き覚えのない声が耳に入ってきたと思ったら、小春を捕らえている魁帝の男の背後に誰かが立っていた。
すごく背の高い、黒髪の男の人。
魁帝の男よりも、頭一つ分は高い。
うちの学校の制服を、適度に着崩している。
ということは、私達と同じ学校の人だ。
機嫌の悪そうな低い声で魁帝の男を威嚇すると、躊躇することなくその人は魁帝の男の頭を、片手でガッと鷲掴みにした。
「なっ……放せよてめえ!」とたじろぐ魁帝の男。
「……飛野さん」
固まる私の横で、ジローさんがぼそっと呟いた。
黒髪の人にその目を向けたまま。
飛野、さん?
もしかしてこの人が……ハイジ達が言っていた、飛野冬也……?




