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「小春!!」
ジローさんよりも少し速く魁帝のヤツらのところへ向かい、校門を出て僅かに離れた場所にいる三人組に私は駆け寄った。
道路の端で男達に囲まれている小春は可哀相なくらい小さくなって震えて、下を向いていた。
声が届いたのか、小春は弾かれたように顔を上げ「ももちゃん!」と泣きそうな表情で、私の名前を呼んだ。
「お前、マジで連れてきたのか……白鷹を」
一人の男が私の後ろをじっと見つめて、うわ言のように声を絞り出した。
背後に視線を向けてみれば、ぬっとジローさんが立っていた。
無愛想な顔で、魁帝のヤツらをその目に映している。
「あんた達が呼んでこいって言ったんでしょ?ちゃんとお願い聞いたんだから、小春を返してよ!!」
男達を睨みつけて詰め寄るも、ヤツらは小春を解放してはくれなかった。
「ダメだ、お前らにはまだ付き合ってもらう」
「は!?何によ!」
「白鷹、場所変えようぜ。ついてこいよ」
憎たらしい笑みを口元に作って、男は黙っているジローさんに挑戦的な眼差しを向けた。
どうやらどこかへ移動するつもりらしく、私達も連れて行かれるみたいだ。
こいつらの身勝手さに、段々腹が立ってきた。
ジローさんを連れてくるだけじゃなく、訳のわからないところにまで同行しなきゃいけないなんて、そこまでする義務なんかない。
ムカムカしていると、
「やだ」
頭の上から不意に、ジローさんのやる気なさそうな一言が、降ってきた。
……いや、行きたくない気持ちはわかる。もちろん断るに決まってるだろう。
だけども!「やだ」ってあんた!小学生じゃないんだから!!
もっとこう、「この俺にそんな口きいてタダですむと思ってんのか」とかカッコいいセリフを吐いてくれるかと思ったら、「やだ」って!
超簡単な断り方だ!たった二文字だ!!
しかもなんか傲慢ささえ感じる!!
「え、お、お前今『やだ』って言ったのか?」
「うん」
ほら、魁帝の男も戸惑い気味じゃんよ!
まさか白鷹次郎が「やだ」なんてだだっ子みたいな返しをしてくるなんて、夢にも思わなかったでしょうよ!
「てめえフザけんなよ!!」
「……どーでもいいから早くしてくんねえ?眠ィんだけど」
凄んでくる男にも、ジローさんはあくびをして、ぼーっとした目でめんどくさそうに答える。
魁帝のヤツもかなり迫力あるけれど、やはりそこはキングなだけあり、ジローさんはマイペースだった。
「へっ、どーせビビってんだろ。全然強そうにゃ見えねえしな。ウワサ通りのおキレイなお顔なことで」
魁帝の男は完全にジローさんを舐め……じゃない、ナメきっていた。
そしていきなりジローさんの胸ぐらを乱暴に掴んだけれど、彼は微動だにしない。
次の瞬間、ジローさんは男に頭突きをくらわした。
反動で体を反り返らせ、男はふらふらと後ろによろめき、そのまま道路に倒れてしまった。
かなり痛そうだった。
同情してしまうくらいに、男の鼻と口からはけっこうな量の血が出ている。
ほんとにあっという間で、ジローさん以外の全員がただその光景を眺めることしかできなかった。
瞬殺されてしまった仲間の姿に触発されたのか、違う男がジローさんに殴りかかる。
ジローさんはそれを難なくかわすと、男のがら空きの腹に膝蹴りをめり込ませた。
「っ、は……!」
口から反吐を吐いて、男は苦しそうに膝を道路に着いて蹲っている。
余りの痛さに、声も出せないようで冷や汗が滲んでいた。
私と小春、そして後一人残った男もみんな……言葉も出ず、ジローさんと男達の格の違いに息を飲むしかなかった。
タイガの言った通りだった。
ジローさんは、強い。
魁帝のヤツらなんか、全く相手になってない。
何よりも、彼の飄々とした態度に、こういった場面を幾つもくぐり抜けてきたんだろうと思わされた。
慣れているんだろう、と。
でも……私はそんなジローさんを、怖いと感じてしまった。
目の前で痛みに悶える男達の苦痛に歪んだ顔や、血にまみれた顔に恐怖を覚える。
彼らを無感情に見下ろすジローさんは……見たことのない、ジローさんだった。
これが、不良達が狙う“白鷹次郎”なんだと……知ってしまった。




