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「抱き心地いいな、お前」



私の肩に顔を乗せて、そんなことを耳元でジローさんが呟くもんだから。



ドキドキが最高潮に達して、頭がくらくらしてきた。



「あ、あのっ!ひひひひひ、」


「ひひ?」


「マントヒヒ……じゃなくて!ひ、飛野さんってどんな人なんですか!?」



パニくって、自分でも何言ってるかわかんなかった。


とにかく何でもいいからジローさんに話をふらなければと思い、咄嗟にさっき話題になっていた“飛野冬也”のことを聞いてみた。



「飛野さんはマントヒヒじゃねーよ」


「わかってますってば!ちょっと間違えただけです!ジローさんのお友達、なんですか?」


「お友達って何だよ、飛野さんは飛野さんだよ」


「……怖い人?」


「すぐ迷子になる人」



ええっ!それどんな人!?


すぐ迷子になるって……子供じゃないんだから。


ジローさんに聞いたのが間違いだった。全然飛野さんの人物像がつかめない。


むしろすぐ迷子になっちゃうマントヒヒが飛野さんのイメージとして、私の頭にインプットされる。



うろうろと迷っているマントヒヒを想像していると、突然ほっぺたをジローさんがぺろっと舐めてきた。



「ぎゃあああ!舐め、……今、舐めた!!」


「いちいちキャンキャン騒ぐなよ」


「キャンキャンって……!この前舐めないって約束したばっかじゃないですか!破った!ジローさんの約束破り!!えっち!」


「えっちじゃねえし。味見しただけだよ」


「あ、味見!?」


「お前のこと『桃』って言うじゃねえか、他の奴らが。お前も自分で言ってたじゃねえか」


「……で、本当に桃かどうか確かめようと?」


「ウソついたのお前だろ。全然甘くねえよ」



顔をしかめるキング。


出ましたジローワールド!私の思考回路はショート寸前!!



ねぇジローさん……お願いですから、まともな会話をしましょう……。






「ももちゃん、明日から放課後残って文化祭の準備するみたいだよ」



授業が終わり、小春と一緒に昇降口を出ると、彼女は私ににこっと笑いかけてきた。



「そっか、もうすぐだもんね文化祭」


「うん、初めてだね!どんな感じなんだろ、楽しみ~!!ももちゃん一緒にまわろうね!!」


「うん、私も楽しみ!人いっぱい来るのかなぁ」



初めて迎える文化祭に、小春と私は胸を躍らせていた。



高校生になって、憧れだった『文化祭』が体験できる。華やかなイメージに期待を膨らませて、私達は笑い合っていた。


ちなみに私のクラスの出し物は、焼きそばと唐揚げ。

お祭りの屋台の、定番メニューだ。



そういえば、ハイジやケイジくんのクラスは何するんだろう。ジローさんやトラさんは?


っていうかあの人達、文化祭に参加するんだろうか。

学校行事に喜んで顔出すようなタイプじゃないもんね……。


やっぱサボるのかな。



あれやこれやと小春と文化祭の話に花を咲かせ、学校を出た時だった。



「こんちは~。なぁおねーさん達さぁ……ここの生徒だよねぇ?俺らのお願い、聞いてくんない?」



私と小春の前に、いきなり三人組の男が立ちふさがって、強制的に足を止めさせられた。



派手に染められた髪、ダラしなく着崩された制服、ギラギラした目つきといやらしい笑みの口元。



……不良だ。ハイジ達よりも、ほんの少しばかりタチの悪そうな。


それに、この制服……魁帝(かいてい)高校だ。



生徒の九割がヤンキーの、男子校。


問題ばかり起こして、手がつけられず無法地帯になってるって聞いた。



魁帝にだけは関わるなって、みんなが噂してる。



「な、何なんですか?私達急いでるんで。どいてください」



怖い……手が汗ばんで、声も震えそうになる。



隣の小春にちらっと視線をやれば、彼女は怯えきってしまって青ざめて泣きそうな顔をしていた。


私がしっかりしなきゃ……冷静に、平常心を保って。

むちゃくちゃ怖いけど、言いなりになったらおしまいだ。



普段からジローさん達ヤンキー軍団と接しているからか、こういった人達に対する耐性が知らずうちに身に付いていたのかもしれない。




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