また、恋をする
出会うまでは、“ヤバい”とみんなに噂される危険な人なんだと思っていた、ジローさん。
あの初めてのお散歩の日以来、私の中で彼の印象は大分と覆ってしまった。
まだ彼のほんの少しの部分しか私は触れていないんだろうけれど、興味を持ち始めているのは確かだった。
ジローさんを一言で表すなら、変人以外の何者でもない。
どうして彼が不良をまとめているのか、世界の七不思議よりそっちの方が私は気になる。
そしてそんなジローさんについていっている白鷹軍団のおにーさん達のことも、疑問だった。
何より、ジローさんのペットを承諾しちゃった私が最大の謎。
あの人の癒しの手に誘惑されて負けちゃった自分の弱さに、後になって落ち込んだ。
これから待ち受けている犬人生に、ため息は尽きない。
「ごめん小春、ちょっと行ってくるね」
「うん……ももちゃん、大丈夫?」
昼休み、呼び出しをくらった私は小春にそう告げて席を立った。
心配そうなつぶらな瞳に、「大丈夫だよ」と明るく笑ってみせた。
あれから小春には、ハイジ達とは和解して仲良くなったと一応納得してもらって、時々彼らのとこに行かなければならないと説明した。
このことを秘密にしておいてほしい、ということも。
それはもう驚いていた小春だったけど、そう言っておかないとたびたび失踪していては彼女も事情がわからず、不安になっちゃうだろうから。
「なんで!?」とか「まさかももちゃんも、そういう道に走っちゃうんじゃ……」なんておろおろしていた小春。
私も一瞬ヤンキーになった姿を、自分で想像してみた。
うんこ座りで首輪着けてタバコをスパーっと吸いながら、ガンを飛ばす。
『おうおう見てんじゃねえよ、てめえも犬にしてやろうか!』
……うん、ないな。
「間違っても絶対ヤンキーにはならないよ」と、彼女に念を押しておいた。
だけどいつまで隠し通せるだろう。
それに小春に隠し事をしている後ろめたさもあって、どこかやり切れない気分になってしまう。
っていうか……私、いつ彼らから解放されるんだろうか。
「そういえばさ、飛野さん退院したってよ。クロちゃん知ってた?」
キングダムで例のソファーに座っている、私とジローさん。
向かいにはハイジとトラさん。ケイジくんは、今日はいなかった。
ハイジはトラさんのことを、クロちゃんと呼んでいる。
黒羽だからだろうけど、いっぱい呼び名があってややこしいなと思った。普通に「タイガ」って呼ぶ人もいるし。
まぁトラなんて呼ぶのは、ジローさんと私だけなんだけれど。
「マジかよ!やっとか。けっこう長えこと入院してたなあの人。ガッコー来てんの?」
「いや、まだだろ。来てたら顔見せに来ると思うし」
「っつーかあの人ダブんじゃねえか?出席足りてんのかよ」
「ほとんど夏休みの期間だったから、いけんじゃね?」
ジローさんにさっきから色んな首輪を着けられては外され、まさに着せ替え人形状態でうんざりしていた私は、二人の会話に耳を傾けていた。
……ヒノ?
一体誰なんだろう。
っていうか人の出席心配するより、自分の出席はどうなのよトラさん。あんた学校来てても、授業受けてんのかい。
トラさんだけじゃなく、ここにいる人達全員大丈夫なんだろうか。私の知らないところで、ちゃんと授業に出ていたりするのかしら。
ジローさんが授業受けてる姿なんて、これっぽっちも想像できない。
でもジローさんとトラさんが二年生ってことは進級できてるわけだから、一年の時は出てたのかな。
と、ぼやっとあれこれ考えていると「こっちのがいいな」と、ジローさんが私の首に赤いリボンを結んで満足そうに眺めていた。
「ねぇ飛野さんって誰?」
何となく彼らの会話のネタになっている人が気になって、二人に尋ねてみた。
「お前ほんっと何も知らねーんだな。飛野 冬也。ここの三年だよ」
ハイジが呆れ果てたような目つきで、投げやりに教えてくれた。




