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「よし、オメーらそろそろ出動だ。行け!ピーチ姫を救出してこい!!」
えっちになっちゃったジローさんを前に泣きそうになっていたら、突然意味不明なかけ声が下の方から響いてきた。
そして次の瞬間目にした光景に、我が目を疑った。
緑と赤が、どこからともなく飛び出てきたのだ。
それはもう見事なくらい、ばいーんと。下から、飛んできた。
そのまま彼らはケダモノジローさんに、飛びかかった。
そっからはもう、全てが私の目にはスロー再生されていた。
緑と赤コンビに上からのし掛かられて、コンクリートの床にべちゃっと這いつくばったジローさん。
たぶん、顔面を強打したんじゃないだろうか。
「ハイジ、縄や!早く!!」
「おう、きつくしとくぞ。この人暴れ出したら手つけられねーからな」
刑事ドラマみたいに取り押さえられたジローさんの体を、ハイジとケイジくんがどこからか持ってきた縄でぐるぐると縛って拘束した。
素晴らしいコンビネーションだった。
流れるような作業で、あっという間にジローさんはお縄になったのだ。
双子って、すごい。
体を起こされたジローさんの額から、ドクドクと血が流れていた。
「……ハイジ、ケイジ。こりゃどういうことだ」
お縄になってあぐらをかいている、ジローさん。
おでこからの出血が、顔面を赤く染めている。
なんとも情けない格好であってもキングは威厳を損なわず、震え上がりそうな低い声で双子に問いかけた。
この状態でも、やはり彼はキングだった。
その眼光だけで、彼の前にひれ伏してしまいそうになる。
「あんたな、しょっぱなから暴走しすぎだ!!」
「ジローちゃん、物事には順序ってもんがあってやなぁ……特に女の子はそこらへん、気ィつかってあげなあかんで」
キングのオーラにもハイジとケイジくんは怯むことなく、それどころか説教くらわしていた。
今はキングが、自由を奪われているからだろう。
けれどジローさんは「女じゃなくてタマだろうが」と、平気で言い放っていた。
「俺の犬をしつけて何が悪いんだよ」とまで、吐き捨てていた。悪びれる様子はなかった。
本気でめまいがした。
この人はいたって真面目だったのだ。
彼の目を通せば、私は「人間の女」ではなく「イヌ科の犬」なのだ。
目の前で何が起きたのか把握できず茫然としていると、正面にハイジがヤンキー座りでしゃがみ込んできた。
「悪かったな、もも……っつーかよ、なんてもん着けられてんだお前は」
バツが悪そうな顔をしつつも、なぜかほんのり頬を赤くするハイジ。
ヤツは私の首に装着されているハートチャームの首輪をつまんで、しげしげと観察していた。恥ずかしそうに。
ハイジにそんな態度とられると、急に私も恥ずかしくなってきた。
そうだ……私、なに首輪着けちゃってんだろ。
おかしいじゃん……冷静になったら、おかしいじゃんよこの格好!!
またしてもジローマジックにやられてた……!!
けれど後悔よりも先に、今さらになって恐怖がじわじわと込み上げてきた。
たとえ変人奇人なジローさんであっても、男の人だから。あんな風に迫られるのは初めてで、純粋に怖かった。
逆らえない力が、怖いと思った。




