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幾つか、あった。



これって……



「気になる?」



ジローさんの見透かしたような声に、少し私は肩を揺らしてしまった。



私を射抜く彼の眼差しは、真剣だった。


彼の目に映る私の表情は、強張っていたと思う。



「コレ、根性焼きっての。タバコの火を皮膚に押しつけんだよ」



……そうだと、わかってた。彼の口から聞いて、確信に変わった。



もちろんやられたことなんてないけど、跡が残るくらいだからその痛みも熱さも、半端じゃないんだろう。



だけど……ジローさんなのに?不良の王様なのに、誰かにやられたの?




妙な違和感が、拭えない。



「ここだけじゃねえよ、全身にある。それに切られて縫った跡もな。ツギハギだらけの人形みてえだって、自分の体見るたび思う」



ジローさんは笑って、そう言った。

だけどその笑いがどこか自嘲気味だと、思った。


その目はすべてを諦めたように、空虚だった。




空は青いのに。穏やかな、昼下がりなのに。



青空が霞むほどに、ジローさんの陰の差した瞳が、私の心を曇らせた。




心臓が、嫌な意味で速く脈打っている。



私の、知らない世界。



ジローさんが歩んできた過去が、私の住む世界とは全然違うことくらいわかってる。



今こうして、誰もがその名を語るようになったのは、その影で私なんかじゃ想像もできないような……体中が傷だらけになるような、痛みの伴う過去があったんだろうか。



急激に、ジローさんが遠く感じた。



いや、もともと近かったわけじゃない。だって私はこの人のことを、何一つ知らない。


名前とか学年とか、不良の頭だとか、彼を飾るようなことしか知らないんだから。



ジローさんが“女嫌い”になった理由も、そういった過去に通じるんだろうか。



何かを嫌いになるってことは、必ず理由があるはず。


嫌いになるんだから、決していい思い出ではないんだろう。



過去に女の人と……“何か”あったんだろう。



でも、彼に聞けるわけなかった。



傷のことも女嫌いの訳も、それは触れちゃいけないことのような気がした。


誰にだって、触れてほしくないことの一つや二つ、必ずあるものだから。



それに私は……ジローさんにそんなことを聞けるほどの距離にはいない。




そよ風が、目にかかりそうなジローさんの前髪を揺らしている。


彼の色素の薄い茶色の瞳は、空を一心に見つめていた。



「ここ、よく来るんですか?」



私も爽快な空を見上げながら、控えめに尋ねてみた。



「時々な。ここが一番、空が近えから」



ジローさんの落ち着いた声が、胸に染みこむ。




そうだな、と思った。



周りに邪魔な建物がないから、視界いっぱいに広がる青空。



どこまでも、続いていく。



だから……ハイジも、ここにいたんだろうか。



あの時、こうやって空を眺めていたんだろうか。


っていうか……どんな思いで私の一世一代の告白をヤツは聞いていたんだろう。



私もぼんやりしていると、隣でジローさんがのそっと上半身を起こした。


こっちに顔を向ける彼の表情は、やっぱり何の感情も見えない。



何だろう……私変なこと言った!?


ドキドキしていると、微かにジローさんの口が開いた。



私はその口からどんなセリフが出てくるのかと、息が詰まりそうな思いで待った。



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