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「あの、先輩……私、教室にいたいです」
「あ?」
ビクビクしながら白鷹先輩に声をかけると、眉間に皺を寄せられた。
超怖いんですが……。
「いや、あのですね、外に出ると危険というか……」
「何が」
私が、なんですけど……伝わらないだろうな……。
先輩は私の訴えなんかどうでもいいというように、グイグイ私の手を引っ張って歩いていく。
どうやら彼の向かっている先は、屋上らしい。
「あんなとこじゃ狭くて走り回ったりできねェだろ」
階段を上りながら、先輩が呟いた。
は、走り回る!?なんで走り回らないといけないの!?鬼ごっこでもするの!?私とジローさんが!?
「タマは走んの好きだったから」
……ああ、犬としてね。
この人は頭の中で、私がベロを出しながら嬉しそうに走る姿を想像してるのかしら。
それは二足歩行!?それとも四足歩行!?
とか、そんなどうでもいいことまで突っこんでしまう。
度重なるミラクル発言に脱力した私は、言い返すのをやめた。
ジローさんに何を言ったところでジロー節で返されることぐらい、わかっているから。
屋上へ出る扉を開ければ、眩いギラギラした太陽の光が目に飛び込んできた。
空は真っ青で、快晴。いい天気だった。
寒くはなく、むしろ夏の名残で少しばかり暑さが勝つけれど、不快なほどじゃなかった。
そして幸いなことに、誰もいなかった。
それが一番の救いだった。
北遥の番長、白鷹次郎と首輪を着けた冴えない女。
こんなヘンテコリンな組み合わせを見られたら、どんな噂がたつか、たまったもんじゃない。
先輩は私の手を離すと、屋上の出っ張りの上に登り始めた。
ハイジと初めて会った時、アイツがいた場所。
私はどうしたらいいかわからず、そこを見上げる。
登りきってしまった先輩の姿が見えなくなって、一人残されてしまった私。
何なんだろう。
こんなとこに連れてきといて、ほったらかし?
なんて無責任な飼い主!!
「あの!」
出っ張りの上に向かって、私は声をかけた。
返事は、ない。
「私も先輩のとこ行っていいですか?」
数秒経ってから「狭いから走れねーぞ」と、かったるそうな声が降ってきた。
無邪気に走り回る気は最初っからないんで、と心の中で返事しといた。
だけど、私どうして先輩のとこに行こうと思ったんだろう。どんな人かよくわからないのに。この学校のキングなのに。
でも一人でいたって、することがない。
勝手に逃亡しちゃったら、後からステキな報復が待っているかもしれないし。
それに……不思議と、白鷹先輩を危険だとは思わなかった。
私が世間知らずなだけで甘いのかもしれないけど、よくわからないからこそ、知りたい気持ちもあった。
変人だと思っている彼の、常識的な部分を発見したいのもあったかもしれない。
そしたら安心できるような、そんな気がした。
幅の狭い細いハシゴはすごく登りにくくて、手こずっている私にスッと上から手が差し伸べられた。
顔を上げれば、無表情な白鷹先輩。
改めて彼の手に触れるのは何だか戸惑いがあったけれど、せっかくの好意を無視するのも失礼だし、私は先輩の手に掴まった。
引っ張り上げられて、やっとこさ登った私は「ありがとうございます」とお礼を言ったものの、先輩はもう仰向けに寝転んでいた。
日本人に銀髪っていうのは合わないと思うけれど、日本人離れした顔立ちの先輩にはよく似合ってる。
それに銀だけじゃなく、黒髪も混ざってるからそれがいいのかもしれない。
ごろんと寝転がっている先輩の横で、三角座りな私。
ただぼうっと、先輩は空を眺めていた。
あまり口数の多くない先輩。会話なんて、ない。
体を通り過ぎていくそよ風が、気持ちよかった。
「あの……私、そんなにタマちゃんに似てますか?」
沈黙に耐えかねて、私は先輩に質問してみた。




