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私が渡した首輪を一瞥すると白鷹先輩は満足そうに目を細めて、こっちにちょっと近寄ってきた。


反射的に私が横にずれると、先輩はもっとずりずり寄ってくる。


そしてまた私が、ずれていく。



「なんで逃げんの?」


「いや……なんでこっち来るんですか」


「なんで行ったらいけねぇんだよ」



質問に質問で返さないでほしい。しかもあんまり会話になっていない。



そんな感じの堂々巡りで、私はついにソファーの端っこに追い詰められてしまった。



もう逃げ場がない。



迫ってくる、超絶美形。


他の女の子ならまさにヨダレものの、このシチュエーション。


時代の波にノっちゃってる子なら、逃げるどころか先輩を押し倒しちゃうんじゃないだろうか。



私にはそんな荒技できないし、したくもない。



向かいのソファーに視線を移せば、まだ黒羽先輩はスマホを触っている。でも時々こっちをちら見しているから、たまに目が合う。


すぐに先輩はスマホに視線を戻すものの、アレはフェイクだ。



本当は私達のことが、気になっているんだろう。



「タマ、髪の毛邪魔。まとめて持ってて」


「え、はい」



急に白鷹先輩がそんなことを言い出すから、よく考えもせず私は自分の髪を束ねて手で持ち上げた。



すると白鷹先輩の手が、私の首に伸びてきた。



ぎゃあ!ち、近い!!めちゃくちゃ顔近いですジローさん!!



睫毛長い!お肌キレイ!全部がキレイ!!


ちょっとくらいその美を私に恵んでくれたら、私も一人前の人間になれるのに……!!



なんてことを思っていたら、いつの間にやら私の首には何かがぶら下がっていた。



「似合ってんじゃね」



白鷹先輩のほんのり嬉しそうな声に、げんなりしながら首元に手を持っていくと、思った通りの物がちゃっかり装着されていた。



さっき私が選んだ、ハートチャームの首輪だった。



普通、男が女の首に着けてあげるものってネックレスとかじゃないの?と、ジローさんと世間とのズレをまざまざと痛感した。





……首輪を着けられたのなんて、初めてだ。

世の中、首輪を着けた経験のある女の子って何人ぐらいいるんだろう。



ジローさんはずーっと、私を見ている。



この人は他のヤンキーさん達に比べると、表情が少ない。

大口開けて笑ってるとこなんて見たことないし、そんなの想像もできない。



そんな先輩は今、ほんの少しだけ機嫌が良さそうだ。



白鷹先輩だけじゃなかった。

この教室にいる全員の視線が、私に集まっている。



さっきまで空を眺めて星座の話をしてたくせに。

ちっとも笑ってくれなかったくせに!



「あのよォ……女に首輪ってのは、なんかアレ、だよな……」



妙な空気のなかでぽつりと漏らした、黒羽先輩。



「アレってなに?」


「だからよ、こう……何となくクるもんがあるよな」



何言ってるんだろうこの人。


怪しげに黒羽先輩を見つめていると、「人を、変態を見るような目で見てくんじゃねえよ」と言われた。



変態を見てるんですけど。




「タマ、散歩行くぞ」




立ち上がると私の手を引いて、大教室の出口へ歩き出す白鷹先輩。



「うおっ、ジローが女と手ェつないでんぞオイ!!どうなってんだ、すげえなタマ!!お前マジに犬だったのかよ!!」



二足歩行の犬がいるなら、ぜひ教えていただきたい。



大はしゃぎな黒羽先輩。

そして他の人達もどやどやと、うるさかった。


この人達はいちいち大げさな気がするんだけどな……。



……って。私、手、つないでる。

白鷹先輩と、おててをつないでいる。



うわわわわダメダメダメ!!なんでこんな自然につないじゃってんですかジローさん!!


あんた私とハイジが同じことしたら、超慌ててたじゃないですかっ!!なんですかその変わり様は!?



先輩をここまでさせるほどに、私はタマに似ているのね……。


人類であることを、全否定されたような気分だった。



それに散歩って何だろ……どこ行く気なんだろ。



っていうかヤバいじゃん。白鷹先輩と一緒に学校内なんかうろついたら、目立ちまくる!!



頭をよぎるのは、天井から吊されて女子に槍でグッサグッサと突かれる自分の姿だった。



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